さっきの瑠璃の言葉…、悲痛な叫びだった。瑠璃もクロと同じだね。

クロが何もかも呑み込んで表情までなくしてしまったように、瑠璃もこの両親の前ではずっと本音を胸の内にひた隠しにしてきたのだろう。



「瑠璃。さっきも言ったけど、もうこれ以上言わなくて良いよ」


「良くない!だってお母様はあんた達の存在を否定したのよ!?例えお母様でも大事な友達傷つけられて黙ってるなんて無理よ!!」


「そうだね。でもあんたの母親が言うことも一理あるし、その気持ちも私には理解できるから構わない」


「え…」


「は…っ?」



クロがここにいたら、やっぱり同じこと言うと思うんだよね。「麗華様のお気持ちもわかりますから」とか、物凄く丁寧な言葉を無表情で言いそう。



「親友だったんでしょ?私たちの母さんとあんた」


「!?な、なんで…」


「シロ、あんたいつから起きてたのよ?」


「ほぼ最初から」



煩くて敵わなかった。でもこれでやっと私も口が開ける。

夢の中で説教してここでも説教とか勘弁してほしいんだけどね。現実じゃ怒鳴れないから気を付けないと。



「おかしいとは思ってたよ。霊力が大きいからとか、成績優秀だから謀反されたら堪らないとか、色んな理由をこじつけてクロに制限かけて。
でもそれくらいのことでどこの馬の骨かもわからない娘を審神者貴族に養子入りなんて、普通有り得ないでしょ」



何かしら繋がりがあるとは思ってたけどそういうこと。母さんの友達だったわけね。そりゃ母さんの命を削った私たちを恨むわけだわな。


麗華は病弱な母さんが双子を身籠ったことが不安だったのだろう。自分の親友が子を産むことで死にまた一歩近づいてしまうと。

でも母さんは自分より子を…、私とクロを産むことを選んでくれた。その結果、母さんは退院できずに亡くなってしまい、麗華は親友を死に至らしめた私たち双子を憎んでいる。



「親友が…友達が死んでその元凶が目の前にいれば嫌な気持ちにもなる。私だって…」



私だってクロや瑠璃が…、例え二人が望んだ死を迎えたとしても、私自身は暫く引き摺るだろう。瑠璃とは口喧嘩ばっかりしてるけど、もうこうして出会ってしまったんだもん。唐突にいなくなったらやっぱり寂しく思うだろうし嫌だ。

瑠璃だけじゃない。瑪瑙さん、翡翠さん、大和くんたち刀剣男士や真黒だってそう。たった一瞬でも関わった人たちとの時間は大切な宝物だ。それと同じ気持ちなんだと思えば納得もいく。


だけどね…、ダラダラ引き摺りすぎなのよ!
母さん死んでから何年経ってると思ってんのよ!友達なんでしょ!?これじゃ母さん未練たらたらで成仏できないじゃない!!



「あんたの意見は尤もだよ。双子が生まれなければ…、せめて私たちが一人だけだったなら、母さんはまだ生きていたかもしれない。私たちが生まれて母さんが死んだから、父さんは狂ってしまった。あんたの言う通り死神なんだろうね、私たちは」


「そんなことない!シロもクロも死神なんかじゃないッ!!」


「良いよ、瑠璃。私たちは自分がどう思われようが知ったこっちゃないしどうでも良いの」



勿論最初はこういうこと言われてどうでも良いなんて思わなかった。凄くムカついたし言い返すことだってした。

だけど、クロは違ったんだ。クロは自分のことを言われても何もかも受け入れなかった。

否、その表現は違うな。スルーしてた。受け入れるでもなく否定するでもなく、そよ風でも浴びたかのように平然とするの。なんで怒らないの?って聞いたら…



「もしそれが私の"大事なもの"に対する文句なら言い負かすつもりだけど、自分のことなら気にする必要無いでしょ?それを言ってくる人が"大事"に入らない人なら尚のこと」



その人は大事な対象に入らない。
だから自分は何言われたって動じない。
だから大事なものが傷つけられることを許さない。

そう聞いて考えてみたら私もそうだった。私が何かを言われる時はいつでもクロとセットだったから気づかなかったけど、よくよく考えれば私はクロへの悪口に怒ってたんだ。

自分が言われるよりも何倍もムカつくのは大事なものが傷つけられること。それをクロから教わった。

だからね、今凄くムカついてんの。



「ただ一つ気に食わないことがあるとするなら、あんたが私たちのことを"死神"呼ばわりするのは母さんへの冒涜だと知ってのことなんだろうね?」


「は…?」



おっと、こりゃわかってなかったって顔だな。少し考えればわかることだろうに。

私だってクロほどじゃなくても考える頭はあるんだよ。特に"大事なもの"に関することなら尚更ね。



「あんただって真黒と瑠璃を産んだんだからわかるでしょ?子を産むことが女性にとってどんな痛みを伴うものなのか。私にはまだそれはわからないけど、母さんだってその痛みに堪えて私たちを産んでくれた。そしてたった二年だけど愛情も注いで育ててくれた。
その母さんが産んだ私たちのことを"死神"と呼ぶってことは、つまりあんたは自分の親友を"死神の母親"と呼んでいることに等しい。"生まれてこなければ"とは、それこそ命懸けで必死に産んでくれた母さんへの否定の言葉だ。わかってて言ってる?」


「ッッ!!」



ハッと目を丸くしてみるみる顔を青くする麗華に溜め息を吐く。私の悪口なら何言ったって知ったこっちゃないけど、それが母さんの侮辱なら黙ってられない。



「…双子って本当だったんだな。怒り方まで主そっくりだ」


「でしょ?シロが静かになるのは本気で怒った時だけよ」


「余計な情報植え付けんなバカ瑠璃」


「辛辣な言葉遣いもそっくりだね」


「シロ、大丈夫なの?この前みたいに発作とか…」


「大丈夫!今回は気を付けたから!」


「そっか、良かった」



にこって笑って撫でてくれた大和くん。ああ、なんか凄く癒される。笑顔って良いね。

この場にクロがいたならもっとかっこ良く短く纏めて麗華を絶望に叩き落としたんだろうな。私はお説教が長くていけないね。クロ見てお説教のお勉強しよ。


ふぅ、とまた溜め息を吐くと、これまでのやりとりを黙って聞いていた重春が動き、麗華の肩をポンと叩いた。その表情は少し憐れみを帯びているような、ちょっとだけ悲しそうに見える。

気のせい?なんかいつもと雰囲気違うような…?



「お前が悪いよ、麗華。わかっているんだろう?」


「っ、そ、れは…」


「死を受け入れることは難しい。だが、大事なら受け入れろ。ソラが報われん」


「っ、ソ…ラ…っ」



母さんを思い出してか、これまでの暴言を思い返してか。泣き崩れる麗華を重春が宥める。

こういう夫婦らしいとこって初めて見た。いつも憎たらしい文句ばっか言っててお互いが会話してるのなんて見たことなかったからちょっと驚き。



 

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