話はそれだけだからと言う翡翠さんに、じゃあお開きにしようかと立とうとすれば…



「時に翡翠よ、厠はどこにある?」


「あ?」


「あ、俺も行く!翡翠、連れてってくれ」


「なんで俺が…」


「うちの主は女子だぜ?男の厠に連れていってもらうわけにはいかねぇだろ?」


「安心しろ、男でも主が認めている人間ならば許す。世話されるのは好きだからな」


「どこまで世話させる気だジジイ!」


「まぁまぁ、行こうよ!俺は世話焼くの好きだしさ」


「…はぁ、しゃーねぇな。行くぞ」


「ってわけでちょっと行ってくるぜ」


「はい。行ってらっしゃい」



別に案内くらいならできたのですが…。中まで入ってのお世話ならば仕方ないですね。私が入るわけにはいきません。

四人が部屋を出ていくと一瞬無言の間ができた。



「…クロ」


「なに…」



けれど、次の瞬間には繋いでいた手を引っ張られ、ボスンッとベッドに仰向けに転がされた。そうしてシロは逃がさないとばかりに私の上に跨がって、何をするかと思えば服に手をかけてきた。

今日は洋服だ。ワイシャツの第一ボタンを外され、現れたのはあのチョーカー。そして第二ボタンを外せば…



「っ、なんで…」


「…………」



曝されたのは胸より上だけ。でもそれにしても見映えは酷い。無数の痣とその印はシロでも見覚えがあるものばかりだ。



「どうして…っ?父さんのは養成所入った時には薄くなってたじゃない。なのになんでこんなにっ」


「いつ…気づいたの?」


「気づくよ。だってクロ、毎年この時期はまだ浴衣着てるでしょ?それにさっき手を繋いでた時も袖を気にしてた。うっかり捲れないかとか皆に見られるの心配してたんでしょ」


「…お見通しか」



身体を起こすとシロは私の上から退き、膝を抱えるようにして蹲った。ボタンを嵌め直している間にも向けられるその表情は悲しみを帯びている。同時にこれについて話せと問われているようだ。



「…夢を見るんだ」



こんな話、本当なら誰にも話したくはないものだ。自分が汚れた話なんて特に。

でも、私は話す。本丸で皆さんに話したその内容を全て。

話せばシロはまた泣きそうな顔をするのだろう。しかし私が秘密にすることで、彼女に自分は無力な存在だと思わせてしまいたくない。それは刀剣たちも同じだ。

力になりたいと思ってくれていることはずっと感じていた。どうしたら良いのかと悩んでいることも。

だから私も言うべきか否かと悩んだ。話せば私は楽になるけれど、聞いてくれた皆さんには更なる悩みや不安を植え付ける。言わなければもっと不要な不安を抱かせてしまう。どちらを取るかなんて答えは簡単なのに、私は恐れた。この身体に刻まれた痣と悪夢を語ることを。

それでも私が話す決意をしたのは彼らが優しかったからだ。こんな私を否定せず受け入れてくれる器を持っていると、共に生活することでわかっていたから。

聞いてもらうことがどんなに私の力になっているのか、シロも皆さんもわからないでしょう?



「……っ」


「そんな顔しないで。シロは笑っててよ」


「…、今は無理…」


「じゃあ次来た時からね」


「…ぎゅうしてくれたらする」


「はいはい」



目尻に涙を溜めたシロの頭を胸に抱えるように抱き締める。シロからも私の背に手が回され、その身体の震えが伝わってきた。



「…話してくれてありがと」


「聞いてくれてありがとう」


「力になれた?」


「ずっとなってる」


「刻燿は元気?」


「唐突に話変えたね。元気だよ。時々鏡使ってるでしょ?」


「あれ、気づいてたんだ?」


「もとあった場所に無いことがある」


「あちゃー」



クスクスと笑ったシロはそっと身体を離して目尻を拭った。もう大丈夫だね。



「無茶なことしてくれたね、シロも刻燿も」


「真黒に「ナイフに付喪神がいるよ」って言われてね。しかも「クロのとこに行きたがってる」って言うもんだからさ。政府に頼るのは嫌だったけど、本当に刀剣になりたいなら頑張っておいでって言ったんだ。私には視えなかったけどね」


「まったく…」


「クロもよく気づいたね。私たちの持ってたナイフがあの性格の大太刀になったんだよ?この間話した時に刻燿もビックリしてた」


「最初はわからなかったけど。でも人懐っこい感じとか瑠璃様嫌いなとこはシロに似てるし、大太刀でも柄を握った時に感じた暖かさは懐かしかったから」


「ふふっ、それはクロしかわからないね。果物切ってくれてたのクロだったし」


「シロに渡してからは使ってなかったの?」


「上手くできないんだもん、ウサリンゴ」


「練習しなきゃできるもんもできないよ」


「だからさ、退院したら二人で教えてよ!約束!」


「ん、約束」



絡めた細い小指の体温は冷たいけれど、交わす約束は暖かく胸を占めていく。


いつか訪れると願う未来。

その日が来ると信じて…










あとで翡翠さんたちにもお礼を言わなければ。


 

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