真黒の説得により何度か深呼吸して落ち着いた俺たちは、大将と共に演練場へと足を運んだ。シロも見学するらしい。

瑪瑙は…










──新術開発部



「!ちょっと君!ここは関係者以外立ち入り禁止で…」


「ふーん?クロちゃんが呪い掛けられたのにパートナーの俺は関係者じゃないって?」


「!?」


「あのさぁ、お前ら俺の大事なパートナーに何やってんの?敵用の呪いのサンプルとか意味わかんないんだけど?」


「いや、あの…っ!」


「つまりクロちゃんたちはお前らに"敵"として見られてたわけだよなぁ?ってことはパートナーの俺も"敵"ってことだ。なら、何されたって文句言えねぇよなぁ?"敵"だし。ちょうどクロちゃんの第二部隊借りてきたからさ、たっぷりお礼してもらいなよ。じゃ、あとは頼んだよクロちゃんの長谷部」


「主命により、半殺しまでは許されている。なに、今なら女の腕力まで落ちているんだ、誤っても殺しはせん」


「ひぇええええ!!!」










長谷部たち第二部隊を連れてどこかに行っている。知らぬが仏というやつだな。


今日の第一部隊は、俺と加州、鶴丸、三日月、燭台切、岩融だ。加州は勿論のこと揃いも揃って美女って言葉が似合う容姿。真黒の説明で事情を知った他本丸の審神者や刀剣男士も野次馬の如く演練場に集まっている。

性転換についてもそうだが、大将は本丸再建に至ったあの過去改変事件で多くの審神者に周知されている。それもあってか老若男女問わず興味の対象になっていた。



「大将、大丈夫か?ちっと顰めっ面になってるぞ?」


「…眠いです」


「ふむ、霊力供給の負担が大きいのだろう。本丸に戻るか?」


「いえ。私のことはお気になさらず思う存分戦ってきてください。終わるまで帰る気はありませんから」


「そうそう!私がクロのこと見てるからさ、みんな頑張ってね!」


「はは、いつもと逆だな」


「こういう時じゃないと私がクロのお世話なんてできないからねぇ」


「眠いだけなんだけど…」


「良いから良いから!」



シロは強引に大将の背を押し、近くにあった長椅子で休ませることにしたようだ。俺たちも言われた通り演練に専念するとしよう。さっさと終わらせねぇと大将が精神的に参っちまう。





この姿で演練するのはちっと気が引けるが…、勝負に女も男も関係無い。そもそも中身はそのままなんだ。女士になったところで志は変わらねぇ。

後ろで大将たちが見守っている中で何度も攻防を繰り返し、結果は当然完全勝利。たった今俺の相手、一期一振を倒したところだ。



「悪いな、いち兄。どんな姿になろうと負けるつもりは無いんでな」


「はは…、まんまと惑わされた。女人になっても腕は健在か。でも早くその呪いが解けることを祈っているよ」


「おう」



いつも思うが、他の本丸でもやっぱりいち兄はいち兄だな。兄弟への配慮は相変わらずか。



「しかし薬研も可愛らしくなるもんですねぇ。口調の男らしさはそのままですが」



依代を納めた相手本丸の宗三がまじまじと眺めてくる。他の刀剣たち同様、興味津々だな。



「あんたの綺麗さには負けるさ。うちの宗三もかなりの別嬪さんになってるぜ。あんたも一遍呪いに掛かってみたらどうだ?」


「ご冗談を」


「ははは。それにしても…」


「ん?」


「薬研たちの女人姿にも驚いたけど、彼女たちの魅力も相当だね」



彼女たち?

大将たちのことかといち兄が見ている視線を辿る。その先にはやはり大将とシロ、それから…



「あの!良かったらこの後お茶しませんか!?」


「私とですか?」


「あ、あたしもご一緒したいです!」


「お、良いねぇ!俺も混ぜろよ!」



二人を囲う審神者たち。
女はまだ格好いい二人に魅了されたんだと思うが男もか?いや、大将たちは元は女なんだから女が群がるのが可笑しいと言うべきか…。



「えっと…、私もクロも中身は女のままなんだけど?」


「知ってます!そうじゃなくて、純粋に審神者としてお話してみたいなぁって。術とか稽古とか、どうやって強くなったのか!クロさんって強いから」


「ああ、成る程ね」


「あとシロさんも!」


「へ?私?」


「ほら、審神者睡眠事件の時のこととか聞きたくて!」


「…男性の方もですか?」


「俺たちも強さの秘訣とか聞きたいんだよね〜。キミ強いって有名だし」


「バーカ!戻った時にあわよくばとか思ってるくせに」


「うるせぇよ!」


「あはは!」


「どうする?」


「…………」



なんだあの男どもは?
大将が女だとわかってるから男になってる内に仲良くなっとこうってか?



「ほー、ナンパってやつか。主もシロも人気者だなぁ」


「人気者は良いことだけど、主は困ってるんじゃない?シロちゃんは主の判断に委ねるみたいだね」


「どうするのだ、薬研?」


「確か前に女審神者どもに突っ掛かられた時は、主自ら退いたのだったか?」


「今回はそんな雰囲気じゃないし、もしかすると主たちの友達が増える良い機会かもしれないけどね」


「…………」


「薬研くん?」


「……そうだな。俺も大将に任せるさ」



三日月の言う通り、今は以前のように嫌な絡まれ方ではないし寧ろ好意的な状況だ。友と呼べる関係ができるのも喜ばしいことだし、加州が言うこともわかる。

だが…



(なんだよ…これ…)



胸の内に蠢くどす黒いモノ。それが何なのかはわからねぇが、決して良いモノではないだろう。

彼女の視線が…、彼女の意識が…、何故俺に向いていない?彼女の声も言葉も…、どうして他の奴等に掛けられている?
当たり前だ、今相手してるのは俺じゃないのだから。

相手の目を見て話すのは彼女の良いとこだし今までだって散々見てきただろうが。
孤独だったあの子に友達ができるんだぞ?喜ぶべきことじゃねぇか。

なのに…



(なんで…こんなに苦しいんだよ…)



女になったからか?
だから胸の中がドロドロしてんのか?

好きな子が他の人間と話してるだけ。それだけだろうが。なのに俺は…。早く解けろ、こんな呪い。

モヤモヤと膨らんでいく醜い感情を抑え込もうと目を瞑った。その時だった。


 

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