輪投げの後はヨーヨー釣りをしたり型抜きをしたりと遊び歩いた。
「あ!あれ主とシロでお揃いにどう?」
「お面…ですか?」
「白猫と黒猫か。良いねぇ、二人らしくて」
ということで、白猫と黒猫のお面を購入。シロの分は後で真黒さんに渡してもらおう。
黒猫のお面を頭に掛けて、手には白猫のぬいぐるみ。更には飴細工の屋台で黒猫の飴まで作ってもらい、私の装備が…
「にゃんこ尽くしです」
「ふはっ!」
「("にゃんこ"って言った!!)可愛いよっ主!」
ふくふくしますねぇ。
こうして猫を見ていると養成所に通っていた頃に見かけていた猫を思い出します。あの猫は今どうしているのでしょう?会いたくなってきました。
「そろそろ待ち合わせ時間だな」
「ですね。向かいましょうか」
「……ぅ…ぅぅ…っ」
「…?何か言いました?」
「え?何も言ってないよ」
「俺っちもだ」
ですよね…。
二人の声とは違う、もっと高い声が聞こえた。注意深く辺りを見回すと端にある屋台より更に奥、木の裏に縮こまっている桜色の浴衣の女の子がいた。
三歳くらいだろうか。恐らくどこかの審神者の子供なのだろう。
「…っ!」
近づいて前にしゃがんでみると、気づいてくれたものの肩を震わせて怯えてしまった。
「大丈夫ですよ、何もしません。そんなに泣き腫らしてどうしたんですか?」
「おと…さっ…ヒック、おかぁさ……が…っ」
「いなくなってしまいましたか?」
「ふぇっ……ぅ…ん…」
瑠璃とは違うリアル迷子に遭遇してしまいました。いえ、彼女と一緒にしてはこの子に失礼ですね。
「ふ…ックシュン!うあー、誰か噂してるわね?ってかここどこよ?石切丸たちもどこほっつき歩いてんのかしら?まぁ良いけど」
「では、私と一緒にさがしに行きましょうか」
「ん…っ、いいの?」
「はい。その前に、ちょっとお膝見せてくださいね」
ご両親をさがしている内に転んでしまったのだろう、浴衣が土で汚れていた。思った通り膝には掠り傷があって痛々しい。
手を当てて霊力を込めて「癒」と唱えれば徐々に綺麗な膝小僧へと戻っていった。
「うわぁっ!」
「痛くないですか?」
「うん!おねえちゃんありがと!」
「どういたしまして。それじゃ、お父さんとお母さんをさがしましょう。はぐれないように手を繋ぎましょうか」
「うん!」
きゅっと握ってくる小さな手を握り返して立ち上がる。後ろで待っていてくれた二人を振り返ると、何故だか二人ともにんまり笑っていた。
「どうかしました?」
「ううん!主は優しいなぁって!
(子供宥める主なんて貴重!しかも微笑んでた!!)」
「?」
「なんでもねぇって。それより、待ち合わせしてる奴等にも連絡入れねぇとな」
「なら俺が言いに戻るから薬研は主についてて。近侍なんだしさ」
「悪いな」
「良いって!」
「すみません。あまりにも遅かったらそちらでまたお祭り回っててください。最終集合まで遊んでいて構いませんので」
「了解!」
タカタカと駆けていく加州を見送り、私と薬研は女の子と共にご両親をさがした。
女の子は賢く育てられたようで本丸では刀剣たちからは"姫様"、両親からは名前とは別に"あやちゃん"と渾名で呼ばれているらしい。
「あやちゃんはお父さんとお母さん、他には誰と来たんですか?」
「んとね、ほっちゃんとくーちゃんと、ひげちゃんとひざちゃんと、つるちゃんとみかちゃん!」
「…………」
「全部渾名だな」
「ですね。"ほっちゃん"が蛍丸様だとすると"くーちゃん"は愛染国俊様、"ひげちゃん"と"ひざちゃん"は髭切様と膝丸様でしょう。うちにはいませんからお姿はわかりませんが」
「俺っちもその四人は見たことねぇから知らねぇな。とすると、わかるのは"つるちゃん"と"みかちゃん"っていう鶴丸の旦那と三日月の旦那か」
「はい。でも…」
よく周りを見ればわかるように、鶴丸国永様と三日月宗近様はごまんといるのだ。どこの審神者も男女問わず連れてきているおじいさま代表格。
どの鶴丸国永様も三日月宗近様も審神者と行動して笑っているし、この中には確実にいないだろうことは確かだけれど…
「こりゃ思った以上に骨が折れそうだな」
「地道にさがすしかないですね」
そう言って人の間を縫ってさがし歩いていく。途中であやちゃんが遊びたそうにしている屋台に入ったり、何かをさがしている様子の人を見かけたけれど残念ながらご両親ではなく…。
この広い祭り会場での人さがしは想像より遥かに難題だったらしい。時間はもう少しで最終集合時間になってしまう。
歩き疲れてしまったあやちゃんは薬研に抱っこされながらチョコバナナを頬張っている。寂しがってはいないけれど、そろそろ見つけてあげないとご両親の方が心配しているでしょうね。
「あやの親父さんとお袋さんはどんな人なんだ?」
「おとーさはねぇ、すっごーくおっきぃの!おかーさは、おとーさがだいすきなの!」
「そうかそうか、二人とも仲良しなんだな!
(ぜんっぜんわかんねぇ!!)」
(さがす参考にはなりませんね…)
「あとねぇ、おかーさはねぇ、おとーさのかみがすきなの!」
「髪?」
「うん!みじかいけど、あやちゃんとおなじきれいなオレンジ!あやちゃんもおとーさのかみすきなの!」
「…背が高くて…オレンジ……」
もしかして…。いやでも、そういうことってあるのでしょうか?
あやちゃんの言葉からある人物像を思い浮かべていると鏡に通信が入った。
…翡翠さん?
「よぉ、クロネコ。悪いが集合ちょっとばかし遅れそうだ」
「翡翠さん。すみません、私も遅れそうなんです。迷子の子のご両親をさがしていて…」
「迷子?俺も迷子さがししてんだが…。桜色の浴衣の女の子」
「え?」
・
・
・
「おとーさ!おかーさ!!」
「亜弥!!」
感動の再会です。薬研から降りた亜弥ちゃんは真っ直ぐにお母様の腕の中に走っていき、そのお母様は涙を流して抱き締めた。
なんと亜弥ちゃんのご両親は翡翠さんと行動していたのだ。こんなことなら先に翡翠さんに連絡するべきでしたね。
そして、亜弥ちゃんの父親が…
「岩融の旦那だったとはなぁ」
「背が高くてオレンジ髪と聞いてもしやとは思いましたけど…」
「がはははは!!まぁ刀剣男士と審神者の夫婦などそう簡単には想像できまい。面倒をかけてすまなかった。娘を見つけてくれたこと、本当に感謝している!」
「翡翠さん、クロさん、ありがとうございました!」
「ありがと!おにいちゃん、おねえちゃん!」
深々と頭を下げた岩融と同時にお母様と亜弥ちゃんからもお礼を言われてしまった。心から笑う親子の光景。それがちょっとだけ羨ましい。
(もう…私たちにはできないけれど…)
望んでももう手に入らない。
沸き上がる何とも言えない感情を呑み込み、亜弥ちゃんの前にしゃがんで頭を撫でた。
「次からは、お母さんとお父さんの手を放してはいけませんよ」
「うん!やくそくする!」
「お二人も…、目を離さないであげてくださいね。子供にとって親は一番の心の拠り所なのですから」
「ああ。肝に命じよう」
「仰る通りです。ありがとうございます」
こうして、亜弥ちゃん親子は帰っていった。勿論、亜弥ちゃんはご両親と手を繋いで。
「ありがとうございました、翡翠さん」
「あ?」
「亜弥ちゃんのご両親と行動していてくれて」
「…別に。早く集合場所行くぞ。瑪瑙たち待ってんだから」
「はい」
素っ気ない態度だけれど、散々歩き回ってさがしてくれていたのだと近侍の鯰尾さんは耳打ちしてきた。
「本質は隠せない。刀剣たちはそれを見抜いてるからついてってくれるんだよ。それは勿論、俺たちの刀剣たちだってそう」
やはり瑪瑙さんの言っていた通りですね。翡翠さんの心はとても穏やかで優しいのだとその行動が語っているようだった。