約束の土曜日が来た。
なまえちゃんとデートするのはもう何度目になるだろう。きっと僕はその全部を憶えているけれど、数えたことはない。
待ち合わせのカフェに、可愛い服装のなまえちゃんがやって来る。それは僕のためのオシャレだと思うと、心がくすぐったくなった。手を振ってから立ち上がって、街中を並んで歩き出せば、僕らは他人から見ても立派なカップルだ。

「ごめんねトド松、ちょっと遅れちゃって」
「そうだった?なまえちゃん待ってる時間ってすぐ過ぎちゃうから全然分かんなかった」
「トド松って、本当そういうの上手いよね」

はにかむように笑って、左肩を小突かれる。くすぐったいくらいのその衝撃に、僕もはにかんでしまった。

「今日は、コスプリ撮るんだっけ?」
「それはメインイベント!他にも見たい雑貨とかあるし、とりあえずモールのほうに行かない?」
「いいよ、私も花瓶買おうかなって思ってたし」
「花瓶?なまえちゃん、花とか飾るほうだっけ?」
「ううん、自主的には全然。たださぁ、毎回カラ松がくれる花をコップとかに飾るのも可哀想かなーって」
「うわ、あのサイコパスそんなことしてたの?ごめんね、迷惑ならちゃんと言わなきゃダメだよ?」
「言ってる言ってる。お金ないのにわざわざ買って来なくていいって。そしたら、今度は摘んで来るようになったから諦めた」
「ほんっとうに気持ち悪いな…」
「慣れたら案外嬉しいよ」
「え、じゃあボクも今度花贈るよ。あ、今から花屋行く?」
「もー、やめてよトド松」

僕たちの関係はとても良好だ。喧嘩なんかしたことないし、他の女の子以上になまえちゃんは付き合いやすくて気兼ねないし、一緒に居て凄く幸せな気持ちになれる。

「あ、モールと言えばね。この前チョロ松兄さんの服買うのに付き合ってあげたんだー」
「え、チョロ松も服とか買ったりするの!?」
「あはは、だよねー。ボクもかなり驚いたよ」
「ちょっと待って、槍が降らないかゴーグル先生に聞いてみる…」

本当にスマホで検索し始めるなまえちゃんに笑った。
チョロ松兄さんは、きっとこんなに楽しくて面白いなまえちゃんを知らない。というか、あいつはなまえちゃんの良いところの半分も知らないはずだ。ただ、なまえちゃんの優しさに甘えて、馬鹿にして、高校のときからずっとそうしてたのに、なんで、どうして急に。そうは思うけど、これは時間の問題なんだ。なまえちゃんと一緒に居たら好きにならずにはいられない。それに気がつくのに時間差があるのは仕方ない、けど落ちるところはみんな殆んど一緒だ。

「そうだ、この前来たとき知ったんだけど、フードコートのクレープ屋さんが入れ替わってたんだよ!だから、あとでそれも食べようね!」
「いいね!何味があるかなぁ」
「納豆とかあったら、なまえちゃんそれね」
「じゃあトド松は、ウニとかあったらそれね」
「あったらね」
「あったらね」

くだらない掛け合い。これが楽しくて仕方ない。
僕は、なまえちゃんが好きだ。勿論、キスしたりそれ以上のことがしたいって意味の、好き。
でもここで明確にしておかなければならないことがある。

僕の恋は終わっている。

高校二年の夏。
一回目は誰も居ない放課後の教室だった。冗談交じりに言ってしまったのが災いして、なまえちゃんに僕の気持ちは半分も伝わらなかった。だから、返事は特にもらっていない。
二回目は体育の授業後、水飲み場に向かうなまえちゃんを呼び止めて、生徒の捌けたグラウンドで真剣な告白をした。けれど、一回目の名残なのかそれとも普段の行いのせいなのか、やっぱり上手く伝わらなくて、あいまいにかわされてしまった。
三回目はベターに校舎裏。ここまでしたらさすがのなまえちゃんも分かったみたいだった。しつこい奴だって罵られても仕方ない僕相手に、なまえちゃんはどこまでも真摯な目で僕の告白を最後まで聞いてくれた。そのうえで、僕はフラれたのだ。
それからの僕たちは、親友と呼べる関係になった。相手を大切にはするけれど、それ以上のことは求めない。友達以上だけど、決して恋人には昇華されない立ち位置。ここはきっと地獄だ。

それでも僕は、なまえちゃんと居ることを望んだんだ。
一緒に居られればいい。もしかしたらいつか彼女が僕のことを好きになってくれるかもしれない、そんな不毛な期待もあった。けれど、こんなに長く一緒に居れば嫌でも分かる。なまえちゃんは僕を選ばない。これは絶対にだ。なんではっきりと言い切れるかって?それはきっと僕となまえちゃん以外の誰にも理解なんて出来ない。「そんなに仲良いなら、チャンスくらいあるだろ?」とのたまったのは一軍様である某A君だけれど、彼に僕らの関係を理解出来ていたとは思えない。一軍様にも分からないのだ。じゃあ、他の誰にも分かるはずがない。
僕らは、決して変わることのない永遠の親友。僕がなまえちゃんを好きになった結末であり、好きでいるがゆえに落ちた先なのだ。
僕はこれからもなまえちゃんのすぐ近くに居たい。でも、僕は恋人にも夫にもなれない。じゃあどうするか、なんてのは至極簡単な話だ。
僕以外の兄弟がなまえちゃんと結婚してくれればいい。そうすればなまえちゃんは松野なまえになるし、今よりも確実に切れない確固たる繋がりが僕となまえちゃんに生まれる。
実際問題、結果さえそうなってくれれば僕はその相手が誰だって良かった。勿論、なまえちゃんが幸せにならなきゃ意味なんかないんだけど。でも、きっと僕は高校時代から気づいていたのだと思う。なまえちゃんが僕たち六つ子の誰かと恋に落ちるなら、チョロ松兄さんしかありえないんだって。
チョロ松兄さん以外の兄弟が如何になまえちゃんを好きになっても、口説き落とそうとしても、きっと結果は僕と同じだ。あいつらも僕と同じところに落ちてくる。けれど、チョロ松兄さんだけは違う。言うなれば、あいつは初めから僕たちとは違う部屋に居たんだ。そのことに気づいているのは、断言しよう、僕だけだ。
あのクソ鈍い三男は、そんなこと考えたこともないだろうし、なまえちゃんだってチョロ松兄さんを意識したことなんてないだろう。
だからこそ、僕らとは違うってことを、この二人は知らない。

「トド松!見て見て!この花瓶、猫の形してる!一松が喜びそう…」
「一松兄さんに花瓶プレゼントする気?カラ松兄さんが薔薇飾って喧嘩になってすぐ割られちゃうよ」
「うわ、凄い想像出来る」

笑いあって、雑貨屋を見て回る僕たちは、ただのトモダチ。
でもいつかね、僕は絶対に君と切れない縁を結ぶよ。だから、あのクソダサ童貞松兄さんには頑張ってもらわなきゃ。


閑話・ドライモンスターの独白
(2016.07.23)


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