久しぶりに女友達から連絡が来て、ちょっと季節外れのキャンプに行こうと誘われたのは先週のことだった。
キャンプというよりロッジを借りた、女子だけのお泊まり会。日々男六人に付き纏われて、女子同士の会話に飢えていた私は二つ返事でそのお泊まり会を楽しみにしていたのだ。
「おはよー!なまえ!こっちこっち!」
「ごめんごめん、おまた、せ…」
「やっほーなまえちゃん!」
「どうして居るんだ」
女子だけのはずが、なぜか我が物顔で私に手を振るトド松の姿。確かにお前は女子より女子力あるけど、決して女子ではない。
「あれぇ、なまえってトッティと知り合いなの?」
「トッティ!?」
「うん、なまえちゃんとは小学校からの友達なんだよ〜?ね!なまえちゃん」
「ええ!そうだったのー!?世間て狭いねー」
私の友人三人ときゃっきゃうふふしているトド松ことトッティ。私は一人置いてけぼりを食らっている。
「トッティとはねマツッターで知り合ったの!やっぱ女だけって言っても男手も必要かなって」
「だよねー、それにトッティはうちらより全然女子だしねー!」
「わかるー!トッティマジ女の子!」
「もう、やだなぁ。これでもボク、男なんだからね?」
「可愛いー!その言い方が可愛いもん!やばいよね!」
目を閉じて、深呼吸。
まぁ、トド松一人なら…大丈夫だろう。他の女の子も居るわけだし、下手なことにはならないはず。
「なまえ!旅行楽しもうね!」
「う、うん」
友人にそうウィンクをされてしまったら仕方ない。精一杯楽しもうじゃないか。
トド松が運転するレンタカーで、私たちは湖の畔りに建ち並ぶロッジの一つへとやって来た。室内は綺麗で、窓からは広い湖を一望出来る。個室がいくつかあって、一人一人のベッドもついてるしキッチンもある。なんとも快適な空間だ。
「お肉とか魚介類いっぱい買って来たからベランダのところで炭焼きしようよ!専用のテーブルついてるみたいだよ!」
「あーお腹空いてきたぁ、早くやろやろぉー!」
「トッティ、炭の準備出来る?」
「うん出来るよ、炭焼きの準備はボクがするからみんなは食材の準備してていいよ」
「頼れるー!」
女四人がキッチンに集まると、手も動かすけど口もよく動くもので、話題はどうしてもトド松のことに行き着くようだった。
「トッティってさぁ、彼女居るのかなぁ?」
「ね、ね、なまえ、どうなの?」
「え?なんで私に聞くの?」
「だって、小学校から一緒なんでしょ〜?」
そう言われても。トド松のことで知ってることは、私のストーカーをしてる童貞クズニートってことくらいだし、彼女…は恐らく居ないだろう。居たら大問題だと思うし。
「居ない、と思うよ?」
「へぇー、居そうなのにね!」
「うんうん、可愛い彼女居そう」
「勿体無いよねぇー!」
「じゃあ誰かトド松と付き合ってみたら?」
「えー、それは、ねぇ?」
「べつにブサイクじゃないけど、なんかちょっと違うんだよねぇ〜」
「男の子ってより女子的なイメージ強いしね?」
「そうそう、女子っぽい!それはあるよね」
まぁ、女の本音なんてこんなものか。
「私、ちょっとトド松の手伝いしてくるね」
「オッケー!こっちは任せて!」
ベランダに出ると、既に火は起こっていて、トド松はベンチに座って湖を眺めていた。
「おつかれさま」
「ん?ああ、べつに。そんな大変じゃないから」
「実際助かったよ、多分トド松居なかったら炭焼き出来てなかったと思うし」
「ふふん、惚れ直した?」
「まず惚れてないからね」
「せっかく頑張ったのに」
「みんな、トド松は彼女居そう〜だって」
「え、ほ、ほんとに?」
「まぁ、居そうだなって思うのと付き合いたいってのは別みたいだけどね」
「…ま、ボクにはなまえちゃんが居るからイイけどね…」
不貞腐れるトド松が唇を尖らせる。私から見ても、六つ子のみんなは彼女が居てもおかしくないとは思う。むしろ彼女作ってくんないかな、そしたら私への執拗な執着も落ち着くだろうし、前までの友達に戻れるんじゃないかな。
「バイトでも始めて、出会いが増えればさ。彼女くらいすぐ出来るでしょ」
「……そうかな?」
「そうだよ。みんな早く彼女作ってくれればいいのに」
キラキラ光る湖を見ていると、心穏やかにそう思える。私だって、みんなと普通に過ごしたり遊んだりしたい。馬鹿みたいなセクハラも笑って流して、みんなで楽しく一緒に居られたらいいのに。
「なまえちゃん」
「んー?」
ベンチから立ち上がったトド松が私の隣に来る。いつものあざとい笑みを浮かべているけれど、その目は真剣で少し怖いくらいだ。
「今の、兄さんたちには言っちゃ駄目だよ?」
「え?今の?」
「好きな子に彼女作れって言われるの、凄くつらいから」
「……へ」
「特に上三人には絶対言わないでね、そんなこと言ったらボクらでも止められないと思うよ」
最後ににっこり笑ったトド松は、何事も無かったように室内へと入って行ってしまう。残された私は、トド松を見送った視線を湖に戻してぼんやりしていた。
ストーカーされてんだから当たり前なのかもしれないけど、六つ子は揃いも揃って私なんかを好きらしい。…よく分かんないな。好きになるきっかけなんか無かったと思うし、だいたいあいつらはいつもトト子ちゃんの尻を追っ掛けていたはずだ。今更になって、なんで私なんだ。
「あ!本当に火ぃついてる〜!」
「お腹空いた!早く焼こう!どんどん焼こう!」
「ホイル焼きの準備もしてきたよ〜」
「わあ、すっごい楽しみー!ほら、なまえちゃんもおいでよ!」
早速炭焼きは開始され、それから日が沈むまで五人でゆっくりとお酒を飲みながら食事を楽しんだ。トド松は三人の姦しい話題にも余裕でついていって、時々私のほうが話題に置いてけぼりになるくらいだ。
「やぁー…食べたねー…」
「軽く三日分くらい食べたし飲んだぁー…」
「私デザートなら食べれそう」
「あはは、みんな気持ちいいくらいいっぱい食べるねー!」
「やだぁ、トッティもいっぱい食べてたじゃーん」
「ボクもさすがにお腹いっぱいだよぉ」
きゃっきゃと笑う四人を眺めて、私も穏やかな気持ちで笑う。なんだかんだ、楽しかったなぁ
「ねぇ、トッティって好きな子居ないのぉ?」
「あ、いいね恋バナしよ恋バナ!」
「どうなのトッティ〜!」
「好きな子かぁ…居るには居るんだけどねぇ」
ギクリとしてトド松を見る。ちらりとだけ視線が合った。
「えー!意味深な言い方!」
「なになに脈無い感じなの?」
「うーん、あんまり好きだって気づいてもらえてないみたいなんだよね」
「え!そうなの?」
「うん、しかもライバルが多くてさぁ」
「うわあ、高嶺の花ってやつだ」
高嶺の花でもなんでもない。ごくごく普通の一般人が六つ子に付き纏われてるだけですよ。とは言えないので、代わりに缶チューハイを呷る。
「アドバイス無いかな?諦められないんだよね」
「いいよ!いくらでもアドバイスするよ!トッティのためだもん!」
「ほんとに?ありがと〜!」
「でもどんな人なの?」
「うーん、どっちかと言うとサバサバしてるかな。でも料理上手だし、可愛いところもあるんだよ。あと優しくて、心も広いかなぁ」
「うわ、ベタ惚れじゃん!」
「えへへ、まぁね」
「サバサバで家庭的な子かぁー…、連絡取る頻度とかは?」
「殆んど毎日会ってるから、LINEとかはあまりしないかな」
「え、毎日会ってるって同じバイトとか?」
「えっと、近所だから毎日その子の家に遊びに行ってるんだよね、朝ご飯作ってあげたりとかしてるよ」
「えぇ〜健気ぇ…、それ本当に脈無いの?」
「子供の頃からの付き合いだからか、恋愛的に意識してもらえてないみたいなんだよねぇ」
「なるほど、幼馴染ってやつだぁ」
「そしたらもう告白するしかなくない?一回目の告白で意識してもらって、それから怒涛のアタック!って感じはどうかな?」
「ねぇねぇ、なまえはどう思う?」
「えっ?」
突然話を振られてきょろきょろする。いや、だってそれ多分私の話だし、どうするもこうするも…
「…アピールの仕方が、強引なんじゃない?」
というかとりあえずストーキング行為をやめてみたらどうだろうか。
「まぁ確かにねー、押してダメなら引いてみろだよトッティ!」
「んー…そっかぁ、引いてみるのも手だよね」
「そうだよ!頑張って!応援してる!」
「うん!ありがとう!」
和やかに恋バナは次のターゲットに移り、私はそそくさとトイレに立った。
だいたい、あの人私を飼い慣らしたいとか言ってたからね。他も揃いも揃って簡単に脅迫してくるし、セクハラは止まないし不法進入はするし盗撮盗聴当たり前だし…裁判で圧勝出来るよ私。
トイレを出ると、トド松が目の前に居た。トイレを使うのかと道を開けたら、グイッと腕を引かれてベランダから見えない階段の陰に連れ込まれる。
「ちょっと、なに」
「押してダメなら引いてみろって言われたからね」
「物理的な引くじゃないんだよそれは」
「でもボク、なまえちゃんに会えない期間が三日以上空いたらノイローゼになっちゃうと思うし」
「もう少し強く生きろ」
「明日にはもう帰るでしょ?ボクがなまえちゃんを一人占め出来るのは今日くらいだから、存分に甘やかしたいんだよね」
「結構です」
「一緒にお風呂入る?」
「入りませんね?」
「じゃあ、ぎゅう〜ってするだけ。これなら良いでしょ?」
そう言いながら、トド松は既に私を抱き締めている。断る隙すら与えないのに、わざわざ疑問形にする必要もないだろう。
「…てか、トド松は顔広いんだね。まさか私の友達と繋がってるとは思ってなかったよ」
「ふふ、ボクのマツッターのフォロワー数聞いたらびっくりすると思うよ?」
「ネット弁慶め…」
「それに、なまえちゃんの友達だから仲良くしてたんだよ」
「うわあ怖い」
「ボクに死角は無いからね、外堀埋めるのはボクにしか出来ないことだし」
「それはストーキングの一種なのかなヤンデレなのかなどっちもなのかな」
「なまえちゃんって病なら患ってると思うよ」
「人を病原菌みたいに言うのやめてくれる?」
まったく、言葉も無いよ。こいつら六つ子は一人一人のストーキング能力が高いから、私はもうどうしたらいいか分からないところまできている。この先の人生、ずっと六つ子のストーカーを抱えて生きていくのだろうか。ちょっと憂鬱だなぁ。
その後は何事も無く、次の朝にはロッジを出発して、近くの観光地を巡って帰宅したのは夜のことだった。
松野家でトド松と別れようとしたら、残りの五人も合わさって強制的に松野家へ連れ込まれた。仕方なく、私一人だけお泊まり会延長戦が始まってしまったのだった。ああ、疲れる。
おうち帰りたい