「見事に元通りですね」
瑪瑙さんの本丸から荷物を運び出し、私たちは嘗ての本丸へと戻ってきた。建物も厩も畑もそのまま。寧ろ前より綺麗に整えられている。
「思いの外早かったな、再建」
「ですね」
「そりゃそうだよ。暇さえあれば翡翠と瑪瑙も変なことしないか睨みに来てたからね」
おっかなかったよと深い溜め息を吐く真黒さん。本当に苦労性ですね。今日は昨日話せなかった個人審神者の話と、再建後のチェックと荷物運びのお手伝いに来てくれたのだ。
「主、早速ですが主命を」
「はい。まずは荷物を全て運び込みましょう。お部屋の振り分けは各自自由に決めて頂いて構いません。終わったらやりたいことがあるので全員一度外に集まってください」
「やりたいこと?」
「ジャーン!これだよ!」
何だろうと首を傾げる面々にシロが見せたのは花の種。チューリップや菜の花、鈴蘭などなど多くの花の種を頂いたのだ。
「シロ、それどうしたの?」
「翡翠さんに貰ったんだ!翡翠さんの本丸ってお花がたっくさんあるんだって!」
「今日からこの本丸は全て一からやり直しですからね。どうせなら前よりもっと良い本丸にしたいですし」
「花が咲き乱れる本丸って魅力的でしょ?」
「それにお花って貴方たちみたいだと思ったので」
「俺たち?そうか?」
「はい。私の心の癒しです」
「「「「「!!!」」」」」
色とりどりに咲き誇る花のように気高く美しい刀剣たち。目に映るだけでその者の心を癒し、気持ちを晴れやかにしてくれる。そんな花の存在が彼らと似ていると思ったのだ。
「とりあえずは二十九種類ですね」
「二十九?三十じゃねぇのか」
「ボクたちの数だねぇ〜」
「そ!刀剣男士二十七人と、私とクロ!」
「人数が増えたら種類も人数分増やしましょう。その内本丸がお花でいっぱいになりますね」
「はは!そりゃあ豪華な本丸になりそうだな」
じゃあ早く荷物を置いてくるかと各々動き出す。加州や大倶利伽羅など畑当番が苦手だという者もいるけれど、花を植えることは嫌ではないようだ。
寧ろ大倶利伽羅は準備万端ですね。どこからその軍手とスコップを?
「あ、そうだクロ」
「?」
「クロと薬研くんが恋人になったってことはさ、藤四郎くんたちと私たちは"きょうだい"になるってことだよね?」
「「「「「!!?」」」」」
「…そうだね」
乱に前田に五虎、鯰尾と骨喰にまでバッと振り向かれた。キラキラと輝かしいまでの瞳はまるで仔犬か仔猫のようで可愛らしい。
実際はまだ結婚したわけでもないし"きょうだい"と言って良いのかはわからないけれど、でもシロの期待するようなその目を見ては「違う」とは言えず頷いた。
「じゃあさじゃあさ!つまりはそういうことになるんだよね!?」
「ん?…ああ、うん。そうだね」
「やっぱり!?わぁ嬉しい!!」
「そんなに?」
「そんなに!クロは嬉しくない?」
「嬉しいよ」
「だよね!!」
凄く興奮してるね、シロ。でも一応私たちにもいるんだよ?わかってる?
「主語がねぇのになんで通じてんだ?」
「双子だからでしょ?」
「でも何のこと言ってるんだろう?」
「さぁ?」
「じゃあ早速行こう!」
「はいはい」
シロに手を引かれて向かうのは薬研…の隣に佇む一期の前。
「なんだ?」
「私が何か?」
「実は私たちから一期にお願いがありまして」
「お願い?」
なんでしょう?と屈んでくれた一期の前で私とシロは一度顔を合わせ、一緒に口を開いた。
「「"いち兄"って呼んで良い?」」
ドゴッ!!
遠くで重いものが落ちた音が聞こえた。何やら騒いでいる声も。見れば資源を運んでくれていた真黒さんが玉鋼を落としたらしい。それも自分の足に。あれは痛そうですね…。
と、それよりも一期の返答がまだでした。もう一度一期に向き直ろうと見上げると、さっきまで彼がいたところに見えるのは見事な青空。
「あれ?」
一期がいない?
変わらずそこにいる薬研の視線の先を辿れば、一期は顔を押さえて蹲っていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、は、はいっ!いえあのっ、わ、私がお二人の兄で宜しいのでしょうか?」
「うん!私お兄ちゃんほしかったんだ!」
「ちょっとシロ!私も君のお兄ちゃ」
「黙れ失せろゴキブリ」
「!!!…ぐすん」
あーあ、ここで口挟んじゃダメですよ真黒さん。だから余計にシロとの溝が深まるんじゃないですか。
「一期さんのこと"いち兄"って呼びたい!クロもそうだよね?」
「はい。ダメですか?」
「ダ、ダメなどととんでもない!!妹が二人もできて感激です!!」
「やったぁーっ!お兄ちゃんができた!!よろしくねいち兄!!」
「よろしくお願いしますね、いち兄」
「あぁあああ…妹がっ!妹が可愛い…!!」
「いち兄大丈夫か〜?戻ってこーい」
花が舞ってますね一期。私も"きょうだい"として話すときは"いち兄"と呼ばせてもらおう。
…確かにシロの言う通り真黒さんが兄になった時より嬉しいような…。可哀想だから黙っていよう。
「さ、そろそろ本格的に動かないと」
「うん!刻燿一緒に種蒔きしよう!」
「は〜い。あ、伽羅っちも一緒にやろ〜ね!」
「行くぞ」
「「おー!!」」
「鶴さんどうしよう。僕には伽羅ちゃんが慣れ合ってるようにしか見えないんだけど」
「そうだな光坊。俺の目にもそう映ってるぜ。あんなにやる気十分な伽羅坊は初めてだな」
そうですね、私もそう思います。刻燿とシロが一緒にいる時はどこか雰囲気も柔らかいですね、大倶利伽羅って。彼も良きお兄ちゃんです。
さてと、私も仕事に向かうとしよう。
「長谷部、私と薬研は真黒さんと共に今後の話をしてきますので…」
「留守を預かれば宜しいのですね?お任せを!」
「ありがとうございます。行きましょう、薬研」
「おう」
「真黒さん、いつまで悄気てるのですか?行きますよ」
「うぅ…」
「お兄ちゃん」
「………………………え!?今」
「置いていきますよ」
彼に背を向けて薬研と共にスタスタと歩き出す。少しだけ頬が熱い。
「照れなくても良いだろうに」
「今更な感じがして恥ずかしい…」
「そりゃ今更だもんな」
「これからは時々呼ぶことにする」
さあさあ、いつまでものんびりしていられない。やることは山のようにあるのだから。
行ってらっしゃいという声と共に見送られながら私たちは久方ぶりの現世へと向かった。