巧妙なそれは






「マネージャー志望の子、連れてきたったで」

 体育館からひょこっと現れて見せたのは、現バレーボール部唯一のマネージャーであるミョウジ。その言葉に3年と2年の男子共は沸き上がる。1年は今日はミーティングに参加させていない。

「遂に!」
「カワイイ系!? 美人系!?」
「うーん、どっちかっつーと、カワイイ系」
「ウォー!!!! マジかミョウジ!! でかした!!」

 春、部活募集の時点でなんと強豪校・稲荷崎高校男子バレーボール部のマネージャー志望はまさかのまさか、0人だった。バレー部のマネージャーは現3年生のミョウジ一人であり、遅くとも春高までしか部活動には参加できない。ついでに言えばインターハイも2ヶ月ほど前にを終えて、春高も目前に迫っている。
 と、なると稲荷崎バレー部にとって新しいマネージャーとは必須な存在であり、体験入部の時点でもっと本気でマネージャー募集に力を入れなかったことはバレー部強豪校にとって致命傷であると言えよう。

 そんなこんなでウンウンと割と真剣にバレーボール部3年生全員が勧誘方法に頭を悩ませた結果、ミョウジの顔面で落とすことになった。本気で悩んだ結果がそれか?と誰もが思ったが、どんな名案よりも客寄せパンダが居ればマネージャーは捕まえられるのだ。いい意味でも悪い意味でも3年生はミョウジの顔に頼りすぎている節がある。

 ササッと1枚のコピー用紙に適当に書いた男子バレーボール部マネージャー募集のチラシを1枚持ち、稲荷崎で一番顔面が強いと名高いミョウジは校門まで走った。どの部活動も気合いを入れる夏休み前のこの時期、帰る生徒は漏れなく全員帰宅部と決まっているのだ。ちなみにそれはミョウジの決め付けであって正確な統計ではない。

 そうして校門の前で待つこと数分、彼女が目をつけたのがみょうじなまえ。なぜみょうじに話しかけたのかと言えば簡単な話。ミョウジの顔を見た彼女が、校門に進めていた足を止めたからである。あ、顔面に引っかかったな、この子。瞬時にミョウジは悟った。あとは簡単。ちょっとの説明と外行きの顔で勧誘するだけ。


「____一緒にマネージャー、やらへん……?」

「……はいっ♡♡ 喜んで♡♡♡」
「ありがとお♡」

 即落ち二コマとはきっとこれのことである。


「……とりあえず、自己紹介してもらうわ」
「わかりました」

 ミョウジの後ろにぴったりとくっついて体育館に入ってきた女の子は、確かに美人かカワイイ系かと言われればカワイイ系だった。清楚っぽいその装いが好きな部員も少なからず居るのではないだろうか。
 しかしみょうじは部員に目もくれず、ミョウジばかりを見て目を細める。あ、マジで顔面に釣られてきたんだな……とその場の全員が悟った。この際ミョウジの顔面目当てだろうが何だろうが、なんだっていい。人手さえ集められればそれでいいのだ。

 そうして部員に向き合ったマネージャー候補は、先程までミョウジに向けていた顔を引き締め、眼光の鋭さを磨いた。

「特進T-Aクラス、みょうじなまえです。 男性と馴れ合うつもりはなのであまり近付かないでください」
「…………」
「……」

「はい、ちゅーことで私がマネージャー業務をマンツーマンで教えるからアンタらは放っといたって」
「お願いします♡ ミョウジ先輩♡」

「……いやいやいやいやいや!!」

 2年生が唸る隣で、3年生は空を仰いでいる者や頭を抱えている者も居た。








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終焉