全てを彼らに話したと言えば嘘になる。 何故なら約一点、“珀鉛病”についての詳しい詳細は伏せたのだから。 だが、長くは生きられない奇病として自分がとある“病気”に罹っている事や、カルヴァンの事。そして“ギルギルの実の能力”故に政府にその身を捕えられ、治療を受けていた事や、海軍相手に反撃した事等は包み隠さず打ち明けた。 そして、なまえが白ひげ達にそれを打ち明けてから更に月日は流れ…… なまえと白ひげ達はそれからも付かず離れずの関係を繰り返す事早12年。 父であるカルヴァンが“珀鉛病”を患っていなかったからか、はたまた政府から盗んだ『延命治療』の効果からか… 『白い町』でその世代に生まれた者としてはかなり異例とも言える、なまえが20歳の年の頃を迎えようとしていた、そんなある日のこと。 ドガアアアアァン!!!! 「?!」 10年もの月日が流れれば航海を再開した白ひげ海賊団の船にはもはや、なまえが拾われた時よりもはっきりと新入り達の方がその数を上回っていた。 そして、その中でも毎度毎度物凄い破壊音と共に吹き飛んでくる一人の男の姿があって。 「マルコ。あの人、誰?」 「あァ、ポートガス・D・エースっつー新入りだよい。オヤジが拾ってきたヤツだ」 なまえの為に約2年もの間一つの島に留まっていてくれた白ひげ。 なまえは全てを告白したあの日、もう“空間エネルギーの切断”の能力は使いこなせるようになったからと白ひげに航海を再開するよう促し、その際白ひげから『船医』としてついて来るようにとの誘いも受けたのたが、月に何度かは必ず会いに行く事を約束に、なまえはその誘いを断ったのだった。 そして白ひげ達が航海に出てからの10年の間で、モビーディック号の乗組員達の数はもはや4ケタ超え。 どうやらポートガス・D・エースなる人物もその一人らしいのだが… 「お前、“みょうじ なまえ”だよな?」 「!」 毎日のように白ひげに挑んでは弾き飛ばされているらしい彼に。 突如としてそう声がけられたなまえは、びっくりしたようにエースの顔を見た。 「そう、だけど…」 「ほんとに白ひげ海賊団の元に身ィ寄せてたんだな」 それにしちゃ現れたり現れなかったりしてるみてェだけどと続けるエース。 返答に窮したなまえはそこから背を向けて離れようと──── した瞬間、グイッと腕を引かれてよろめいた。 「暇なんだ。ちょっとくらい付き合えよ」 普段のなまえであれば即座にその手を振り払い、能力で瞬時に姿をかき消していた事だろう。 相手が年下なのであれば尚更だ。 だけども今回、なまえはそうしなかった。 毎日毎日勝ち目のない白ひげ相手に挑み続けては、派手に弾き飛ばされてるというエース。 そんなエース相手に何故だかはわからないが、少なからず興味を惹かれた。だから隣に座った。 「…言っとくけど、懸賞金に纏わる話も、ここにいる経緯についても。軽々しく答える気なんてないから」 なまえがそう宣言すると、エースは一瞬驚いたような視線を向けはしたものの、カカッと笑った。 「本人が望まねェ話をするつもりはねぇよ。それ以外ならいいだろ?」 なまえが頷くと、エースはトントンと船の床板を叩いた。 「なまえは白ひげ海賊団の事、どう思ってんだ?」 「…どうって?」 質問の意図が分からずなまえが首を傾げると、エースはんーっとしばらく考えるようにして船内を見回した。 「俺はこの海に出て、仲間達と航海を始めて。 それで“白ひげ”とも出会い、戦いを挑んだんだ」 そう遠い話でもないだろうに、目を細めて記憶を馳せるようにして話し出すエース。 「…だが、結果は散々だった。おれはあいつに『息子になれ』なんて言われて、気が付いたらこの船に乗せられててよ。おれを助け出そうとした仲間達も皆、選択肢無く乗せられてた」 エースのその話には、なまえも身に覚えがあった。 海軍との戦闘後、重傷を負ったなまえは目が覚めたらこの船内のベットに横たえられていて。 いくら歯向かおうと、逃げ出そうと。 “彼”や彼の“息子達”はなまえの身を案じ、襲い来る海賊達から守ってくれた。手を差し伸べてくれた。 ─── だから、今なら分かる。 「エドは選択肢をくれなかったんじゃないよ。 …だっていつだって『駄目』なんて言わなかった。ただ選び取れるまでの時間を、余裕を。 それを白ひげ海賊団の名の下で確保してくれて、その上で私たちが自分の足で道を選びとっていけるように…道筋を整えてくれてた」 迷わないように。 命を投げ捨てさせたりしないように。 「だからエースにも──── そうしてくれてるんじゃないの?」 「?!」 なまえのその言葉に、エースの中で雷に撃たれたかのような電撃が走った。 『おれの息子になれ』と声がけてきた白ひげ。 その後白ひげは意識を失った自分を船に乗せたばかりか、共に海に出た自分の“仲間達”も乗せてくれていた。 そして来る日も来る日も奇襲をかけ、刀を向ける自分に。 彼は跳ね返してこそすれ、それ以降手を上げてくる事はなくて。 海に落ちれば彼の“息子達”は引き上げてくれて。 口も心も開こうとせず、傷だらけの体で座り込んでいれば、その傍らにはいつも食事が置かれていた。温かい湯気の昇る皿が。 「─── ッ」 「この船は温かすぎるよね。 気持ちを切り替えられずにいる間は、特にそう感じちゃうね。…でもさ、」 体育座りのような状態で膝に顎をつけていたなまえはそこで一旦言葉を切り、エースの方を向いた。 「何でか安心するし、信じてみたくなっちゃうんだよね。私は10年近く経ってもまだちょっと、応えられそうにはないんだけど… エースにはもう、その答えが出てるんじゃないの?」 俯き、唇を噛み締めるエース。 それに気付いたなまえはフッと笑って、少し離れたところから自分たちの方を見ている、白ひげの方を向いた。 いつだって白ひげはなまえの事も、エースの事も。 突き放す事なんて訳なく出来た。見て見ぬフリをしたまま、航海を続ける事が出来た。 だが彼はそうせず、なまえの時は2年もの間一つの島に留まり続けてくれ、エースの場合は奇襲が100回を超えても見捨てる事はなくて。 「ほんと、親がいたらこうなのかなって、思わせてくれるんだよね」 きっとエースは“白ひげ海賊団”の一員となるだろう。 そしてきっと、右腕となるほどの実力も誇るのだろうと思った。 それがなまえが“白ひげ海賊団”と出会い、さらにはエースがその一員となるきっかけとなったとある日の出来事だった。 ページ: |