すぐに新術開発部に連絡を取るからと言う真黒を信じ、一度通信を切った瑪瑙と大将は同時に大きく溜め息を吐いた。
「巻き込んですみません、瑪瑙さん」
「いやいや。本当にクロちゃんは悪くないし、俺にも協力くらいさせてよ。政府が絡んでるなら尚更さ」
「ありがとうございます」
そうか、瑪瑙を呼んだのはそういう意味もあったわけか。
無所属になって本来なら政府からの力添えは無くなる筈なのに、寧ろ呪いなんて悪い方向に力が掛けられている。大将が直に政府に連絡をしても取り合ってはくれないだろう。真黒だけなら話は通じるだろうが、その他の人間はわからねぇからな。
だから政府直属の審神者でパートナーでもある瑪瑙に仲介に来てもらったと…。パートナーなら仕事にも影響が出ちまうし、それを理由に政府とのやり取りもし易くなる。
起きて自分の現状を把握してからそこまでの機転がきくとは…、頭も良いし頼もしい大将だ。
「クロちゃんとシロちゃんは性転換して体調とか大丈夫?どこかおかしいとこ無い?」
「私は大丈夫!クロは?」
「特には…。でも呪いのせいかはわかりませんが少し眠いですね。さっきまでは寝起きだからかと思ってましたけど」
「眠いか…。もしかすると刀剣男士全員分の性転換が起こってるから審神者に影響が出てるのかもね」
「え!?主、大丈夫なの?」
「起きていられますから大丈夫ですよ」
「それじゃあシロは?」
「シロちゃんはクロちゃんと双子だからかもね。双子はどこかで繋がってるって聞くし、兄弟姉妹で呪いの類いが影響するってこともあるらしいから」
「へぇ、そうなんだ?」
「この呪い、簡単に解ければ良いんだけどね…。翡翠がいれば解けたんだろうけど俺にはわかんないからなぁ」
「翡翠殿にはわかるのですか?」
「あいつ運動はてんでダメなんだけどさ、術系は見ただけで覚えるくらいの天才だよ」
因みに瑠璃はその逆らしい。運動神経抜群だが術は全く出来ない。否、出来るが発動させたら味方まで攻撃して大惨事になるからやらせないんだとか。
だからあの二人で組ませてんだな、すげぇ納得した。そして俺たちが大将の刀剣で良かったと心底安心した。
「今日は翡翠さんいないの?」
「運が良いのか悪いのか、瑠璃と一緒に任務中だよ。瑠璃が知ったら真っ先に飛んできただろうね」
「目に浮かぶわ。こういうの絶対好きだし騒ぐもんね」
「運が良かったと思っておきましょう」
毎度のことながら酷い言われようだ。これも納得できるから否定は出来ねぇ。
そんな雑談をしていると瑪瑙の鏡に通信が入った。言わずもがな相手は真黒だった。思いの外早かったな。
「どうでした先輩?」
「えっと…」
何やら言いにくそうに斜め下を向く真黒。瑪瑙が怖いからなのか、術が厄介だったのか…。前者ならまだ良いんだがな。
「…新術開発部によるとその呪符は黒本丸対策用のものじゃなくて、敵の本拠地に仕掛けるタイプのサンプルなんだって」
「敵の…」
「本拠地…」
「うん。だから人間のクロたちにも効いちゃってるってこと」
刀剣男士の服も女人に変わっているのは、俺たちが審神者に呼び起こされた刀剣男士だから。服まで含めて一人の刀剣男士ということらしい。仮にもし顕現した姿が真っ裸だったら服は変わらなかったんだろう。
大将たちの場合、服は購入したものだ。生まれ持った姿は変わっても服は変わる筈が無い。
そして、性転換するには力の源となる主の負担が増える。つまり時間遡行軍全体の弱体化に向けて開発されてる術ってことだ。
「クロ、今怠かったり眠かったりとかしない?」
「眠いです」
「その人数の霊力が乱れてる状態だから、本来ならクロは眠りっぱなしでもおかしくないらしいんだ。その程度で済んでるのはクロが男体化して体力が増えたから。あと、持ち前の霊力の大きさで保たれてるってこと」
「では、私が元に戻れば霊力の乱れも直って皆さんも元通り…ということですか?」
「手っ取り早い話がそういうこと。それでその術の解き方だけど…」
「「「「「…………」」」」」
「……ごめん、残念ながら今開発中だから無いらしいんだ」
「「「「「はぁぁぁああああ!!!?」」」」」
「「…………」」
ここまで聞いといて解けねぇのかコレ!?政府所属じゃなくなっただけでこんなことされんのか!?超嫌がらせじゃねぇか!!
今この瞬間に俺たちの政府への不信感が強まった。
「お、落ち着いて落ち着いて!」
「落ち着いてられるか!!これからは女の身体で戦えってのか!?」
「今回ばかりは兼さんに賛成ですよ。真黒さん、本当に何とかならないんですか?」
「この世はやはり地獄です……」
「まったく…、とんだとばっちりですね」
「つまり僕は政府に復讐すれば良いんだね?」
怒って身を乗り出す和泉守を堀川も止めるつもりは無いらしい。左文字兄弟の空気も暗く沈んでいるし状況は最悪だ。
「だ、大丈夫!私が見たところその呪いは時間が経てば自然に解ける筈だから!!遅くても今日中には…!」
「今日一日は女で過ごせってか?」
「ほ、本当に申し訳ないけどそういうことに…」
「へし切長谷部」
「!なんでしょう?」
「大将?」
何故今ここで長谷部を呼ぶ?
この場に似つかわしくない落ち着いた声音に反論していた連中も静まり返る。
しかし…
「主命だ。手段は問わん、第二部隊を率いて今すぐその新術開発部とかいう傍迷惑な組織を潰してこい」
「主命とあらば!!」
「「「「「待て待て待て待て!!!!」」」」」
大将が一番落ち着いてなかった!!
確かにだいぶ迷惑被ってるが潰しちゃまずいだろ!?
「…というのは半分冗談として」
「半分は遂行して宜しいのですね?」
「はい「
「いや「はい」じゃねぇだろ!?今日中に戻るってんだから今日一日大人しくしときゃあ…」
「おや、お忘れですか?今日は演練の日です」
「「「「「………はっ!!」」」」」
そ、そうだった…!
そういや昨夜、明日は久しぶりに演練を組んで欲しいと政府から頼まれたとか言っていた。性転換騒動ですっかり忘れてたが昼過ぎからは向かわなきゃなんねぇ。つまりこの姿で…
「政府による呪術に、政府による演練の申し込み…。人前にこの姿を晒す?それを私が躊躇うとでも?」
溢れ出る霊力が風を生み、俺たちの髪を凪いでいく。まるで撫でられているように優しいそれだが、同時に感じるのは彼女の怒り。
「刀剣男士と刀剣女士の試合を組まされるんだぞ?それに敵の本拠地に仕掛ける呪いを私たちに掛けられたんだ。これを売られた喧嘩だと言わずして何と言う?」
「…っ、クロさん?あのね、落ち着いて…」
「喧嘩上等。いくらでも買ってやるよ。女士と言えど私の刀剣たちが負ける筈が無い。そうだろう?」
向けられた藤の瞳には怒りと共に負けず嫌いの闘志が映る。俺と同じ色しててもここまで違うか。面白い。
「…潰すか」
「潰そう!!」
「いえ〜い!!」
「えぇえええええ!!!?!?」
この後、必死に弁明する真黒により物凄く説得されたのは言うまでもない。