Overdose
やっとんなアイツ。
ぼんやりと、先日引退した先輩マネージャーと入れ替わるように新しく入ったマネージャーのみょうじを見ていた。理由なんてない。休憩中暇だったから、なんとなくだ。みょうじが困ったようにうろうろと視線を彷徨わせている様子を、誰に助けを求めるんだろうかと眺めていた。
少しの間そうしていたら、そんなみょうじに気付いた休憩中であるはずの男がすかさず動く。髪型が些か特徴的なスロースターターミドルブロッカー、角名だ。それはそれは、休憩中は如何なる理由があってもテコでも動きません、と態度で示している角名からは考えられないような俊敏さで。
(やっとんなぁ……。)
角名が動くことはなんとなく想定の範疇だったが、そう思わずには居られなかった。
そうやって角名がみょうじに声を掛け、一言、二言と言葉を交わせる。直後、へにゃっと気の抜けるような笑顔を見せたみょうじが小走りで倉庫に向かうと、そのみょうじを追うように、生まれたての雛鳥よろしく角名も同じ方向へ向かった。
当たり前だとでも言うように己の後ろを着いてくる角名に気付いたみょうじは眉をひそめながら角名の袖を引いて、俺らの方を指さす。マ、大方休憩に戻るよう伝えてるんやろ。普段の角名を知っている人物なら誰だってそうする。俺かてそうする。と思う。……いや、俺やったらやっぱ手伝わせるかも……。
しかし角名はそれすらも意に介さず、自身の袖を掴むみょうじの手を一回りも二回りも大きな手で包み込み、そして根負けした彼女を連れて二人して倉庫に消えて行った。
ぼうっとその光景を見つめる俺。ふつふつと何かが胸の奥から込み上げてくる。突っ込んだら負けだと分かっている、分かっているが。さすがに我慢ならない。
いや、倉庫ぐらい一人で行けるやろ。
「ほんまやっとんな、アイツ……」
「何がやねん」
「アレ見てみぃ、サム」
「あー……あれは……」
やっとんなぁ……。仲良くお手手を繋いで倉庫へ向かう二人を見ては俺と同じようにそう言って、サムは楽しそうに笑う。角名とみょうじを見守るようなその視線は、己のそれと違って幾分か柔らかく感じた。
誰がどう見てもわかるような角名のゾッコン具合は、みょうじが入部してからものの1週間にして既に名物になりつつある。毎日バレー漬けで娯楽に飢えている俺たちにとって、あの二人は格好の餌食と言ったところ。今日も今日とて俺たちバレー部は、付き合ってもいない二人の関係を見守ってやるのだ。
+
「なぁ〜銀、くっつくと思う? あそこ」
「うーん、みょうじがミリも靡いてないからな……」
「いやまだマネージャーなって一週間やん、決めるん早いて……!」
「“マネージャーなったんは”な。」
「? どゆこと」
「あいつ入学式の日ぃに一目惚れしてから、ずっとみょうじに片思いしてるらしいねん……」
「は、マジで?」
「マジやマジ、大マジ」
「け、健気ぇ〜……」
「涙ちょちょぎれてまうわ……」
この時の俺たちは知らなかったのだ。この状況下はもう既に角名の計画の範疇であることを。畳み掛けるように虎視眈々と外堀を埋めて行く角名の怖さを。執念を。
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長編候補のお話になります。スランプにより続きのお話を書くのが難しい状況ですので、一旦短編として供養させて頂いています。
終焉