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病室、とは言っても、私が眠るのは病院のベッドなんかではない。植物状態になってからかれこれ数ヶ月は経つ。誰がいつ死ぬかもわからないこの世界で、「この子と離れて暮らすなんて無理よ」とハッキリ口にしたブルマさんの気持ちを病院側が汲んでくれたお陰で、私はブルマさんの住む大きな御屋敷の一室でずっと眠っている。
そんな病室へ頻繁に来るトランクスくんは、よく私に話しかけてくれる。独り言ともとれるそれから察するに、きっと私に意識があることは知らないんだろう。詳しく病院側が検査するまでは、誰も気付けないんだと思う。まさか体を強く打ち付けて目を覚まさなくなった女には意識がありました、だなんて誰も想像するまい。
もう長らくこのベッドと一体化している。もはや私は患者ではなく、病院側の設備やブルマさんの御屋敷の置物と言っても過言ではないほどにずっとずっとこのベッドに根を張るようにくっついている。
「……メルさん」
なあに、トランクスくん。
声には出せないけれど、心の中で相槌を打った。
「おかしな夢を見たんです」
トランクスくんは独りでにポツポツと語る。
目の前に横たわる私はぴくりとも瞼を動かさない。
「夢見が悪いくらいで来てしまうなんて、ほんと、情けないですよね」
そんなことないよ。話してごらん。
わしゃわしゃとその藤色の髪を撫でてやりたいのに、私の意思では身体は動かせないまま。私ったら本当に役立たず。
「あなたの腕の中で、息絶える夢でした。」
一体どんな夢を、と考えたところで、トランクスくんから放たれた言葉によって心臓が嫌な音を立てた気がした。立てた気がしただけで、私の心拍数を正確に図る心電図はピクリともしなかった。正常に、一定の速さで電子音を鳴らせている。
「おかしいですよね。あなたを守りきれず、昏睡状態にまで陥らせてしまったのは、俺の方だと言うのに」
そんなことないんだよ。絶対にきみのせいなんかじゃない。わたしは、あなたと生きる世界だけを夢見て、今まで生きてきたんだよ。
ねえ、トランクスくん、聞いてよ。
動いてよ、私の体。
「ねえ。聞いてください、メルさん」
……なあに。
トランクスは管だらけの私の手を取る。じんわりとトランクスくんのぬくい体温が広がっていくように感じた。よほど私の手が冷たく感じたのか、そのまま温めるように指を絡めてくれる。握り返しすことはできないけれど、あなたがそこに居て、そしてただ触れられることだけが今の私にとって唯一の救いだった。
「……もうすぐ、タイムマシンが完成しそうなんです」
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