「そうだ、主!夏祭りにはどの浴衣を着て行くんだい?」
「浴衣?」
「あ!それボクも気になってた!」
「俺も!」
八月も半ばに差し掛かった今日。八つ時に仕事を一区切りさせ広間の縁側で皆さんと寛いでいると、次郎の言葉をきっかけに乱と加州が身を乗り出して言った。
因みに今日のおやつは堀川特製餡蜜。アイスはお好みでトッピングしたりしなかったりと様々だ。私は抹茶アイス。冷たくて美味しいです。
薬研率いる第一部隊、鳴狐、大和守、小狐丸、鯰尾、小夜には出陣してもらっている。餡蜜はお夕飯のデザートにしてあげましょう。
…と、話が逸れました。浴衣でしたね。
今着ているのは藍色で薄く縞模様の入った浴衣だけれど…
「どの浴衣も何も…」
「ふふ〜、クロちゃん今着てるのと同じ柄の浴衣しか持ってないよねぇ〜」
「はい」
「「「「「ぇえっ!!?」」」」」
「え?」
何故そんな顔をするのです?
全員揃ってガン見しないでください。息ぴったり過ぎて怖いです。
「ちょっと待ちな!花柄とかもっと明るいのとか無いのかい!?」
「はい」
「なんでっ!?今のも似合うけどなんでそれだけなのっ!!?」
「一番安かったからです。五名様限定、浴衣三着お徳用五百円福袋を二組」
「ブフッ!五百円!?そりゃまた驚きの安さだな!」
「はい。良い買い物でした」
「安すぎ!お洒落に節約しちゃダメでしょ主!!」
「そう言われましても…」
返答に困ったのであんこと一緒に抹茶アイスをぱくり。甘さと渋さが絶妙に混ざり合って蕩けていく。やはり和菓子は最高です。
「堀川の餡蜜、美味しいですね。また作ってくださいね」
「本当?ありがとう、主さん!じゃあ今度は水饅頭とかどう?」
「良いですね。楽しみにしています」
「クロちゃん、ふんわりしてるねぇ〜」
「(主って甘い物幸せそうに食べるよね…)
って、それよりも主!」
「はい?」
「浴衣だよ!ゆ!か!た!」
「はい。ですからお祭りもこの浴衣で…」
「「「ダメ!!!」」」
「…………」
ダメって…。腕でバッテン作ってまで否定されるとは思いませんでした。
どうしたものかと思っていると、比較的静かなグループからも声が上がった。
「貴女はもっと強欲になるべきですよ。僕らの主なんですから良いものを着てください」
「宗三の言う通りです。貴女は無欲過ぎます」
「祭りの時くらい粧し込んでも誰も文句は言わぬぞ、孫よ。まさか粧したことが無いわけではあるまい?」
「お化粧なら式典の時に少々ですね。おじいちゃんも浴衣変えた方が良いと思いますか?」
「今のままでも十分に美しいが、色々な柄を着た孫も見てみたいとは思うなぁ…」
そうなのですか。参った、反対する方がいないらしい。別に構いませんが…どうしましょ?
「…ねぇ、もしかして主さんってお洒落嫌い?」
「え?いえ、そうではないのですが…」
黙って視線を下げたからか嫌がっていると思われたらしい。乱に恐る恐るといった感じで見つめられ、今度は私が彼らを困らせてしまったのだと悟った。
これまでお洒落しようなんて考えたこともなかった。考える余裕もお洒落するような事柄もなかったから、いざそういうイベントに参加するとなるとどうしたら良いのかわからない。
綺麗な服を着ればお洒落なら、自分が綺麗だと思うものを着れば良いと思うのだけど。でもそれは世間一般のお洒落ではないのだろう。
こんなことなら遠目からでもお祭り眺めたりするべきだったと少しだけ後悔した。