「で、そっちはどうだったの?一応おにぃからは聞いてるけど、クロも何かしら疑問はあるんでしょ?」
「まぁな」
真黒さんに報告したことは全部伝わっているだろうから、その辺りは簡単に説明した。
疑問はいくつかある。
瑠璃のところと同様に時間遡行軍が現れたことがまず一つ。そして、わざわざ審神者の遺体を媒体に結界を施していたことが一つ。それらは歴史修正主義者が身を隠す為にしていたのでは…と推測できる。
しかし、あの審神者の最後の言葉だけが引っ掛かった。
「これは薬研にも真黒さんにも言っていないことなのですが…」
「審神者が言い残した言葉か?」
「わかっていたのですか」
あの時はお礼を言われたとしか言っていなかったのに。
「なんとなくな。聞こえちゃいなかったけど」
察しの良い近侍で助かります。
蚊帳の外となって「何のことよ!」と睨んでくる瑠璃を、「静かにしなさい」と石切丸さんが制した。二人が親子に見えてきました。
「呪符を滅して、審神者が浄化される前…」
──気を付けて
──君が呼ばれたのは偶然じゃない
「…″呼ばれたのは偶然じゃない″?クロが?」
「″私が″なのか、″審神者が″なのか…」
「″黒本丸修復更正部隊が″…ともとれるね…」
「それしか言われなかったのか?」
「はい、残念ながらそれ以上は…。ただ、あの審神者の魂に触れてわかったのは、彼は何者かの力によって気を狂わされていた…ということです」
「どういうこと?」
泣いている魂に触れた時のことだ。その時にも視えた本丸での思い出。その中に、奇妙な光景が一つだけあった。
「本丸に訪問する黒いスーツの男。顔は見えなかったし内容も聞こえなかったが、審神者と二人きりで話をしていた。暫く聞いているだけだった審神者は、怒った様子で男を追い払おうとしていたんだが…」
ノイズが走ったような映像で視えづらかったけれど、あれは…
「男は審神者に言霊を使っていた」
「こ、とだま…!?それ、本当?」
「手は印を結んでいたから間違いないだろう。それを紡がれてからの審神者の記憶はノイズだらけで殆ど正常ではなかった」
狂っていた証拠とも言えるだろう。任務に行く前に目を通した資料には″池田屋の記憶″を攻略する辺りで狂っていったと書いてあった。時期的にはそれくらいだった筈。
そして、厚藤四郎様から伝わってきた刀剣たちの想いにも…
「…………」
それはまた、彼が起きて確認してからにしよう。
「そう…か。言霊を審神者に…。だからおにぃにはまだ言ってないわけね」
「そ。理由はもう一つ。政府の人間はバッチをしてるだろう?階級の色って知ってるか?」
「バッチ…うん。上から順に、紫、青、赤、黄、白の五段階。それに加えて紫の中でもエリートと定められた人だけが付けるバッチが黒」
「……そう」
「?……!って、まさかそいつ…」
無言で返せば瑠璃は頭を抱えた。
その男が何者で何のために審神者に言霊を使ったのかはわからないが、少なくともあの任務に関わっていたことは確かだと思う。
そして、スーツの襟にあった黒いバッチ。つまり政府に″裏切り者″がいる可能性があるということだ。まだ確信は持てないから何とも言えないが、真黒さんにまだ伝えていないのはそういう理由だ。
「…成る程ね」
「報告すべきか?」
「……その話、あたしたち以外には?」
「まだ誰にも」
出来れば任務終了後に瑪瑙さんには伝えておきたかったけれど、彼の腕の怪我もあって長話は憚られた為まだ言っていない。
アレ、実は折れていたらしいのだ。堀川さんがおっかない顔して瑪瑙さんを引っ張って帰っていったのが脳裏に焼き付いている。
「わかった。なら、あたしから瑪瑙と翡翠に聞いてみるよ。クロは下手に動き回れないでしょ?」
トンと自分の首をつつく瑠璃。それが示すのは私の首にあるチョーカーだ。
これのせいで簡単に外出できないことを彼女も理解しているのだろう。
「…悪い」
「なに謝ってんのよ!あたしとクロの仲じゃない!」
「…………」
「そこは黙らないでよ!!」
「冗談だ」
「クローーーーッ!!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ瑠璃との報告会はこれでおしまい。
その後は落ち着いた瑠璃と少々雑談をして、日が完全に沈んだ頃にお見送りした。