そうして疲れた身体をお風呂で癒し、光忠と長谷部が用意してくれたご飯を頂いて、皆さんに任務の報告をした。
その本丸で起きていた事実や厚藤四郎様のこと…。結果的に審神者も浄化されたと言えばほっとしていた。
折られた刀剣たちも持ち帰り、江雪と太郎に手厚く供養してもらったので彼らも報われることだろう。
…厚藤四郎様の処遇については起きてから決めようと思う。彼自身のことを私が勝手に決めるわけにはいかない。一期たち兄弟にもその旨を伝えれば、早く起きないかと手入れ部屋を何度も見に行く始末(特に一期が)。弟を迎え入れる気満々なようで良かったです。
あれから三日経ったけれどまだ彼が起きる様子が無い。手入れは無事に済んでいるからもうすぐ起きても良い頃なのだが…。
「いびきでもかいてりゃ叩き起こすんだけどな」
「ダメですダメです」
今の薬研がそんなことしたら睡眠から永眠に変わっちゃいます。そのドス黒いオーラ仕舞ってください。
「ははっ、冗談だって」
「その笑顔で言われても冗談に聞こえません」
「それより、そろそろ時間じゃねぇか?」
時計を見ればあと十分で午後三時。彼女と会う約束の時間だ。
湯飲みのお茶を飲み干した直後、足音が一つと気配が二つ近づいてきた。
「主…」
「あるじどの!瑠璃どのがお見えになりましたよ!」
「噂をすれば、だな」
鳴狐とお供の狐さんだ。今日彼らは食事当番の為、お茶出しをお願いしている。
来訪者は瑠璃様。前回とは違って突撃訪問ではなく、ちゃんと前もって連絡も寄越してくれた。…真黒さんが。
たぶん真黒さんもシロに怒られたのでしょうね。目に浮かびます、その光景。
「お茶の間、用意できてる」
「ありがとうございます。では行きましょうか」
──お茶の間にて。
「ひっさしっぶりー!」
「お久し振りです、瑠璃様。石切丸さんも」
「敬語と″様″付け!!」
「うるさい、瑠璃」
「即答嬉しいけどそれは酷い!!」
(なんでこの始まり方なんだ…)
待っていた瑠璃と石切丸さんに挨拶をし、私と薬研は向かい側に座った。鳴狐にはお茶を出して下がってもらい、その場には四人が残る。
今回の訪問はお互いの任務の報告会だ。薬研と石切丸さんはその時の近侍も勤めていた為、一緒に聞いてもらうことにしたのだ。
「思ったより怪我してるね」
「そう言う瑠璃は無傷か」
「まぁね!」
「自分が怪我する前に敵を残滅したからだろう?黒本丸も壊滅…。さっき始末書を書き終えてきたところだよ」
「か、壊滅…」
「瑠璃…」
「そ、それは言わなくて良いの!!良いでしょもう誰もいなくてボロボロだったんだから!」
プンプンと頬を膨らませて怒っているけれど、それは無いだろう。修復すればまだ使えたかもしれないのに…、再建するとなると大変だ。私がやるわけではないから良いけれど。
今の会話で気になったのは…
「″敵″…ってことは、そっちも?」
「…うん。おにぃから聞いたけどクロたちのとこと同じみたいだね。こっちにも出たんだよ、時間遡行軍」
いつになく深刻な声音で言った瑠璃に石切丸さんも薬研も表情を硬くした。
本丸には結界が残っていたのに、その中に現れた時間遡行軍。結界の主が許可しない、或いはその主の身に何か起こらない限りは出入りなど到底不可能な筈なのに。
「こっちでも審神者が結界の媒体にされてたのよ。ただし、クロたちの見つけた審神者と違うのは死因が病死だったってこと」
「病死?」
「あたしたちが受けた任務はね、″連絡が途絶えた本丸に赴いて調査すること″…って、黒本丸でも何でもない簡単な任務だった。ただし、政府の人間は何人か調査に送り込んだみたいなんだけど、一人も戻って来なかったらしいの」
「…………」
「それで政府が危険を察知して、あたしと翡翠に命令が下ったのね。いざ行ってみたら審神者は自室の布団に横たわったまま眠るように死んでいて、周りには沢山の刀剣が…既に顕現は解けた状態で刀として眠っていた」
「それは…」
つまり、病人として″普通の死″を遂げたということだ。審神者が亡くなれば刀剣たちの霊力も次第に無くなって人の姿を保てなくなる。
ある意味それはあってもおかしくない死に方だ。
でも、それなのに結界は張られたままの状態で、時間遡行軍が現れた…。
「おかしいでしょ?死んだ直後に霊力が全て消えることは無いけど、刀剣たちに与えた霊力が切れてるのに結界はそのままなの。それで審神者の服を捲ってみたら呪符が貼ってあった」
「…それはこっちと同じだな。審神者の遺体に埋め込まれていた」
審神者の胸の奥深くに…。
「埋め込まれて?」
「あんた、ソレどうしたのよ?まさかとは思うけど…」
「手ぇ突っ込んで取った」
「〜ッ、あんたっバカ!?」
「失礼な。お前よりは頭良い」
「それは成績の話でしょ!!」
信じらんないと顔を青ざめさせる瑠璃を他所にお茶を飲む。しょうがないじゃないか、それ以外に方法は無かったのだから。
「そうしなきゃ″救って″やれないだろう」
「!」
「救える方法は一つ。呪符を消滅させることだけだ。取り出さずに消滅させるには遺体を焼き払う他無い。でもそれでは、閉じ込められたままの審神者の魂は救えない。救いたかったから救っただけ」
「クロ…」
人の死体に触ることも、その身体に手を入れることも、嫌だとは思わなかった。心にあったのは審神者の魂を救うことと、その周囲にいた刀剣たちや厚藤四郎様の気持ちを救うこと。
救いたかったから救った。言葉通り、ただそれだけなのだ。
「…はぁ。あんたのそういうとこ、呆れを通り越して尊敬するわ本当に」
「そりゃどうも」
溜め息を吐きながらもそれを否定してこない瑠璃に私も安心した。流石は私が唯一と定めた親友だ。言葉には出してあげないけれど。