「ぼく、なまえちゃんとチュウしたい!」
「アッ結構です」

夕方過ぎになって、野球をして来たのだろうドロドロの十四松が訪ねてきた。ので、玄関を閉めた。

「え!え?!なまえちゃーーん!!開けてーー!!」
「ご用件はなんでしょう」
「なまえちゃんとチュウしたい!!」
「開けかねます」

施錠をしっかりして、先程までしていた読書に戻る。諦めたのか玄関から物音は聞こえなくなっていた。

「なまえちゃん!!」
「わあっ!!」

驚いて目を向けたらいつもの笑顔が隣にありました。十四松の顔はホラーなんだよ、そろそろ自覚してほしい。

「どこから入ったの」
「台所の窓からだよ!」

オッケー、侵入経路の一つが発覚しました。明日にはあそこの窓を潰してしまおう。

「ていうか十四松、体汚いよ」
「野球してきたからね!」
「うん、帰ってお風呂入りなよ」
「えー…でもなまえちゃんに会いたくて」
「でも正直、そんな格好で家の中うろうろされるのは迷惑かな」
「うーん、分かった!じゃあお風呂貸して!」
「え、貸すのは良いけど…着替えは?」
「ふっふっふっ!」

怪しげに笑った十四松が、居間にある戸棚へと向かっていく。あそこにはお茶っ葉とか、来客用の食器セットなんかを入れていたと思ったけれど。

「じゃーん!着替えはありまーす!」
「勝手に人んちの棚を使わないでくれるかな」

見ると引き出しの一つには六つ子たちの私服が綺麗に収納されていた。いつの間に。なんなんだこの革新的な侵食は。

「じゃあお風呂借りるね!」
「お、おう…」

解せない気持ちを抱えながら、十四松を見送る。読書に戻るも、気もそぞろでページが進まない。あれっ、ここって私の家だよな…?

「どうしたの?」
「十四松って足音しないよね」

気づいたら隣に居る十四松に内心ドキドキしつつ、本を閉じる。もうこうなっては読書どころではない。ていうかお風呂上がるの早いな。

「あ、そうだ!ぼくね、ぼくね!」
「ん?」
「なまえちゃんとチュウしに来たの!」
「拒否する」
「えっ!!」
「むしろどこにオッケーの要素あると思ったの?唐突すぎてさすがの私も驚いてるよ?」
「えっとじゃあ待って!待ってね、えっと…説明する!」
「うん、説明求む」

十四松が説明にあたふたしている間に、濡れっぱなしの十四松の頭を拭いてあげることにした。居間の畳に雫がボタボタ落ちてるのが気になって仕方ない。

「あんね、なまえちゃんが赤塚に帰って来て二年経つでしょ?」
「あーもうそんなに経つんだ」

ということは、私はこの六つ子にストーカーされて二年も経つということか。まったく感慨深く感じないけど、見上げた根性だなとは思う。

「そんで、もうそろそろ良いんじゃないかっておそ松兄さんが言いだして」
「いいってなにが?」
「そろそろ本気でなまえちゃんのそばに居たいなって!」
「君らはいつも本気で私のそばに付き纏ってると思うけど…」
「そうじゃなくて、えー難しいかなぁ」
「説明放棄しようとしないで頑張って」
「だからね、ぼくらはなまえちゃんが好き!なまえちゃんのそばに居たい!ここまではいい?」
「う、うん」

なんで十四松は半ギレなんだろう。私が理解力無いみたいな空気なのなんでなんだろう。

「だから既成事実を作れば良いんじゃないかって」
「飛躍が凄い」
「それでなまえちゃんはぼくに一番甘いから!ぼくが一番手でチュウしたらあとは拒否出来ないよね!って!」
「えぐい怖い帰って」
「えー!?まだ分かんない?」
「いや、理解の問題じゃなかったよ。言うなれば君らの倫理観が問題だと思う」

なんだその既成事実って。キスしてなし崩しにセクハラし放題しようぜ!って言ってるおそ松の顔が目に浮かぶもの。そんなの許可出来るわけがない。

「十四松、あのね…もっと自主的に考えてみて、変だなって思ったらお兄ちゃんに従わなくて良いんだよ…?」
「でも、ぼくなまえちゃんとチュウしたいよ?」
「うーん、でもさ、そういうのって両想いの相手とするもんじゃない?」
「なまえちゃんはぼくのこと嫌い?」
「いや、そうじゃなくて…そう、恋人同士がするもんでしょ?」

そう説明すると、十四松は腕を組んでなにかを悩み始めた。なにを悩んでいるかは知らないが、まぁこれで考えを改めて突飛なことを言わないでくれると嬉しいんだけど。

「なまえちゃん」
「なんだい」
「ぼくらはね、なまえちゃんがぼくら以外の男と居たら嫌だよ」
「…それは随分身勝手な…」
「ぼくらはみんなでなまえちゃんを幸せにしたい。これからもみんな一緒に居たい。なまえちゃんがぼくらの誰か一人を選んでもそれは変わらないし、ぼくらは未来よりも今を一番大事に思ってるから、なまえちゃんを今すぐにでも手に入れたい」
「………は」
「だから」

両肩をがしりと掴まれた。力強すぎて身動きが取れない。
あれ、あれっ、と混乱している内に

「観念してほしいなって思うんだけど」
「じゅ、し…まつ…?」
「どうかな?なまえちゃん」

キス、された。
まさか十四松に奪われるなんて思ってもなかったから、脳みそが事態に全然追いつかない。ふぁ、ファーストキスなんですけれども。

「話は聞かせてもらったー!!」
「成り行きもばっちり見させてもらったよ!!」
「この盗聴盗撮野郎共…ッッ!!」

居間に飛び込んできた五人のおかげで少し正気に戻れました。

「いやぁ偉かったねぇ十四松〜!よーしよしいい子いい子」
「えへへ、頑張りました」
「フヒッ、これで既成事実は出来たね?まさか十四松としといて他の奴と出来ないなんて言わないよねぇ?」
「まぁ、しょうがないよね。等しくぼくらにもキスする権利あるでしょ」
「ボクこの日のためにリップ新調してきたんだよ、リンゴの味がするんだってー!ボクと甘酸っぱいキスしてみない?」
「フッ…、オレとの熱いベーゼで腰が砕けても知らないぜぇ?」

………………

「なまえ?固まっちゃってどったの?」

………………

「おーい?」
「え…、や、やりすぎた…?」
「ハ、ハニー?」
「おそ松兄さんのせいだからね!?」
「なまえちゃんっ、嫌だった?嫌だった!?」
「おいクソ長男とりあえず土下座しとけって!」

顔を覗きこんできたおそ松の顔面に正拳突き。をしようとしたけど、全然力が入らなくて、私の拳はぽすりとおそ松の胸の松マークに当たっただけだった。

「…なまえ?」
「…私は、…この先ずっとアンタらに付き纏われて、普通の恋愛も結婚も出来ないんだ…?」
「そんなの、俺たちとすりゃいいじゃん?」
「私一人で変態クズ童貞ど底辺ストーカー六人を相手にしろって?本気で言ってんの?」
「オレたちはいつでも本気だ!!本気で、なまえを幸せにしたいんだ…っ!!」

笑っちゃう。本当に、早く仕事見つけてそれぞれに恋愛して結婚して、私なんか相手にしなきゃいいのに。

「……上等だよ」
「「「えっ?」」」
「上等だコラァ!!たかだかゴミクズが六つ集まって私のこと幸せにしようってんなら、やってみやがれ!!泣いて嫌だって言うまで付き合ってやるよ!!」
「「「なまえ(ちゃん)…っ!!!」」」

啖呵を切った。切ってしまった。もう混乱が度を越えて目眩がしている。わらわらと抱きついてくる六人とは今後も末永いお付き合いになるらしい。

「じゃあ、その…なまえ、俺らもキスして良いかな…?」
「いいけど、私とキスした人はケツに花火突っ込んで打ち上がってくれる?」
「「「えっ!?」」」
「とりあえず十四松、ちょっと打ち上がってよ」
「えっ!!え、えっ!?」
「あ、冗談とかじゃないから。私の家の窓から見える位置まで打ち上がらなかったらノーカンね」
「「「え…っ!?」」」

その日、季節外れの打ち上げ花火が六発打ち上がった。


たーまやー


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