食事も終わって少しゆっくりして、掃除再開。と言っても、多人数で取り組んでる今は一人でやってた時よりスピードも桁違いだ。

嫌々やるかと思えばそうでもなく、皆さん楽しそうにやってくれているから私としてもお願いしやすい。
特に短刀たちの雑巾掛けレースは見物だった。一緒になって和泉守もやってたけど、身体の大きさの差があるからだろうか?すぐにずっこけてベシャッと俯せになった姿は一生忘れません。断言します。絶対に忘れません。


各部屋と廊下は終了し、残るは太刀にお願いしている本丸修理と、鍛練場と畑。また分担して進めるとしよう。



「和泉守、堀川、加州、大和守。四人は鍛練場をお願いします」


「あいよ」


「わかった」


「使えない竹刀は麻縄で縛って纏めておいてください。新しい竹刀はボックスに届いていますので」


「わかりました!新しいものに置き換えておきます」


「んじゃ、始めますかねー」


「主君、僕らは何を?」


「皆さんは畑を耕して野菜の種を蒔いてほしいです。種は小夜に渡しておきますね」


「うん…」


「あるじさまはなにをするんですか?」


「私はお風呂の用意をしてきます。泥だらけになってしまうでしょう?」



既に埃まみれなのだからスッキリしたいだろう。私だって入りたいもの。



「あとはお夕飯の仕度ですね」



終わる頃には夕方になっているだろうし全員分のご飯も用意しなければ。

多人数になったらなったで、日常生活で必要なことも人数分増える。鈴城家の養子になってから雑用していた時も大変だった。

特に料理に関しては麗華様の好き嫌いが多すぎて作るのに一苦労。ピーマン、人参、茄子、トマト…なんて人が嫌いなものトップに入ってくる野菜から、辛すぎるだの甘すぎるだのケチつけてくるもんだから流石にこめかみがピクッと動くのが自分でもわかった。

結果的にどうしたかと言うと、麗華様の好みの味付けに加え、嫌いな野菜を全部ペースト状にしてハンバーグやカレーに混ぜてやりました。本人は全く気づいていませんでしたので大成功でした。

…内心?大の大人が好き嫌いすんなと毒吐いておりましたよ。


話が逸れたけれど、あの麗華様の舌を騙せたのだから、もし好き嫌いのある刀剣がいたとしても何とかなりそうな気がする。味の濃い薄いは自分たちでどうにかしてもらうとしよう。



「それなら後で燭台切の旦那にも声を掛けておこう。今までずっと家事こなしてたのは旦那だったからな」


「そういえば、お昼の時もテキパキとご飯を炊いていましたね。政宗公の影響だと言っていましたが」


「それもあるだろうが、実際旦那自身も料理好きだからな。頼めば茶菓子だって張り切って作ってくれるんじゃねぇか?」


「確かに!「甘いものが欲しいよねぇ…」ってぼやいてたの聞いたことある!」


「鯰尾はモノマネが得意なんですね」


「そっくりだな…」


「おかしつくるならおまんじゅうがたべたいです!」


「あ、ボクも!」


「では光忠に聞いて後日作るとしましょう。…そろそろ次の仕事をしないと終わらなくなってしまいます。薬研、すみませんが指示出しをお願いしても良いですか?私もこちらが終わり次第手伝いに行きますので」


「大丈夫だって大将。こっちの人手は十分足りてんだから、大将は他の仕事に専念してくれて良いぜ」



…薬研、本当に短刀ですか?他の短刀たちに比べると…いえ、比べちゃいけませんね。すみません。



「ではお言葉に甘えて」


「おう、任せてくれや。そんじゃ、畑行くぞ」


「はーい」


「あるじさま!いってきます!」


「いってらっしゃい」



ぶんぶんと手を振る今剣。手を振り返すと目を丸くしたけれど、次の瞬間には隣にいた小夜の手も掴み満面の笑みで更に大きく手を振った。
ああ、それ以上振ったらもげてしまいますよ、小夜の手が。

姿が見えなくなったところで手を下ろすと背後に一つの気配が降り立った。



「…お仕事ご苦労様、こんのすけ」


「クロ様もご苦労様です。お食事は摂られたようですね」



良かったですと嫌味っぽく言いながら肩に飛び乗ったこんのすけ。落としてやろうかと思ったけどやめておいた。動物虐待はいけません。



「お見事です」


「?」


「就任されてまだ数日だというのに、黒本丸をもうここまで修復なされるとは」



初めて来た時の景色が嘘のようだと目を細めるこんのすけに倣って私も視線を庭に移す。
あんなにも暗雲が立ち込めて息苦しかったというのに、今では心地良い風が吹き、草木が揺られ、花の上を蝶が踊るように舞っている。自分でもここまで変わるとは思わなかった。



「刀剣たちも懐いていらっしゃいますし、貴女様のお力は本物ですね」


「私だけの力じゃ無い。皆、自分に素直になっただけ。私はその後押しをしたに過ぎないよ」



たった一歩を踏み出せない皆の背を、ほんの少し押してあげただけ。彼らにまだ生きたいという気持ちがあったから、私もそのお手伝いができただけなのだ。



「ですが、審神者や政府に怒りを覚えていた刀剣が再び主従契約を結んでくれるというのは、本当に極稀なことなのですよ。クロ様はもっとご自分に誇りを持つべきです」


「彼らの主としての誇りならあるけどね」


「ご自分には?」


「私はまだまだ孵化したてのヒヨコだよ」


「まったく…」



ご自分に厳し過ぎますと溜め息を吐くこんのすけを撫でると頬擦りしてきた。モフモフモフモフあったかい。



「あ、それでですね。真黒様に現状を報告しましたところ上に掛け合ってくださいまして、黒本丸修復成功ということで謝礼金が贈られることになりました」


「謝礼金?お礼になるの、これ」


「本来ならば黒本丸は政府が手をつけられる状態であれば取り壊しになるものなのです。ですがこの本丸は危険だったが故に手をつけられず、審神者に頼らざるを得なかった。審神者に″お願い″したのですから″お礼″という形になります」



…そっか。これって″お願い″だったのか。「黒本丸に赴いて頂きます」って言われたからてっきり″命令″だと思ってた。



「お礼で貰えるのはお金だけ?」


「まぁ…そうですね。何か欲しいものでも?」



貰えるものは貰っておこうとは思うけれど、お金か…。そりゃ生きてく上でお金は大事だ。どれだけくれるのかはわからないけど、今は別に欲しいものがある。

なので、ちょっと頼んでみることにしよう。

首を傾げるこんのすけを余所に、私は徐に携帯鏡に番号を書いた。



 

ALICE+