祭り当日。
空が橙に染まる夕暮れ時。
自室でこの間買った浴衣に着替えた私は、先に準備出来ているだろう皆さんの待つ広間へと顔を出した。
「お待たせしました」
「おう、来たか大しょ…」
「「「「「…………」」」」」
一番に振り向いた薬研を初め、他の皆さんも私を見たまま瞬きすらせずに固まってしまった。
「?」
何故でしょう?
頬が染まっていく者…、口が開いていく者…、加州はふるふると震え、乱と次郎は引き結んだ口角がみるみるうちに上がっていく。目も弧を描いていて…なんか怖いですよ?
…もしかして浴衣、似合っていなかったのでしょうか?せっかく加州たちに見繕ってもらったものですし、これを着て行きたいのですが…
「おかしい…ですか?」
「「「「「!違うッ!!!」」」」」
いえ、ですからそんなところで一致団結というか…声揃えなくても…。
でもそれでは何故固まっていたのだろうと小首を傾げると、薬研を押し退けた乱が興奮した様子で私の両手を握ってきた。
あの、薬研が睨んでますよ…?
「すっっごく似合ってるよ主さん!!ボクらの目に狂いはなかったってことだね!可愛い〜!!」
「ありがとうございます。乱たちの目は狂ってなどいませんよ。瑠璃様の意見、反対してくれていなかったらどうなっていたことか…」
「う…、それを思うとほっとするね」
「アハハハ!!アレは酷かったもんねぇ」
あの買い物での出来事を思えば誰もが安心したような顔をした。帰宅後も乱が皆さんに話し、あの酷いセンスの浴衣を絵に描いて説明していたから尚更だ。
「あの絵の浴衣よりずっと良いな!」
「お美しゅうございます、ぬしさま」
「よきかなよきかな」
「ありがとうございます」
今着ているのは白地に藍色の菖蒲を描いた浴衣だ。様々な浴衣を見て回ったものの、結局翡翠さんの意見が取り入れられたのだ。
私もあの気違いのような浴衣を見たせいか頷くしか出来なかったのですが、連れて行ったのが彼らで良かったです。
「髪も結ったんだな」
「はい。後ろ、おかしくなってないですか?」
両サイドから後ろにかけて編み込んで纏めているだけなのだが、普段そんなことしないから少し心配だった。鏡もひとつしかありませんから自分で確認出来ないのですよね。
「ん、大丈夫だ。綺麗だぜ大将」
「ありがとうございます。薬研も浴衣お似合いですよ」
「ははっ、ありがとな」
「ねぇ主!俺は!?俺は可愛い!?」
「ぼくはどうですか?」
「はい、加州も今剣も可愛いです」
一緒に出掛ける六人も同じく浴衣だ。
加州は紅、大和守は蒼、今剣は水色、小夜は橙、五虎は桃、薬研は紺。薄い縞模様のシンプルな柄だけれど、彼ら自体が容姿端麗だからでしょうか、凄くお似合いです。
「でも、こうして見ると連れていくのが勿体ないですね」
「どうしてですか?」
「もしかして…連れてくの嫌になっちゃった?」
「ああ、違いますよ。そういう浴衣姿の男性は普段殆ど見ませんから目の保養と言いますか…。皆さん美しいですし、お祭りそっちのけで眺めていたいです」
「!主の方が美しいよっ大好き!!」
「ぼくもあるじさまのことながめていたいです!」
「こらこら、行かねぇとダメだろ。瑪瑙たちと待ち合わせしてんだから」
「そうだった…」
「そうでしたね…」
あらま、シュンって音が聞こえてきました。そんな座り方したら着崩れしてしまいますよ?
「二人揃って落ち込まないでよ」
「せっかく綺麗な姿になったのですから顔を上げてくださいな。私もお祭り初めてですから一緒に楽しみましょう?」
「主が言うなら!!」
「あるじさまがいうなら!!」
「…………」
「え、えと…」
「…現金だね」
ワイワイとそんな話をしていた時のことだった。
ドオオォォォォン!!!
「「「「「!!!?」」」」」
爆発音にも似た音が響き渡り、本丸内に動揺が広がった。