それではそろそろ帰りましょうかと鳥居の方に歩みを進めると、一応気づいてはいるらしい鶴丸は顔を押さえたままついてくる。
…前見ないと危ないですよ?
「…あ」
「よぉ、クロネコ」
「こんにちは!」
鳥居まで来ると同じく帰るところだったらしい翡翠さんに出会った。今日も近侍の鯰尾さんを連れている。
会議はとっくに終わっているのに。
「こんにちは。今お帰りですか?」
「おう、ちっと真黒に呼ばれてな」
「真黒さんに?」
「ああ。ちょうどいいや、今時間あるか?」
その内容は私や瑠璃、瑪瑙さんにも関係することらしい。そんなに畏まった話でもないからと言うので素直に頷いて聞くことにした。
「長くなりますか?喫茶店にでも入ります?」
時の政府というのは小さな町のようになっている。さっきの公園といい、病院があることもそうだ。ここは審神者や役人が迂闊に機関外に出て、その存在を知られないようにするために造られている。
機関内であればどこであろうと刀剣男士を連れていても怪しまれることは無い。そういう意味ではここは審神者にとっても刀剣男士にとっても良い場所だと言えるだろう。
「いや、そこまで長くは…」
「何ならシロのとこで話せば?」
「チッ、また出たなゴキブリ」
「ゴッ!?それは酷いって翡翠!!」
またいつからいたのか突如として現れた真黒さんに翡翠さんは舌打ちした。真黒さんは半泣き。
ゴキブリってシロにも言われてましたよね。翡翠さんの場合、神出鬼没という意味で言ったのでしょうけど…。例えはちょっとあれですね…御愁傷様です。
「つーか、てめぇがここ来んならクロネコにも自分で言えよ」
「いやいや、私だって忙しいんだよこれでも。ねぇクロ?」
「そうですね。ほっつき歩くという真黒さんならではのお仕事がありますからね」
「ほぉお?」
「クロ!フォローになってない!!」
「冗談です」
「あぁぁぁ…。クロの冗談を聞くと涙が…」
「心の傷に沁みてんじゃね?」
翡翠さんからの冷ややかな視線を浴び泣き真似をする真黒さんだったが、実際のところ本当に仕事を抜けてきたのだろう。腕時計を確認すると「冗談はさておき…」と仕切り直した。
「翡翠はまだシロにも会ったこと無いし、挨拶がてらお見舞い行ってきなよ」
「でも私はこの間の会議で会いましたし、お見舞いは月に一度だけと定められています」
定めたのは他でもない鈴城家。重春様に許可を頂かなくては二度目のお見舞いには行けない。そういう契約なのだ。
「大丈夫。父さんには私からちゃんと話をつけてあるからさ」
「え?」
「シロのお見舞い、月に二度までの許しをもらったよ」
「!!」
「…本当はいつでもお見舞い行けるような許可をとりたかったんだけどね」
そう簡単には許してくれないみたいでさ、と申し訳なさそうに微笑む真黒さん。
あの重春様がたった一度でも私たちへの許可をくれたのだ。真黒さんは相当頭を下げて願い出てくれたのだろう。
「!主…」
「…………」
「…ありがとうございます、真黒さん」
本当に貴方には感謝してもし尽くせない。何度頭を下げても足りないくらいに。
彼自身は私のチョーカーのこともシロのお見舞いのことも全て自分のせいでと思っているようだけれど、それは違う。彼が動いてくれたからこの程度で済んでいるのだ。そうでなければ、私はまだあの地獄の日々を生きていたことだろう。
「どういたしまして。ほら、シロのところに行っておいで。さっき連絡はしておいたから、きっと首を伸ばして待ってるよ」
「はい。あ、でも翡翠さんはそんなに長居する時間は…」
「あるよね?暇でしょ翡翠」
「はっ倒すぞてめぇ」
「でも主の今日の仕事は終わってますもんね!時間は有り余ってますよ!」
「てめぇが答えてんじゃねぇよナマズ」
「良いじゃないですか!事実でしょう?」
鯰尾さんのこと"ナマズ"って呼んでるんですね。そしてそれ許しちゃってるんですね鯰尾さん。
でも鯰尾さんの言っていることは当たっているようで、翡翠さんにも予定は無いらしい。行ってらっしゃいと手を振る真黒さんに別れを告げ、私たちはシロのいる病院へと向かった。