06



なんとか身体の火照りは引いたようで、春香は保健室のベッドでぐったりとしていた。
疲れた…ただ、ひたすらに疲れた。
春香が小さくため息を零すと、罪木が慌てた様子で近づいた。


「はわわ…天霧さん、だ、大丈夫ですかぁ?」


「大丈夫…ありがとう、蜜柑ちゃん」


力なく笑いながら、心配してくれている罪木に礼を言うと、罪木は え、えへへ…と嬉しそうに笑った。
まだ体は石のように重いものの、保健室に運ばれた時と比べたら断然良くなっている。流石は超高校級の保健委員。


石のように重い身体に鞭を打ちベッドから起き上がると、罪木が焦りながら ま、まだ起き上がっちゃダメですよぉ!と必死に春香を寝かせようとしていた。
そんな罪木に少しだけ許して欲しいことを伝えると、渋々ではあるが了承を得ることが出来た。
まだクラクラするが、耐えられないほどではない。
だが、超高校級の保健委員である罪木が言うことだ。
ちゃんと従っておいた方がいいと判断した春香は、保健室内をキョロキョロと見渡した。


右隣には未だに眠り続ける狛枝を看病する雪染、左隣にはうーんうーんと唸りながら眠る澪田。その奥には七海やソニア、西園寺に小泉の姿があった。
どうやら肉じゃが事件の際に、七海が花村から西園寺を守ったようで、皆すごかったと話している。


少し前までバラバラだったクラスメイトが、ここ数日で七海を中心にとても仲良くなった。
少し離れたところから微笑ましい姿を見ていると、保健室のドアを控えめに開けた左右田が、心配そうに近寄ってきた。


「春香、もう起きてて大丈夫なのか?」


「うん、少しだけならね。心配してくれてありがとう、和一くん」


「そ、そうか…ならいいんだ…」


左右田は頭をかきながら、春香から少し視線を外した。
そんな左右田を見て、そういえば…と春香も先程あった事を思い出し、急激に体温が上がるのを感じた。
アツイ吐息、がっしりとした腕。ほのかに香るオイルと汗のにおい。
よりにもよって和一くんに、あんな乱れたような姿を見せてしまうなんて…!!!と羞恥心が春香を襲った。
どうにか悟られないようにと熱くなる頬に両手を当て、春香は左右田から視線を外した。



▼▽▼


翌日。未だにぐったりとしている生徒に雪染は、今日も元気を出していきましょー!と大きな声で言った。


「なんで先生はそんな元気なんだよ…」


左右田がだるそうに雪染に話しかけた。


「先生は大人だからねぇ…ああゆう経験は初めてじゃないの!」


と、雪染は得意げに言い放った。
年齢は近いが雪染は希望ヶ峰学園の卒業生だ。
在学中にありとあらゆる経験をしてきたのであろう…おそらく。
春香は机に伏せながら、窓の外に広がる青空を見つめた。


「なるほど…ですから、わたくしもぐったりしていないのですね」


「え?ソニアさん??それって…」


「はーーーい!それではホームルーム始めまーっす!」


今のは一体どういう意味だったのか。
突然の爆弾発言に皆が同じことを思ったが、聞き返した左右田の声は雪染の大きな声によってかき消された。


「立候補で決めてもよかったんだけど、独断と偏見で決めちゃいました!」


「何の…話じゃ?」


弐大が問うと、雪染は このクラスの学級委員!必要でしょと笑顔で言った。
確かに、このクラスには学級委員がいない。
あれだけバラバラだったクラスだ。
ほとんど教室に居ない人達が多かったので、今まで必要がなかったのだ。
しかし、雪染が副担任となってからクラス全員集まることが当たり前になりつつあったので、統率をとるため学級委員を決めることとなったのだ。


「このクラスの学級委員を…七海千秋さんにお願いすることにしました!」


「え…やだよ」


七海はゲームを一時停止しながら本当に嫌そうにするも、何事も経験よ と雪染は腕を組み、微笑みながら言った。
雪染の意見にみな同意のようで、七海さんなら…と声をかけていた。


無論、春香も賛成だった。
ここ数日、七海を中心にクラスメイト同士仲良くなっている。
これからもこんな個性派ぞろいのクラスをまとめられるのは七海くらいではないか、と春香は思っていた。


「ねぇ!天霧さんは?どう思う?」


空を見ていた春香は机に伏せていた身体を起こし、声をかけてきた雪染とこちらを見つめている七海を見た。


「私も賛成です。きっと…千秋ちゃんなら、クラスをいい方向に持って行けると思う。」


不確かで根拠もなく漠然としているが、何故かそうなるような気がした。


結果 七海は学級委員を承諾し、春香は頬杖を着きながら明るく まとまりができてきたクラスを一望し、笑を零した。


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