「…っ痛く…しないで…?」


なーんて言葉を言ってもらえるような状況になれるはずもなく。ええ、まぁ童貞ですから。童貞ですから?ええ、そんな勇気も根性もありませんでしたよ?
精一杯の気持ちで押し倒してみたけれど、僕はすぐさまなまえの上から飛び退いた。いっぱいいっぱいすぎて、このままじゃ下半身がお見苦しい状態になるのを付き合って間も無い初めての彼女に晒してしまう!という防衛本能が瞬時に働いたのだと思う。グッジョブ僕。
「男を甘く見てると、こういうことになるよ」と取って付けたようなセリフを吐くと、なまえはアホなことに納得したらしい。「分かった、気をつける」と平然と頷いて、お茶の準備に戻ってしまった。こいつの危機管理能力本当に底辺だな。絶対に大丈夫じゃない。

「はい、麦茶」
「…ありがとう」
「私、シャワー浴びて着替えてくるから、テレビとか勝手に見てていいよ」
「はっ?!」
「え?」

え?なんなの?なんでそんな平然とシャワー浴びてくるとか着替えてくるとか言えるの?ていうか僕はいつまでお前の家に居ればいいの?!どういうのが正しい男女のお付き合いなの!?僕もう分かんない!!分かんないんだけど!?

「あ、そっか…電車、で帰るよね」
「…ま、まぁ」
「じゃあもうそろそろ終電だから、帰らないといけないよね」
「…………」
「…………」

黙るのやめて。
いや、先に黙ったのは僕だよ?でもさ、お前の話し方とか声色とか表情とかで、もしかして帰ってほしくないのかなー?とか思っちゃうじゃん!このまま一夜共にする?いや、早すぎない?!早いよね!?普通は付き合って三ヶ月はそういうことはしないはずだよね?!そりゃ、キスは付き合う前にしちゃったし、僕もアレは順序間違ったな、早まりすぎたなって思ってるし。なにこいつ僕にどうしてほしいの!?

「…とりあえず、シャワー浴びてきなよ。疲れてるだろ?」
「うん…じゃあ、ちょっと行ってくるね?テレビ見てていいし、本も適当に読んでていいから」
「分かった」

姑息な手だろうけど、答えを先延ばしさせて頂いた。だって、こんなの童貞の僕に決断出来るわけがない!!そりゃ僕だってなまえと一緒に居たいよ?でもなまえは明日も仕事でしょ?なら無理とか出来ないじゃん?いや、なにを無理するって話だけど、それはもう徹夜でお喋りとかそういう健全的なアレであって邪なアレじゃない。そんなの考えてるわけがない。
でも、既に寛いだ状態から「じゃあ帰るね」って凄く言いづらい!!だって本音を言えば帰りたくないもの!ずっとこの部屋に居たいよ!!凄く良い匂いするし、狭いワンルームが女の子らしく統一されてるし、なまえが普段ここでなにをしてるか想像しただけでもう、…あっ。

いかんいかん。いかんぞ、松野チョロ松。ここでシコ松になってどうする。それが意味するのは恐らく、なまえとの永遠の決別だ。それだけは避けたい。絶対に嫌だ、死んでも嫌。
ていうか、なまえの部屋に居る時点でもう無理だよね。僕は童貞だよ?自他共に認める拗らせDTなんだよ?そんな奴が女の子の部屋に、しかも合法的にそういうアレが許されてる彼女の部屋に二人きりで居るんだよ?とりあえず、枕の匂いとか嗅いでもいいかな。

「ごめん、忘れも…の」
「…………」
「…なにしてんの?チョロ松」
「……いや、寝心地良さそうだなって…」
「あ、眠いの?」
「…………うん」
「じゃあ寝てていいよ、戻って来たら起こすね」

たたたったっタスカッター!!!こいつの危機管理能力低くて本当に良かったー!!!もう終わったと思った!!終わったと思った!!!あと枕から花のような香しい匂いがするんだけど!!僕らの枕なんかおっさんの裏側の臭いとかするのに?こいつマジで妖精かなんかなんじゃないの?あー癒される。マジで寝そう。ただのベッドだよ?なまえが居るわけじゃない。それなのに、なにこの安心感。すげー気持ちいー……

「…まつ、…ロ松、ねぇ、チョロ松、」

…あ、うそ、もうそんなに時間経った?マジで寝てたのかな…。幸せって体が重くなるのかなぁ、全然動かないや…

「起きて、終電なくなっちゃうよ」

いや、声小さいよ、それ起こす気ないでしょ。もう全然起きれないもん、もっと叫んでよ。じゃないと、このまま

「おーい、チョロ松さーん…」

あー、すごいきもちいい。あたまなでられてる…きもちいいなぁ
なまえのにおい、すきだなぁ…


・
・
・

「…ん、…ぅ」

薄ぼんやりとした視界の情報が脳みそに届く。拙い瞬きを数度。目を開けることを諦めて、腕の中の温かいものを抱きしめた。抱き枕の感触じゃないから、こりゃ人だ。…十四松…いや、向き的におそ松兄さんか…うわ、おそ松兄さん抱きしめるとか気持ち悪い。でもなんだか小さいし、柔らかいし、良い匂いがする。絶対これおそ松兄さんなんかじゃない。じゃあ誰だ…?母さん?なわけないし…じゃあ…、あれ?僕、今どこに居るんだっけ…

「ッハ?!」

バッと目が冴えて視界が突如クリアなものになる。薄暗い室内。これは僕らの部屋じゃない。OK。ベッドの上。OK。腕の中が温かい。OK。寝てるなまえを確認。NOT OK。

マジでこいつなにしてんの、なにしてんのこいつマジで。
貞操観念大丈夫なの?なんで寝てる男の腕の中入り込んで一緒に寝てるの?しかも素っぴんでパジャマだね?可愛いね?可愛すぎて、心臓が出したこともないような音で脈打ってるよね?むしろ胸が痛いくらいだよね?天使かよこいつ。
辺りはまだ暗くて、暗闇に慣れた目で壁の時計を確認すると深夜二時を回って少し経ったくらいだった。僕、なまえのベッドで寝ちゃって、そのまま流れでお泊りしてるのか。

初カノのお家にお泊り。

官能的な響きすぎるだろ。嘘だろ。なんでドキドキもワクワクもないままお泊りしてんの僕。いやドキドキはずっとあったけど、起きたらいきなり添い寝って心臓に悪すぎるよ。アホかよ。

「んん…ぅ…」
「…ッッ!!」

ううううう唸った!!しかも胸に頭擦り寄せて来てるんだけど!?ぐりぐりされてるんだけど?!ごめん、もう無理。無理ムリむり、これ一回トイレ行かないとやばい。

「…ちょろ、まつ…?」

バッド↓タイ↑ミングッ↓!!空気読めよ!!むしろ空気読むなよ!!!タイミング良すぎかよふざけんな!!!

「…おきたの?」
「ごごごごめん、ね、寝ちゃって、た…のかな…ははっ、はは…」
「んー…おきなかった、から…わたしも、ねちゃった…」
「そ、そう」

早くトイレに行かせて!!お願いだから!!なんならお風呂場でもいいから!!

「…ちょろまつ」
「な、なに…?」
「やだったら、いってね」
「え、なに…っ」

ぎゅっと、なまえが抱きついてきた。背中に回った手が、力なく服を掴んでいる。僕の胸に頭をぐりぐりしたあと、少し頭をあげて、今度は首元に顔を寄せてくる。息がくすぐったくて、ビクリビクリと身体が戦慄く。
すぅ、…はぁ。ってオイ、臭い嗅ぐなよやめろよこっちは風呂も入ってないんだよ。てかお前の匂いで俺はおかしくなりそうだよ。

「…ん、ちょろまつの、におい」

はああ?なにそれ、はああぁあ??汗臭いってこと?俺の臭いってなに?おっさんの裏側の臭いのこと?なんなのこいつ、マジでなんなの?呂律回ってねぇじゃんえろすぎかよ本当にもう!!!えろいんだよさっきから!!やること為すこと全部に下半身が反応してるんだよ!!!絶対気づかないで!!!

「んー…ちょろ、まちゅ」
「ッッ…っ?!」

ま、ちゅ?まちゅって言った?言ったね?この子ちょろまちゅって言ったね?可愛すぎるね?犯罪だね?逮捕されてもおかしくないね?ていうか強姦されてもおかしくないね?じゃあ、いいよね?

「なまえ、」
「ん、」

なまえの熱い体を抱き寄せて、顔を上げさせる。まだ覚醒しきらない虚ろな目が、とろんと僕を見上げている。僕は我慢しきれなくて、性急になまえの半開きになった唇にかぶりついた。
僕の耳に入るのは、衣擦れの音、それから互いの唾液が跳ねる音、自分の上擦る息遣いだけ。抱き寄せた手で腰を撫でて、そのままお尻を撫であげ引き寄せた。弾力のある肉感に指が僅かに食い込んで、手のひらにじっとりと汗が滲む。こいつどこもかしこも柔らかいのかよ。ありがとうございます。お尻サイコー。もっと触っていたいけど、そこまでの勇気は無くて、手はなまえの腰に戻る。でも、おかげでぴったりと下半身がくっついて、僕のそうなったアレが布越しになまえの太ももに触れている。むしろ擦りつけているような状態だ。興奮しすぎて息がつらい、どうにかなりそうだ。

「はぁっはぁ、なまえ、?」
「……ん、ちょ、ろ…、」
「なまえ…っ」

やばいやばいやばい。頭では分かってる。だって僕らはまだ付き合って日も経ってない。第一ここには避妊具も無い。童貞だし知識なんか全然ないけど、こういうのは男の理性が切れて暴走して赤ちゃんこんにちはして責任問題になって別れてシングルマザーになるなまえに苦労をかけるクズな僕が生まれるという構図が簡単に想像出来る。いや、そうなったら勿論責任は取るし、働くし、なまえとの子供なら可愛すぎて死ねると思うし、つまり、つまりは。
もう、僕、我慢出来ないんだけど。

「……ぐぅ…」
「…………なまえ…?」
「………すぅ……すぅ…んん……」
「………………」

すぅすぅじゃ、ぐぅじゃ、ねぇええええんだよおおおおお…ッ!!!
おま、マジか、マジかよ…っ!!!さっきまで寝ぼけてたけど起きてたじゃん!!!起きてた、じゃん!!!

「んぅ…ちょろ、ま…ちゅ…うー…」

首元に擦り寄ってくるなまえに僕の理性はビクリと爆発した。


閑話・デニムの中の白い隠し事
…死にたい…っ!!
(2016.07.26)


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