「は?歴史修正主義者は…」
「んなの、"敵"だろ?」
「はい、敵です。では私たちが相手にしている敵は…、歴史を修正する彼らは一体どこから来た"何者"なのでしょう?」
「何者って…」
和泉守を含め皆さんそれぞれ考え出す。
私たちは"歴史を守る"という使命の元に集い戦っている。けれどそれだけ。敵が"何"なのか、歴史修正主義者の正体を考えたことは無い。
だって彼らは私たちの敵であってそれ以上でも以下でもない。倒すべき存在なのだという事実しか無いのだから、正体を知る理由も無かったのだ。
「歴史修正主義者は歴史を修正する者。何の為に歴史を修正するのかと問えば、きっと「変えたい過去があるから」と答えるでしょう。そんな過去があるのは…」
「!人間…。過去に飛ぶ力を造ったのも人間…、時の政府ですな」
「正解です、一期」
「えっ、じゃあ歴史修正主義者って時の政府?」
「それは恐らく違うでしょう。少なくとも歴史を守ろうと動く政府の人間は」
「随分と回りくどい言い方をするな。まるで裏切り者がいるみたいな…」
「…可能性はありますからね」
「…………」
時を越える力なんてそう簡単に造れる物ではない。時の政府と歴史修正主義者、繋がりが何も無いとは言えないだろう。
そもそもどちらが先に現れ、どちらが裏切り者なのか。ちゃんとした理由は私にもわからないけれど…
「歴史を修正する者がいるから、正そうとする私たちがいる。歴史修正が起こらなければ、正しい時間が流れていくだけ」
「ただただ流れ行く時間に正すも何も無い。そこにあるのは正しい時間のみ。時の政府の存在など必要無い。つまり…」
「先に現れたのは歴史修正主義者ってわけか。寧ろ裏切り者は時の政府側」
ここまで来ると鶴丸もこりゃ驚きだぜと呟いて表情を強ばらせた。まさか自分たちが身を置く政府側が後から生まれた存在で、歴史修正主義者も入り雑じっている可能性は考えたことも無いだろう。
「大将」
各々が黙って半分放心している中、やはり対応が早かったのは近侍、薬研だった。
「わざわざそんな大元の話を出したってことは、大事な話はまだこれからなんだろう?」
「はい」
先を促してくれたということは、薬研はここで話を区切らせるつもりは無いらしい。
身体の調子も悪くないですし、話を続けましょうか。
「今のお話は一先ず頭の隅に置いておいてください。…では、歴史修正主義者が過去に遡り、歴史を改変することで何が起こるかご存知ですか?」
「ふむ…、正体の次は起こりうる事象か…」
「れきしがかわるいがいにはかんがえたこともないですね…」
腕を組んだり宙を見つめたりして皆さんは再び頭を捻る。
普通は考えもしないでしょう。歴史を変えさせないことが私たちの目的で、それが今までずっと"果たされてきたと思っている"のだから。
「んー…、難しい問題出しますね」
「わからない…」
「そうですね。私も考えたこと無かったですし」
「そう言うってことは、大将はもう答えわかってんのか?」
「半分想像も入りますけど…」
少々失礼しますと言って袖を捲る。
息を呑む音や乱と次郎の様子からして昨夜よりも酷くなっているのだろう。夢の中で見た手首の痣も心なしか広がっている。
「ずっと疑問でした。何故今更この痣が浮き出てくるのか。何故今になって過去の夢を…悪夢を見続けるのか…」
ほぼ毎晩出てくる夢。父親との地獄のような生活。
確かに殴られることは多かった。抱かれることも苦しくて辛くて吐きたいくらいに。だけど、よくよく考えてみたら違うのだ。
「私、昼間には何もされなかったんですよ」
「え?」
「昼間は狂った父と過ごしていなかった。殴られたこと無かった筈なんです。なのに、悪夢の中で私は昼間に…」
何故昼間なのにカーテンを閉めきっていたのだろう?
そんなことを夢の中で思ったのを覚えている。光に手を伸ばそうとして届かなかったことも、後悔も。
でも違う。父さんは昼間はちゃんと仕事に行っていたし、休日も飲みに出ることが多かった。そうして夜までお酒に入り浸って、酔って帰ってきた父さんに殴られた。その繰返しだった筈なのだ。
「あんな悪夢、私は知らない」
「!大将、まさかとは思うが…」
薬研を見ると握った拳が僅かに震えていた。血の気も引いて、白い肌が更に青白く見える。
そんな彼の様子に皆さんも次第にわかってきたのだろう。歴史修正が成されて起こりうる事象。私の痣と悪夢。その繋がりを。
歴史修正されればその人物に影響するのは勿論のこと。
「記憶が書き換えられる。そして…」
私の過去が…
記憶が変えられている。