05



「はぁ…まさかここまで長引くとは…」


春香は、とっくの昔にチャイムが鳴りやんだ廊下を一人歩いていた。
次のドラマのオーディションや週刊誌のモデルなどの仕事で3日程学校を休んでいた。やっとの事で休みを貰い、いざ学校へ行こうとした時にマネージャーからの電話に再度捕まってしまったのだ。
深いため息を吐き、教室内に入ると何やら大きなモニターでゲームをしているクラスメイトがいた。


「おはようございまー…す?」


「あ!春香ちゃん!お久しぶりっすー!」


澪田が嬉しそうに春香にガバッと抱きついた。
うわっと倒れそうになったところを近くにいた終里が大丈夫か?と言いながら支えた。
終里の豊満な胸が背中に当たり、春香は少し頬を染めながら、赤音ちゃんありがとう と笑った。


「唯吹ちゃん、久しぶり。みんな何をしていたの?」


「天霧さん!久しぶりね!七海さんがみんなでやろうっておすすめのソフトを持ってきてくれたみたいなの」


雪染は春香が来たことに気がついたようで、嬉しそうに笑いながら、天霧さんもやる?と言ってきた。
千秋ちゃんが…少々驚いたが、楽しそうに4人プレイのゲームをする七海を見て、春香は後で参加しますと言い、頬を緩ませた。

千秋ちゃん、楽しそうでよかった。
そう思っていると、花村と西園寺が肉じゃがを作ってきてくれたようで、お昼ご飯を食べることになった。


▼▽▼

花村と西園寺が作った肉じゃがの配膳が終わり、みんなで手を合わせて食べることになった。
ゲームをしている時は暗くて気が付かなかったが、教室はボロボロになっており、修理した跡がちらほら見える。
いつもの様に隣に座った左右田に、何があったのか聞くと、終里と弐大が限りなく実践に近いトレーニングを教室内で行ったようだ。
それは確かに壊れる…。想像が付いてしまうところが怖い。
春香は、あはは…と苦笑しながら、肉じゃがを食べた。


「!!!!…おいしい」


思わず笑みがこぼれるほどだった。


「天霧さん!よかったらまだあるから食べてね!」


気を良くしたのか、花村は嬉しそうに春香に話しかけた。
そんな花村にありがとう、と伝えると、そういやァよォ…と左右田が何か言いたげにこちらを見ていた。
何かあっただろうか。んー?と考えていると、そういえばまだ挨拶していないことに気がついた。


「久しぶり、和一くん」


どうやら合っていたようで、嬉しそうにギザギザの歯をニカッとさせながら、おう!と言った。


「なあなあ見たか!あのモニター!」


「あれ、和一くんが作ったんでしょ。すごいね、時間かかったんじゃない?」


「いや、オレにかかればアレくらいすぐに出来るぜ?ただ、目に優しいブルーライトカットをーーーー」


延々と作ったモニターについて話してくれる左右田に、春香は楽しそうに聞いていた。
用語など全てわかる訳では無いが、左右田が楽しそうに話してくれている。それだけで春香は十分だった。


「本当に仲良いよな、あそこ」


「あれで付き合っていないとは…にわかに信じられん」


九頭龍と辺古山が二人の姿を信じられないような眼差しで見つめていたが、二人は知る由もなかった。


みんなで楽しく肉じゃがを食べていた時、突然終里が倒れた。
隣にいた弐大が心配そうに起こすも、様子がおかしい。
春香は様子を見るため終里に近づこうと立ち上がるも、急に足に力が入らなくなり、倒れ込みそうになった。


「きゃあ!」


「春香!!」


隣にいた左右田が間一髪抱きとめると、春香はひゃあっと声を上げた。
身体が熱く、左右田に触れられているところが更に熱く感じ、鼓動が早くなるのがわかった。


「ま、…かずいちく、…ぁ、」


「春香?!……!!!!」


様子がおかしいのは春香と終里だけではないようで、皆それぞれ倒れ込んでいた。
な、なんで変な声が出ちゃうの?!と春香は混乱した頭で考えるも、まだ離れていない左右田と触れている場所が熱くて、どうにかなってしまいそうだった。


ただでさえ、想い人である左右田の腕の中である。通常でも耐えられないほど恥ずかしいのに、肉じゃがを食べてから身体が熱くてたまらないのだ。
どうにかして和一くんの腕の中から逃れなくては。そう思い、春香は熱さによって潤む瞳を左右田に向けた。


「か、ずいち、く…んっ!はな、して…」


「っ…」


「ひゃ、ぁん…な、んで」


左右田は離すどころか、より強く抱き締めてきた。
はー、はー、とお互いに息を荒らげながら、春香は左右田のツナギをぎゅっと握った。
なんで、どうして。そう言いたくても、身体が言うことを聞かない。


「春香、…ハァッ…悪い…落ち着くまで、ハァッ…動くな」


左右田は見てしまった。
幼き頃から好意を寄せている子が顔を赤く染め、上目遣いで涙で潤んだ瞳を自身に向けている姿を。
顔よし、性格よし。文句のつけようがない想い人の、身体中から湧き上がる熱に耐える姿が、艶めかしく見えて仕方がないのだ。


少しでも気を緩めたら絶対に襲う。そんな自信しかない。
だが、他の野郎に想い人の艶めかしい姿を見せたくはない。
左右田は落ち着くまで想い人の姿を腕の中に隠すという苦渋の決断を下したのだ。


持ってくれ、オレの理性…!!


ふー、ふー、と獣のように息を吐き、左右田は腕の中にいる想い人がこれ以上、自身に刺激を与えないことを願った。


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