ふと本が読みたくなって大学図書館に赴いたら、本とは縁遠い二人が同じ机に座っていた。

「フッ…今日も眩い美しさだななまえ…、かの女神ミネルヴァも嫉妬する知性と美しさに目眩がするぜ」
「ここ競馬新聞置いてないじゃーん、ラインナップ悪いなぁ」
「館内ではお静かにお願いします」

どうしておそ松とカラ松が。
この“どうして”は、どうしてここに居るのかということではない。どうして図書館について来るのがこの二人なのかと言う“どうして”だ。チョロ松とトド松辺りならまだ分かる。今更付き纏われてることについて疑問に思うわけないじゃないですか。

私の手には、資料集や画集なんかの棚で漁った写真集や歴史資料集が数冊。勉強したいわけではなく、言うなれば無駄知識の補給だ。ちょっと脳みそ動かせればそれで満足するので、目で楽しいものを選んだ。
ちらりと二人の手元を見ると、カラ松は漫画の三国志、おそ松に至っては手ぶらである。まぁ、いいけれど。

「なぁなまえ〜、お兄ちゃんとお馬さん見に行こうぜぇ?この静かさに耳痛くなってきちゃったよ」
「やはり三国志はいいな…男の生き方を教えてくれる…ううっ」

机に投げ出した上半身をごろごろさせるおそ松と本気泣きし始めるカラ松を無視して、私は目の前の写真集に視線を落とす。写真の向こうにある美しい世界の絶景に想いを馳せて、いつか生で見られるだろうかと思いながら楽しむ。こういうのもたまには良いものだ。

「なに?こういうとこ行きたいの?」

突如横から顔が出てきて、びくり。顔を向けるのも憚られるほど密着した位置にいるおそ松に、つい眉間に皺が寄る。いつの間に。

「俺が連れてってやるよ。なんたってカリスマレジェンドだからね、余裕」

なにが余裕か分からない。見上げると得意げに鼻の下をさするおそ松が胸を張っていた。

「…期待せず待ってるよ」
「おう!任せとけ、なまえが望むならどこでも連れてくよ〜?まずはお馬さんでも見に行く?」
「それは望んだことない」
「じゃあ海行く?」
「その海には物語って付きますよね?」
「もうじゃあなに、なにが望みなの?!」
「静かにしてほしい」

そろそろ周りの目が痛くなってきて、私は溜め息をついた。結局、私が折れるしかないのだろうか。
手に取った本のいくつかを借りて、図書館を出ることにした。せっかく電車乗り継いで来たのに。

「どこへ行くんだ?」

さっきまで泣いていたカラ松が、流れるように私の荷物を手に取る。すんなり奪われたトートバッグを横目に、ついでだから買い物をしようと思い立った。

「なまえ〜、お兄ちゃんお腹空いてきたよ、今川焼き食べたいなぁ」
「自分で買いなよ」
「オレも腹が減ったな…、なまえ、なにか食べて行かないか?」
「勝手に食べに行きなよ」
「あ、じゃあなまえ作ってよ!俺チャーハンが良い!」
「オレは唐揚げが良いな!」
「そういえばお昼ご飯まだだな…」
「だろだろ!?じゃあ決まりな!なまえんちでチャーハン!」
「唐揚げ!!」

子供のようにはしゃぐ二人を連れて、スーパーマーケットや雑貨店で買い物を済ませて家へと帰る。荷物を持ってもらったお礼と、自分の空腹を満たすためにご希望通りにチャーハンと唐揚げ、付け合わせにわかめスープを作った。カロリー摂取量が気になるが、まぁいいか。
テーブルに並べた食事はあっという間に男二人の胃袋に流れ込み、普段食事を与えられてないのかと思うほどの勢いに気圧されていたら唐揚げが無くなっていた。まぁ、べつにそこまで好きなわけじゃないから食べられなかった後悔は特に無い。
食後は借りて来た写真集を開き、改めて世界の絶景に没頭する。

「なあなあ、なまえちゃーん。構ってくれないとお兄ちゃん寂しい」
「それほどまでになまえの視線を独占するとは、嫉妬してしまうな…、もっとオレを見てくれないか」

相変わらずうるさいな。ご飯を食べたら大人しくなるかと思ったが、お腹いっぱいになってより元気になってしまったらしい。なにも与えなきゃよかった。

「なぁ、無視しないでおくれマイハニー…オレの心はお前を求めてボルケーノさ」
「日本語喋れ」
「なぁなまえ〜、それ見るよりお昼寝しない?俺、眠くなってきちゃったよぉ」
「勝手に寝てな」
「そうだ!居間に布団を敷いて三人で眠るのはどうだ?オレの腕の心地良さに、もう一人寝には戻れなくなるぜぇ?」
「もーいいじゃんごろ寝で、なまえを抱いてりゃあったかいし」

腕を引かれて力任せに居間でごろ寝することになる。前と後ろから抱きつかれて動けないし熱いしで私にとっては良いこと無しなのだが、この二人はそれで満足なのか少しもせずに寝息を立て始めた。
カラ松の腕枕は硬いし、おそ松は私の胸に頭を埋めて離れてくれないし。私の読書時間を返してほしい。

「なんだこれ」


起きたら一発ずつ殴ろう


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