つい先日、高校時代から馴染みのある女の子とデートをした。
デートって言っても名ばかりの練習で、その日僕は如何に自分が最底辺童貞であるかを自覚することが出来た。人気のパンケーキ店ではトイレで吐き通し、人生二回目くらいのプリクラでは口喧嘩して終わった。因みに、人生初のプリクラはトド松に誘われて兄弟六人で撮ったときだと思う。記憶から消したい。
居間のちゃぶ台に項垂れながら、先日撮ったプリクラを眺める。
ふざけた格好した僕の隣でぎこちなく笑ってる子は、みょうじなまえ。会えば一度は言い争いになる関係の女だ。なまえは僕の理想とする女の子とはかけ離れてるし、普段なんかジーパンにTシャツのラフな格好と化粧っ気もない顔でうちにやってくる。性格は大雑把でノリが良くて、細かいことはあまり気にしない、男側からすれば付き合いやすいめんどくさくない奴。だから、意識するとかそんなことは一切ない。僕もなまえ相手にポンコツになったことはない。一言で言えば、いい奴だ。
でも、この前の格好は凄く可愛かった。
プリクラを眺めて、スマホの画像フォルダを開く。オオカミのコスプレをしたなまえはプリクラでも写真でも大変可愛らしい。いや、コスプレのお陰っていうか、デートに着てきてくれたワンピース姿も凄い可愛かったから、多分なまえは普通に可愛いのだ。僕が今までそれに気づかなかっただけで、なまえは普段も普通に女の子だった。現に、他の兄弟の対応は女の子に対するそれだったように思う。今考えてみれば程度のものだけど。
「なにしてんの?チョロ松兄さん」
今日はいつもみたいに出掛けたりしないのか、ピンクのパーカーを着た弟が、ちゃぶ台の上に項垂れる僕を見下ろしていた。
「…べつに」
「え!あ!?もしかしてそれ、プリクラ!?嘘でしょ!?シコ松兄さんが誰とプリクラなんか!!?」
「シコ松って言うな!!」
「って、なんだーなまえちゃんかー。いやなまえちゃん相手でも大事件だけど」
「え、お前これなまえってすぐ分かるの?」
「え?分かるでしょ。まんまなまえちゃんだし。てかこのコスプレなにー?すっごいイタいんだけど…まさかなまえちゃんにコスプレ強要したの?!うっわないわー」
コスプレに対しての言葉はまるっと無視をして、僕にはそれよりも気になることがあった。
「トド松、まんまなまえってなに」
「は?え、なにどういうこと?」
「だってこれさ、普段のあいつより断然可愛くない?別人でしょ!」
「そりゃプリクラだもん、目も大きくなるし肌も明るくなるけどさー。でも、なまえちゃんはそれでもあんまり差異のないほうだと思うよ?普段から目も大きいし、肌も綺麗じゃんあの子」
「……マジで?」
「いや、マジで」
トド松の言っているなまえと、僕の知ってるなまえは同一人物なんだろうか。
「てか、これいつ撮ったのー?チョロ松兄さんの分際でなまえちゃんとデートとか、死んでくれって思うんだけど」
「お前が死ね」
ごめんくださーい。
とインターフォンの無い玄関から声が聞こえた。
「あ!噂をすれば!なまえちゃーん!」
パタパタと玄関に駆けて行ったトド松が玄関を開けた音がする。
いらっしゃーい、ボクに用?
あはは、トド松は相変わらずだなぁ
ゆっくりして行けるなら、囲碁でもしない?ほら、教えてほしいって言ってたでしょ。
お、いいねぇ、やろっか
そんな会話が聞こえてきて、そろりと玄関へ続く襖を開く。
「あ、チョロ松、やっほーお邪魔してます」
「あ、うん…」
「そうだ、チョロ松兄さんとプリクラ撮ったでしょ!しかもコスプリ!」
「うわ、バレたの!?墓まで封印してほしかった」
「ねぇねぇボクとも撮ろうよー、今度いつ空いてる?」
「いやいや、あれかなり恥ずかしいよ?いいの?」
「なまえちゃんとならオッケー!」
「あはは、じゃあ次の土曜日なら空いてるからその日は?」
「よし!決まりー!他の兄さんたちには内緒だからね?」
「頼まれても、もうこれ以上コスプリとか勘弁だよー」
楽しそうにトド松と遊ぶ予定を立てているなまえは、やっぱり僕が知ってるなまえなのだけど。なんだ?なんだろう。
「なんで、可愛いんだよ…」
二階に上がっていくトド松となまえの背中を見送りながら呟いた。
閑話・トド松とプリクラ
(2016.07.18)