バッと立ち上がって走り出そうとした和泉守を風の鎖で引き留める。こういう時風だと便利ですね。



「何しやがる!放せ!!」


「放したらどこに行くつもりです?」


「あんたの過去に決まってんだろ!」


「じゃあダメです」


「"じゃあ"って何だ!出せコラァ!!!」



鎖を檻に変えてとりあえずはその場に留めさせた。堀川が入りたそうな目をしていたので一緒に入れてあげると、和泉守はちょこっと大人しくなった。睨まれましたけれど。

後でちゃんと出しますよ。まだ話の途中ですからね。



「今はダメだというだけです」


「"今"?」


「考えてもみてください。時の政府からの任務はもっと大昔のものばかり…、貴方たちが活躍していた時代が殆どで、私のような審神者の過去が変えられるなんて話は出たことがありません。それは何故だかわかりますか?」


「むむむ…。あるじどのの謎かけは難しいものばかりですな」


「……影響、大きいから?」


「正解です」



鳴狐も頭の回転早いですね。



「…どういうこと?」


「…敵側の影響も大きい…ということでしょうか?」


「その通りです。ここで先程の歴史修正主義者と時の政府のお話に戻ります。
時の政府は勿論、歴史修正主義者が潜り込んでいることも、誰が敵なのかも知りもしないでしょう。知人である可能性も高いです。そこで歴史修正主義者が政府の中でも自分と関わりの深い知人の過去を変えたとします。すると…」


「知り合いの過去ならば自分も知り合った瞬間から関わっている。過去が変わるのは政府のその人だけでなく自分の過去も…。そういうことですか」


「じゃあシロが眠ってるのは…!」


「大将に最も深い関わりがあるから…」



大正解です。しかもシロは私と違って体力が無い。身体がバテて起き上がれなくなっているのだ。



「審神者の過去を変えれば敵側にとって厄介な刀剣男士は減りますし、一石二鳥というもの。しかし彼らにも全く影響が無いとは言えません。審神者でなくとも現代を生きる者であれば何時何処で関わっているかもわからない。知人であれば己の過去も変わり、最悪敵だと見抜かれて捕まって処罰が下ります。見抜かれる確率は低そうですけれど」


鶴「そうなのか?」


「実際私も微妙なところですからね。恐らく私の場合は力があるから覚えているだけであって、ごく普通の一般人ならば書き換えられた過去だけが記憶として存在している筈です」



今語っているこれも憶測だ。あの悪夢で矛盾が見つからなければ、そのまま自分の記憶として処理されて何も気づかなかったことだろう。

それが私の過去だと受け入れて、何事も無かったかのように日常を過ごす。過去改変の影響がある偽物の日常を。考えただけでも恐ろしい。



「まるで過去を生きた自分が二人いる気分です…。気味が悪い」


「主…、ってことはその痣も?」


「こんなに無かった…。改変されて殴られる回数が増えたからここまで残っているのでしょう」


「そんな…っ」


「だったらやっぱ早く戻しに…!」



そんなに暴れないでくださいな。あまり風で縛り付けるようなことはしたくないのですけど…



「落ち着いて主さんのお話聞こうね?兼さん」


「お、おう…」





「時々和泉守と堀川の上下関係がわからなくなるのですけど…」


「今見た通りなんじゃねぇか?」



堀川が上?笑顔が怖いです。

……まぁそれはさて置き、話を戻そう。



「歴史改変の動きがあれば時の政府はすぐに反応し、阻止せよという任務が発生。それが私たちに与えられる任務だとはご存知の通りです」


「その任務が下るまで待てってか?つーかもうあんたの過去は変えられて……あ?」


「もう主さんの過去は変わってきてる…。なのに政府の動きが…」



無い…?


ぽつりと呟いたのは誰だったか。
これが何を意味しているのかは想像に容易い。



「時の政府が気づいていない筈が無い」



私の過去は既に見捨てられている。



「…………」



今度こそ風を解いても和泉守が動くことは無かった。

誰もが口を閉ざしたまま。否、何かを言おうとする者もいるけれど、結局は言葉が出てこない。どう声をかけたら良いのかもわからないだろう。

ここで阻止しに行かなければ私と彼らとの記憶にも影響が出る可能性がある。けれど、時の政府はそれを望んでいない。勝手に行動すればどうなるか。動きたいのは山々だけれどシロのこともある。どう動いても得が無い。


 

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