2.5



《 左右田said 》


オレには幼なじみがいた。
家が近所で、毎日遊ぶくらい仲がよかった女の子だ。
オレが機械の組み立てや分解で遊んでいた時にも、つまらないはずなのに隣で一緒に見ててくれたり、今思えばガラクタ同然の物をあげた時も喜んでくれた、ちょっと変わった子だった。


「かずいちちゃん、すごくたのしそう!」
「これ、わたしにくれるの?ありがとう!すごいね、かずいちちゃん」
「かずいちちゃん、だーいすき」


幼なじみが喜んでくれて、本当に嬉しかったのを今でも覚えている。
アイツの親もオレの親も、仲良いオレらを見てよく笑っていた。
オレが機械を触っている時はアイツが。アイツが花を摘んで遊んでいる時はオレがそばにいる。
そんな、兄弟とはまた違う…近くにいて安心できる存在だった。
この時のオレは、ずっと一緒にいたから、これからもずっと続くと思っていたんだと思う。


何年か経つと、お互いに男女を意識するような年齢になった。
アイツも成長していて、体つきに変化が出だした頃…周りから付き合ってるのか、とからかわれるようになりだした。
当時のオレは、からかわれたくない一心で違うと言っていたが、今までと変わらずアイツと一緒にいた。
からかわれたくはなかったが、離れることはどうしてもできなかった。
アイツが他の男友達と話している姿を見るのは胸がモヤモヤしたし、視線に気がついたアイツがオレに気づいて、にこっと顔をほころばせてくれた時には胸が高鳴った。
きっと、知らず知らずのうちに好きになっていたんだと思う。
依存にも近い、淡い淡い恋心を。


「和一くん」


「…春香」


「一緒に帰ろ?」


天霧春香。
幼い頃から見た目も性格も贔屓目なしに良かった。
最近はスカウトにより、子役として舞台に出たりしているようだ。


春香は演技力がすごいようで、将来は大物の女優になれると周りの大人はよく言っていた。
その発言を聞く度に、春香の演技を見る度に、オレはすごく嫌な気持ちになった。
春香が遠く離れてしまったようで、寂しくて。


各地で公演があるようだが、それでも変わらず忙しい合間を縫って、春香はオレと一緒にいた。
以前、オレといて楽しいか?と聞いた時、和一くんの傍にいることが一番楽しいよ、と今思い出しても恥ずかしくなるようなことを、サラッと頬を弛めながら言っていたが、オレは熱くなる顔を隠すためそっぽを向くことしか出来なかった。
正直、すごく嬉しかった。このまま想いを伝えてしまおうかと思ったが、もしも断られたら もう以前と同じようには戻れないと思うと怖くて言えなかった。
これから先もずっと一緒にいるため、そう心に言い聞かせて、オレは好意をひたすら隠し続けた。



▼▽▼


その日は、珍しく春香が酷く落ち込んでいるようだった。
何があったか聞いても、なんでもないの一点張り。
話すまで待とうと思い、オレは普段と同じように機械弄りを始めた。春香も普段通り、そばで見つめている。春香に元気になって欲しくて、渾身の作品を作り春香に渡した。


「春香、見ろ!これ動くんだぜ!やるから、元気だせ」


普段であれば、ありがとう!和一くん!と喜んでくれたが、やはり今日は様子がおかしい。
受け取ってくれたが、浮かない様子のままだった。
春香…?と不安そうに呼ぶと、春香は大きな瞳いっぱいに涙を溜め、今にも零れてしまいそうだった。


「春香?!ど、どうした?!いらなかったか!?」


やっぱり嫌だったのか?とあたふたしていると、春香は声を震わせながら、違うの…と話し始めた。


「本当に嬉しいの…ただ、」


「ただ…?」


堪えきれなかったのか、涙をボロボロながしながらオレがあげた作品をぎゅっと抱きしめた。
なんとか泣き止んで欲しくて、オレは春香の頭をぎこちなく撫でたが、逆効果だったみたいで余計に泣かせてしまった。


「ぐす…あのね、和一くん…あのね…お仕事の都合で引っ越すことになって…もう、一緒に遊べなくなるの…」


「え」


衝撃が走った。
これからも、ずっと一緒だと思っていたが、突然終わりを迎えることになった。
何も言えないオレに、春香は言葉続けた。


「でもね、絶対に戻るよ!何年先になるか分からないけど、絶対…絶対に…だから!その時はーーーーー」



それから先はよく覚えていない。
春香は、泣きながらオレに何を伝えたんだっけ。
一番重要な部分だけが思い出せない。
だが、春香がいなくなってから、少しだけ世界が色褪せてしまったように感じたのだけは、鮮明に覚えている。


しばらく経つと、春香を至る所で見るようになった。
テレビのCM。ドラマに映画。街の大型ビジョン。この間は駅構内の広告にも載っていた。
本当に別世界の人になってしまったようだ。
そのうちオレの事も忘れてしまうのだろうか。
急に胸がズキンと痛んだが、知らないふりをして春香の映像から目線を外した。



そうこうしてるうちに、オレは高校生になった。
しかも、希望ヶ峰学園からオファーが…!超高校級のメカニックとして、すぐ編入することになった。


クラスメイトも個性的なやつばかりだが、悪いやつはいなかった。(苦手なやつはいるが)
ソニアさんにも出会えたし、なんてオレはラッキーなんだ!と喜んで登校していると、急に後ろから誰かにツナギを掴まれた。


「ぎゃああ?!な、なにすんだよ!」


「和一くん…?」


「え…?」


振り返ってみると、時が止まったような気がした。
ずっとテレビでしか見れなかった春香が目の前にいた。
なんで、なんで分かるんだよ。
前と見た目が全く違うのに、なんで分かったんだよ。


「覚えて…ないかな?」


覚えてないわけないだろ。
ずっと会いたくて仕方がなかったんだから。


「…春香」


「久しぶり、和一くん。会いたかったよ」


オレもだ…なんて口に出せる訳もなく、オレは力なく笑った。
涙を必死に堪えながら微笑んだ春香は、本当に綺麗だった。


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