広間に御膳を並べ終えると、お風呂から上がった全員が集まった。じゃあ食べようかというところで…



「ちょっと待ったぁ!!」



何故か鶴丸から制止が掛かった。



「??御膳、足りませんでした?」


「いや、人数分ちゃんとあるな」


「嫌いなものでもありますか?」


「いやいや、好き嫌いある者もいるだろうが俺たちは基本的には残さんぞ」


「猫舌だから冷めるまで待とうとか?」


「旦那、猫舌だったのか?鶴が猫舌…」


「いやいやいや!猫舌でもなけりゃそんな勿体ないことしねぇからな!!そうじゃなくてこの配置だ配置!!」


「??はいち?」



はて?はいちとは配置のことか?
何を言っているのかわからず、とりあえずここから他の皆を見回してみるけれど…。おかしな部分があるだろうか?

……いや、別に何も無いと思いますが?

そう思い再び鶴丸を見ると彼は頭を抱えて項垂れ、その隣にいた長谷部が代わりに答えた。



「何故、主が上座に座らないのですか」



ああ、何を言うかと思えばそんなことか。

現在、広間で一番上座にあたる場所には何も無く、そこから見渡したとして縦二列に全員が内側を向く形で座っている。
私がいる位置は上座は上座でも、列の一番上座。誕生日席みたいな…、所謂お殿様が座るような一段高い位置では無く、皆と同じ高さの上座にいる。



「主なんだから一段高いところに座るものだろう?」


「高所恐怖症です」


「たった一段だろうがっ!!」


「今日はお誕生日ではありません」


「誕生日とか関係無いからな!?」


「さて、皆さんいただきましょう」


「聞けぇええええ!!!」


「ま、まぁまぁ鶴さん…」



どうどうと馬を宥めるように光忠が鶴丸を抑える。彼も苦労してますねと思いながら豚汁を啜った。あ、美味しい。
因みに苦労させてるのは私です。自覚はあります、はい。

他はというと、三日月や小狐丸、左文字兄弟、大倶利伽羅は同じように食事を始め、粟田口兄弟は私と鶴丸たちをキョロキョロと眺め、一期は苦笑。今剣と岩融、加州たちは楽しそうに笑いながらも食べ進めている。



「仕事の時はちゃんと座りますよ」


「!」



今は主従関係無しに食事の時間だ。勿論仕事で命令する時なんかは上座に上がらせてもらうけれど、こういった日常では身分なんて取っ払って良いと思う。というか取りたい。



「食事中も上座に、ということであれば私は今後もこの席で食べましょう。皆さんは代わるも良し、そのままも良し、ご自由にどうぞ」


「あるじさま!あしたはぼくがあるじさまのとなりにすわってもいいですか?」


「はい、構いませんよ」


「やったあ!」


「えー、ボクも主さんの隣行きたいなぁ」


「では明日の朝は今剣、昼は乱ですね」


「いいの!?わーい!」



その後も僕も俺もと名乗り出る皆に食べてから順番を決めましょうと言い、食事の手を進める。

鶴丸たちはその様子にぽかんと口を開けてたものの、やがて落ち着いたのか溜め息を吐くとやっと箸を持った。



「はぁぁ。主は主らしいのかそうじゃないのかわからんな」


「鶴丸と薬研には最初に言ったでしょう?″主とは何なのかわかっていない″と」


「そういや言ってたな」


「日頃から上座に座って同じ風景ばかり見ていてもつまらないでしょう?同じ目線で見るからこそわかることも多い。私は皆さんの好きなこと嫌いなこと…どんな刀でどんな過去を背負っているのかも、ちゃんと理解したいと思うから」


「主…」


「クロ様」



静かに隣に現れたこんのすけに皆の視線が移る。



「お食事中すみません。こちらが書類で…、例の物が出来ましたのでお持ちしました」


「流石。早いね」



もっと時間かかると思っていたのに。

こんのすけはくわえて持ってきてくれた巾着袋を私に手渡す。ありがとうと言って首をくりくりと撫でてあげると、嬉しそうに目を細めてシュルンと消えていった。



「何だ?例の物って」



興味があるらしい薬研を始め、皆が巾着の中身を気にしている。その中から一つを取り出して目の高さまで上げて光に照らしてみた。



「お守り…ですか?」


「はい」


「色が違いますね?白?」


「特別に作ってもらったんです。効能は極みのお守りと同じですよ。破壊を防いで生命力を回復させます」


「なら、何が特別なんだい?」



これなら買っても同じだろうと言う次郎。確かに効能が同じならお金がかかっても買ったって同じことだ。白か金かという色の違いだけ。

でも、これは特別。



「これはシロ…、私の妹の手作りです」


「!妹君の?確か…ご病気であると……」


「はい。身体が弱くて医療機関にいなければいけないだけで、元気ではあるんですよ。手先は器用な子ですから、お守りの巾着を作ってほしいって頼んでみたんです」



その出来上がった巾着に、政府に極みのお守りと同じ札を入れてもらったというわけだ。

毎日同じ病室で同じ生活を送っている彼女には良い息抜きになったことだろう。こんなに早く出来上がったのが何よりの証拠だ。

色を白にしたのは、渾名が″シロ″だからか、単純に私の好きな色が白だからか。離れていても″いつも一緒にいる″というあの子らしいメッセージなのかもしれない。

謝礼金を貰うより断然こっちの方が良い。あとは私がこれに一個一個祈りを込めれば完成だ。



「細やかながら、私と妹から皆さんへの贈り物です。妹と会う機会があったら、仲良くしてあげてください」



食事が終わったら私の部屋に来てくださいと言って先に広間を出た。
皆まだ半分以上は御膳に残っていたから食べ終わるにはまだまだかかるだろう。

誰かより先に私が食べ終わるなんて珍しいこともあったもんだ。明日は雨ですか?
単に私が先に食べ初めて、皆がわいわい話していたから時間差が出来たというだけなのだけど。



 

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