チョロ松と付き合うことになって二日。
私はまだ、そのふわふわとした感覚を自分の中で整理出来ないでいた。
プリ機の中の狭い空間でキスをして、好きだと言われた。まるで嘘みたいな話だ。だって、あのチョロ松だよ?童貞ニートで、女の子相手にすぐポンコツになるようなクズだよ?出会ったときから、私にだけ興味がなくて、六つ子の中でもよく言い争う関係。それがチョロ松。なにか言えばすぐ怒鳴るし、ムカつくから言い返したりからかえばすぐ声を荒げるそんな奴。
そいつが、私に好きって言って、恋人になりたいと言って、キスしたり抱きしめたりして来て、なぜだか私はそれに絆されてしまった。

正直に言うと、キスされたときも、告白されたときも、凄くドキドキして大変だった。あんなにも心臓が落ち着かないことなんて体験したことがない。だから、これは当然の結果だったのかもしれない。

ポキポキン♪
あ、LINEだ。
”次いつ休みなの?”
メッセージはチョロ松からで、本当に必要最低限のその文章は一切の甘さを含まない。チョロ松って彼女が出来たら彼女相手にとことんポンコツになるもんだと思ってたけど、そうでもないらしい。相手が私だからだろうか。それはそれでムカつくな。

まだ分かんない
休日出勤もあるから
既読 19:55

あ、そう
分かったら教えて
19:55

りょ(o゚3゚b)b☆
既読 19:57

夜 露 死 苦 ( ▼д▼ )y-~
19:57

煙草は嫌い
既読 19:58

(´;ωp[す、吸ってませんから]q
19:58

|ョω・)ジィー
既読 19:59

(〃*`Д´)カチーン!
彼氏を信用しろよ!
19:59

|ョω¬)→ジト-ン
既読 20:00


ピロリロリン♪ピロリロリン♪


「え、電話?…はい、もしもし?」
『ほんっとうに吸ってないから!!』
「ぶっ、ま、まさかそれ言うために電話して来たの?」
『あとお前の顔文字ムカつく』
「チョロ松の顔文字もムカつく」
『あと』
「まだあんの〜?」
『声、聞きたくなった…』

うわ。なにそれ。

「…………」
『…え、もしかして引いた?えっ?』
「…ううん、ときめいてた」
『っぶ!!《ドダン!ガダガラドシャン!》』
「え!?ちょ、チョロ松!?大丈夫!?」
『…だ、だいじょぶ』

結構凄い音がしたけれど、本当に大丈夫だろうか。

『…今、なにしてたの』
「え、今?えっと、仕事から帰ってきてちょっとだらだらしてた」
『ご飯は?』
「あ、お昼に買ったおにぎりを会社で…」
『なにそれ、不健康』
「家帰って来てからだと、遅くなっちゃうじゃん」
『お前、帰りいつもこんな時間?』
「んー、だいたい」
『なにそれ、聞いてない』
「うんまぁ言ったことないけど」
『危ないじゃん』
「最近は明るいから平気。それに駅から家までそんなに距離無いし」
『はあ?お前ね、前から思ってたけどちょっと危機管理能力低すぎない?』
「そう言われましても…」

なんかチョロ松のお小言が始まってしまった。チョロ松って意外と過保護なんだなぁ。ていうか、なんか、凄い恋人同士って感じの会話。ちょっと恥ずかしい。

『明日終わるの何時?』
「え、仕事?」
『うん』
「えっと、五時半が定時で、なんだかんだで六時半くらいかな」
『え、なにそれブラック?』
「いや、そういうわけじゃないんだけど。なんだかんだね?色々頼まれたりしちゃって…みんなも定時には帰らないし…」
『うわ、日本人の悪しき風潮。周りが帰らないから帰れないってやつ。しかも定時過ぎてんのに仕事頼まれんだ?労基に違反してないのそれ?』
「分かんないけど…、でも残業代が元々給料に含まれててね?」
『それっておかしくない?残業って義務じゃないでしょ。なんで元から組み込まれてんの?』
「えっ…そう言われると…なんで、なんだろ…?」
『…まぁいいや、じゃあ六時半ね』
「え?もしかして、迎えに来てくれるの?」
『当たり前だろ』

さも当然だと言い切ったチョロ松に、ちょっとときめいてしまった。あれ、チョロ松ってこんなに男らしい奴だったっけ…

「……ありがと」
『…べつに、お礼言われることじゃないでしょ』
「そ、そっか、うん…えーと、じゃあお願いします」
『うん、じゃあ明日』
「うん」
『…………』
「…………」

え、なにこの無言の時間。これってもしかして、「あなたが電話切ってよぉ〜」「お前が切れよ〜」「えーあなたが〜」「じゃあ一緒に切ろっか」「分かった…せーの」「「………」」「切れよ〜もぉ〜!」みたいなやつ!?うげぇ、嘘でしょ違う違うそんな感じじゃないでしょ私たち!?やめてよそんな小っ恥ずかしいこと!!ないない!ありえない!

「じゃ、じゃあ、切るね?」

ここは先手必勝。チョロ松が黙るなら私から切ってやる!

『あっ、ちょっと待って!』
「っ、な、なに?」
『……あー…、えっと…』
「…チョロ松?」
『…ちょっと待って、ここじゃ…《ギシ、ギッギッ、ガララ…カロロ、》…よし、ここなら』
「え、チョロ松?なに、外出たの?」
『あー、うん、ベランダだけど』
「どうして?」
『…はぁー…ふぅ…』
「え、なになに、どうしたの…」
『なまえ』
「は、はい」
『ぼくと、付き合ってくれてありがとう』
「………っ、」

息を呑んだ。顔に熱が集まって、脳みそが溶けそう。
ああ、電話口でよかった。ううん、電話口だからこそ、チョロ松の声がダイレクトに鼓膜に響いて、頭の中は大事故だ。ドキドキと脈打つ音がスマホをあてた耳のすぐそばで聞こえてる。心臓が耳に移動したのだろうか。

『…ごめん、それだけ…言いたくて』
「…チョロ、松」
『会って言えって話なんだけど、面と向かってとか…上手く言えるか、分かんなくて』
「……私も、今の顔見られたくないから、電話でよかったかも…」
『え!なにそれ!すっげぇ見たいんだけど!?今から会いに行ってもいい!?』
「なんでアンタは欲望にアクティブかな」

あーもう、かっこいいこと言うかと思ったらすぐこれだ。まったく、呆れてしまう。

「バーカ、もうお風呂入るからダメ」
『なおさら会いたくなった…』
「…ヘンタイ」
『男なので』
「バカ!…もう切るからね」
『うん、じゃあ明日。…おやすみ』
「ん、おやすみなさい…」

画面に通話終了の文字。
スマホを眺めて息を吐く。私たち、本当に付き合ってるんだなぁ。ふつふつと湧いてきた実感に、恥ずかしくなって意味もなく転げまわった。

「っあイタ!」

ごろごろしすぎてテーブルの足に小指をぶつけてしまった。足を抱え込んで悶える私のなんと滑稽なことか。
…はーあ、…チョロ松のくせに。童貞のくせにーっ!


閑話・ドキドキしっぱなし
心臓のストックを購入しないとダメかも…
(2016.07.24)


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