03



希望ヶ峰学園に入学してから、二ヶ月後。
徐々にクラスメイト全員と話せるようになり、楽しい学園生活を送ることが出来ている。
仕事と学業を両立でき、春香は大いに満足していた。
そして、もう一つ…


「春香、今から故障したエンジン直しに行くんだが…あー、その…行くか?」


ポリポリと頬をかきながら、左右田が春香を誘いに来た。
登校早々、1限目はサボるようだ。
本来であれば教師に見つかれば怒られるところだが、希望ヶ峰学園は才能を磨き、実技試験を通れば良いので、授業を受ける義務がない。
その為、授業を受ける際に空席が目立つことが多々ある。
皆、それぞれの才能を磨いているんだな、と最初は春香も感心した。
だが、毎日となると話が変わってくる。


「うん。でも2限目からは出ようね」


「おぉ!行こうぜ!」


左右田は目をキラキラさせながら、工具の準備をした。
本当に機械が好きなんだなぁと春香は左右田について行くため、必要な荷物だけ持って行くことにした。


幼い頃、左右田はガラクタの組み立てや解体をしていたが、大きくなってからはエンジンオイルなどを扱うことが増えた。その為、機械修理などはめっぽう強くなったが、汚れることが増えたのだ。しかも、汚れていることに気が付いてない時がある。
その為、春香が簡易的ではあるが汚れ・匂い対策の荷物を持っていくことにしているのだ。


春香は準備が終わると、先に準備を終えていた左右田と共に教室を出た。



▼▽▼


中庭に着くと、大きな機械が置かれていた。
春香は日傘を軽く上げ、まじまじと機械を見た。


「うわー!今日のは大きいねぇ」


「だろ!やりがいあるよなぁ」


目をキラキラさせて、じゃあ作業するわと左右田は機械の修理を始めた。
楽しそうだな、と頬を緩ませながら春香は木陰にレジャーシートを敷き、荷物を下ろした。
最近は夏が近づいてきているからか、少しだけ日差しが強くなってきている。
まだ苦ではないが、職業柄日焼けは厳禁のため、日焼け止めを塗りたくっていても木陰で左右田の様子を眺めるようにしている。


楽しそうに作業をする左右田を眺めていると、後ろに気配があった。
バッと振り返ると、知らない女性とクラスメイトが数人いた。


「貴方が天霧さんね!やっぱりテレビで観てる通り綺麗ねー」


「はぁ…ありがとう、ございます…?」


「私は雪染ちさ。今日から副担任なの。よろしくね」


知らない女性は雪染ちさ と言うらしい。
優しく微笑んだ彼女は、1-Bの生徒を全員集めたいようだ。
断る理由もないので、教室に行くことを承諾し、作業をしている左右田を呼びに行くことにした。
レジャーシートを片付け、日傘をさして機械の近くまで歩く。
皆もついてきたようで、春香は少し離れていた方がいいですよ、と声をかけた。
不思議そうに首を傾げるクラスメイトに、すぐ分かると伝えると、春香は左右田を呼んだ。


「和一くーーーーん!」


「あ?どうしたー?」


ひょこっと顔をのぞかせた左右田に、降りてきて欲しいことを伝えると、すぐに降りてきてくれた。
すると近くにいたクラスメイトたちは即座に遠くまで離れていった。


「え?なんでみんな離れていったんだ?」


「んー…和一くんからオイルの匂いがするから?」


「え?オレ?!オレが臭いのか?!!」


まあまあ、と左右田を宥めると、汚れが酷くないか確認をした。
服に汚れはあるものの、手のひらはそこまで汚れていない。
春香はカバンから消臭剤とタオルを取り出し、左右田に渡した。
やっぱり臭いのか…と落ち込む左右田に、皆慣れてないだけだよ!とフォローをいれ、クラスメイトの方へ向かった。


「天霧、よく耐えれるな」


「離れていた方がいいってこういう事だったんじゃな…」


「うげぇまだ匂いが残ってる…天霧おねぇ強すぎぃ」


「わたくしもちょっと…」


九頭龍たちが春香をある意味尊敬の眼差しで見つめると、慣れだよ、と春香は苦笑した。


「一応 消臭剤を渡したから、さっきよりは大丈夫なはずだよ」


「用意周到なのね」


雪染が天霧さん偉いわ!と褒めると、春香は少し照れたように笑った。


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