本丸の現状を見たこんのすけは、
「この分なら明日にでも仕事に取り掛かれそうですね」
と言って、また政府に戻って行った。報告書等の書類を持ってきてくれるらしい。
ボックスに送るのかと思いきや、書類は大事な物が多いため手渡しする決まりになってるのだそうだ。
毎度行き来する羽目になって大変だね、こんのすけ。油揚げ多めに常備しておこう。
お風呂にお湯を張り、お夕飯はどうしようかと考えながら厨に向かい、そこに存在するのは明らかに違うような…でもここにあって当然の大きい冷蔵庫を開ける。
…本丸って昔を思わせる造りなのに、こういったところにはちゃんと現代の物もあるから何というか…。いえ、便利で良いんですけどもね?だったら竈じゃなくてコンロが欲しいですよね?
因みに言うと、水はどういうわけか井戸と水道がどっちもあり、厠は水洗トイレ。お風呂は現代風の銭湯のようで、大勢で入れるように蛇口や桶がたくさんある。
電気はどうやって通ってるのかわからないけれど、蛍光灯も行灯も燭台もある。恐らく審神者も刀剣男士も使いやすいようにと置かれたのだろう。
こう考えるとガスが無いと…?でもそれならお湯はどうやって沸いて…?
……考えてたら埒が明きませんね、やめましょう。
冷蔵庫の中身はボックスに届いていた物で溢れているけれど、人数分を考えると種類はそんなにたくさんあるわけでもない。
傷みやすい物は…魚か。鮎があるから塩焼きにでもしましょうか。野菜は大根、人参、里芋、牛蒡、長葱…。あ、豚肉がありますね。豚汁でも作りますか。ご飯もまた炊かないと…。
「お疲れ様です、光忠」
「っ!?お、つかれさ…ま…。びっくりしたぁ〜」
振り返りもせずに声を掛けたからだろう。冷蔵庫を閉めながら振り向くと、ちょうど厨に入ってきた光忠が動悸を抑えようと胸に手を置いている。
「驚かせてすみません」
「はは、大丈夫だけど本当に驚いたよ。主は背中に目があるんだね」
「なんで知ってるんですか?」
「えっ!?」
「冗談です」
「…………」
「…………」
「…………………ぷはっ!」
「?」
軽い冗談のつもりで言ったら、光忠は数秒固まった後突然吹き出し、お腹を抱えて笑った。
「ははははっ!僕が冗談言ったつもりだったのに冗談で返されるなんて…!主も冗談言えるんだねっ」
「それくらい言えますよ。私が言うのは意外らしくて今まで笑われたことありませんでしたが」
「ふふ、僕は意外だから笑えたよ。あー、涙出てきた…っ」
左目の目尻を拭いながらまだクスクスと笑う光忠。こんなに笑われたのは初めてだ。楽しそうでなによりです。
「はぁ、久しぶりにこんなに笑った。ありがとう主」
「どういたしまして。ここへは薬研に言われて?」
「うん。ご飯作るんでしょ?刀剣が二十五人に主だから二十六人分。一人でやるのは骨が折れるからね」
「今まではずっと光忠が?」
「基本的に僕は毎日食事当番って決まってて、非番だった何人かが手伝ってくれてた感じかな」
それでも毎日厨に立ってたのか。朝昼夜の食事を作って食器を洗っての繰り返し。
…ということは光忠はあまり戦闘経験が無い?
「前任の主は欲にまみれた人でね、出陣は偏った面子しか行ってなかったんだ。特に粟田口の子なんかは夜戦ばかりだったし、戦いの嫌いな江雪さんはこの本丸で初めて顕現した太刀だったらしくて、出陣の繰り返しだったみたい」
「嫌なことを思い出させましたね…。すみません」
「全然!主は気にしなくて大丈夫だよ!
…確かに嫌な記憶だけど、その分今が楽しいって思えてるのは主のお陰だし、きっと僕だけじゃない筈だからさ」
…そう言ってもらえるのなら、手入れした甲斐があったというものだ。忌まわしい過去を塗り替えることは出来ないけれど、それを上回る思い出を…たくさん作ってほしいと心から願う。
「さて、随分話し込んじゃったね。何を作るか決まってるのかな?」
「お魚が傷みやすいので鮎の塩焼きと、野菜と豚肉がありましたから豚汁でもと…」
「それは良いね!今日はみんな力仕事だったし、多めに作っておかわり出来るようにしよっか」
「…………」
「??どうかしたかい?」
「…いえ、何だか考え方が主婦のようだなと」
「う…!」
「頼りにしてます、″お母さん″」
「性別違うんだけど…。母親じゃかっこよくないし」
「そうですか?」
「大黒柱ならかっこいいと思うけど」
「一家を支えるのは大黒柱ですが、大黒柱を一番近くで支えるのは母親…奥方様以外にいないでしょう?」
「!」
「大黒柱より重要な役割だと思いますよ。大黒柱もその家族も心から頼れる存在…。まぁ私はよくわからないですけど、母親ってそんな感じなのかなと。大黒柱よりかっこいいです」
「(……あれ…?なんか今の言い方って…)
ははは…。まぁ薬研くんとか乱くんにも言われたことあるけどね。じゃ、″お母さん″として頑張ろうかな」
「お願いします、お母さん」
ということで、本丸のお母さんもとい光忠(……今度は使い方合ってますよね?逆じゃないですよね?)と一緒にレッツクッキングです。