2
+
しかし私とて、三ツ谷が私の事を好きなどという情報を聞いて直ぐに受け入れた訳では無い。
最初はからかわれているものだと思ったし、友人として好かれている自信はあったもののその好意が男女のものだったとは思わなかった。思いたくなかったとも言う。しかしパーペーが私に噂をチクったその翌日あたりから三ツ谷に猛烈に絡まれるようになったのだ。これが最近の頭痛の種である。
例えば。
日直の仕事としてノートを集め、職員室まで持っていこうとすれば日直と何の関係もない彼から「手伝うよ」と半分以上取られるし、少しでも体調が優れない日なんかは「大丈夫?」と目敏く気付かれ、何度断っても保健室まで送ってくれる。
他にも、放課後部活帰りにばったり会った日なんかは「一緒に帰ろ」と何故か2人で帰ることにもなっていたり。普段一緒に帰っている友達も「どうぞ〜!」と私を物のように扱って三ツ谷に喜んで差し出している。楽しんでるよな、これ。しかしどう足掻いても私と三ツ谷は帰り道は真逆なので、私の家まで送ってもらい、そしてUターンして帰る三ツ谷を自宅から見送る謎の構図が出来上がってしまう。何故逆なのに一緒に帰りたがる?二度手間じゃない?信号まででいいじゃん。
少し前の水泳の授業では、私は生理で入水出来なかったため見学していた。していたのだが、日焼け止めも長袖ジャージも忘れて困っていると「これ着る?男の体操服だし、ヤだったら良いんだけど」って貸してもらった。しっかり「三ツ谷」と書かれたそれを着る私を見て満足気に頷いているのは解せなかったが。そもそも何で夏に長袖ジャージを学校に持ってきてるんだよ。男子は要らないだろ。……ちなみに柔軟剤どこの使ってる?
クラスの男子が教室で暴れて巻き添いを食らい、私のセーラー服のタイが破れちゃった時なんかは「オレで良かったら直すよ」って次の日には新品同然に。嫁力が高い。多分部活で直してくれてたんだと思うんだけど、あの女子だらけの空間でよく女子のタイを縫えたよね。ちょっと好奇の目で見られない?いや三ツ谷が良いならいいんだけどさ。
それを白昼堂々クラスのど真ん中でやるもんだから、クラスメイトに「今日も尽くされてんね」ってからかわれることもしょっちゅうある。それに、流石にここまでアピールされると自惚れなんかではないと気付かざるを得ない。そもそも三ツ谷は無駄に思わせぶりな態度を取るような奴ではないことは私も分かってる。気付かないふりなんて出来ないほどに、嫌でも特別扱いを受けているなって分かってしまう。
ただ申し訳ないが、私は三ツ谷をそういう目で見たことがない。無いから本当に困るし、ソワソワして落ち着かないから辞めて欲しい。多分三ツ谷は私が三ツ谷に好かれてることを自覚してるのを知らないだろうから、下手に私の事好きなの辞めてくんない?とも言えないし。言えたとしても自意識過剰ナルシストのヤベー奴認定待ったナシである。
ふと三ツ谷のピアスを見ると、キャッチが外れかけているのを見つけてしまう。要らぬお節介で直してやろうと三ツ谷の耳に触れると、ガタン!と大きな音を立てて立ち上がった。三ツ谷のピアスに触れていた私の手は行く宛もなく空をさ迷う。
三ツ谷が耳を抑えて真っ赤な顔しているところを見るに、あ、そういえばこいつ私の事好きだったなと思い出す。分かっていて敢えて「嫌だった?」と聞けば、優しい三ツ谷は否定した。
「……嫌だった?」
「そんなんじゃ、ないけど……。なんで?」
「ピアスのキャッチ外れそうだったから」
「ああ……。どこ?なおして」
結局私が直すんかい。
もう1回しゃがんで。そう伝えると素直に聞き入れた三ツ谷の耳を再度触る。丁寧にキャッチをはめてやると、次は三ツ谷が私の耳に触れた。
「みょうじの耳たぶ、薄いからピアス似合いそう」
「うーん、痛くない?」
「耳たぶは痛くねぇよ」
「え〜怖いよ」
「軟骨だと痛いかも」
耳たぶを触れていた手が、するりと登って軟骨を触る。すりすりと耳を擦られるとなんだか擽ったくて。オレがピアス開けてやろうか?なんてイタズラっぽく笑われてしまえば、校則違反だよバカ、とか頭悪そうな返答しかできなくて困る。あとそういう触り方も辞めてくれないかな。指の腹で耳の軟骨をすりすりしないで。ジワジワと顔が熱に包まれてゆく。
耐えかねた私が、ちょっと、と呟けばそれはそれはもう幸せそうな顔で、瞳の奥をどろりと蕩けさせて三ツ谷は笑うのだ。くっそ!!私の事が好きで好きでたまらないみたいな顔すんな!!
「……嫌だった?」
「………………」
コイツ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!!一言一句私と同じセリフ言いやがった!!!!
なんか照れくさくて、そういうのも全部自分が嫌になって、三ツ谷とは友達で居たい〜とか言ってる割には照れてんじゃんって。これ以上三ツ谷を見てたら変な気持ちになりそうで目を逸らした。
すると立ち上がった三ツ谷が私の両頬に手を宛てがい、無理やりに目を合わせる。ガチンと合わさった瞳は真剣で、どう逃げようか足掻く私には見ていられるものではなかった。
「なあ、こっち見ろよ」
「……見てんじゃん」
「顔あっか」
ねェ〜!!なんでなんで!?なんで私の事好きなくせにそんな余裕なワケ!?!?おかしいじゃん普通逆でしょ!?おい!!嬉しそうに笑うな!!
さっきとは比にならないくらいに心臓がバクバクと波打って、もう耐えられない。自分でも聞こえるくらいにドッドッドッて動悸して、私の顔触ってる三ツ谷には筒抜けなんだろうな。そう思うと心底不服になってきた。
「……何がしたいの? 三ツ谷、最近変だよ」
「わかんない? 口説いてるんだけど。」
「…………は?」
「知ってるだろ? 好きなの。もしかして、分かっててはぐらかしてる?」
……え?
え、ちょっと待って、私が三ツ谷の気持ちに気付いてるの、知ってたの?なんで?
さっきとは違う意味で心臓が音を立てる。私が知ってて気付かないふりしてたのを、それを更に三ツ谷が知ってて気付かないふりしてたってこと?え、どういう気持ちなの、それ。
「わざわざパーちんとペーやんに伝えてもらったんだよ。そしたら嫌でも意識してくれるだろ?」
「は……?」
「ちょっと余所余所しくなったのは傷付いたケド。」
「…………待って。 待って、無理だよ、私三ツ谷のこと友達だと思ってるもん」
「知ってる。 知ってて口説いてる。」
ここまで言い切ったところで、タイミングが良いのか悪いのか予鈴が鳴る。そういえばここは教室の真ん中だったことを思い出して周りを見回すと、クラスメイト全員が私たちを見守るように見ていた。うっっわ死にたいな……。
「……あ」
「へ、あ、なに……?、」
「今日も一緒に帰ろうな」
すり、と最後に耳たぶを触られ、はにかんだ後三ツ谷は上機嫌に自分の席に帰って行った。……え、なに、何が起こったの……?
この時の私は、あまりに進展しない状況に痺れを切らした三ツ谷が本腰を入れ始めたことなど、ペーとパーに私への好意を漏らした所から既に三ツ谷の手中に治まっていたことなど。何も知らなかったのである。
+