緊張しただけ


「んーっ、疲れた!私ちょっと休憩!」
「さっきも休憩って言ったばかりですよね?」
「気のせいよぉ。日番谷隊長!瀞霊廷通信の原稿出しました?私持ってくのでまだだったら貸してください!」

日番谷隊長は机の引き出しから封筒を取り出して歩み寄ってきた。

「貸せ、俺がいく。神谷は松本見張ってろ」
「ええ〜っ」
「だったら私が持っていきます!九番隊なんて遠いから、」

そういえば九番隊といえば、檜佐木副隊長のテリトリーじゃないか。しまった。

「よかったですね日番谷隊長!ほら葵、ちゃんと修兵に手渡ししてくるのよ!」

笑顔の乱菊さんに封筒を2つ押し付けられた。引き受けるんじゃなかった。わざわざ私から会いに行くなんて。

「…乱菊さん、逃げ出しちゃだめですよ」
「わかってるわよ。ちゃんとここで、修兵と何があったか教えてもらうために待ってるわよ」
「原稿渡すだけで何かあるわけないじゃないですか」

気が重いが、私は九番隊の編集室へと向かった。
想像通りというか、もちろん檜佐木副隊長の霊圧を感じた。一つため息が漏れるが、気を引き締めて、扉を叩いた。

「十番隊三席の神谷です」

そしてまたしても、中から扉を開けられた。そこまで出迎えてくれなくても、どうぞと返事を貰えれば自分で開けるのに。

「おはよう!わざわざ俺に会いに来たのか!?」
「…おはようございます。これ、日番谷隊長と、貴方の好きな乱菊さんからです」
「…ありがとう。けど俺が好きなのは葵ちゃ、」

最後まで言わせたくなくて、副隊長に向かって無礼かもしれないが、封筒で口を叩いた。

「せっかくなので言っておきますが、少なくとも人前でそういうこと言う人は、嫌いです」
「…ごめん」

私から余計なことを言ってしまったせいなのに、素直に謝られてばつが悪くなる。どうしても、この前の告白を思い出してしまって心が乱れる。

「私こそ叩いてすみません。まだ仕事があるので、帰ります」
「また来てくれよ」
「…用があれば、また来ます」

いい返事ではなかったと思うのだが、檜佐木副隊長は嬉しそうに微笑んだ。でも、笑顔でいてくれるならそれでいい。昔の話だとしても、つい最近までは憧れの人だったんだ。冷たくしてへこまれるのは、好ましくない。

「神谷さんちょっと待ってください!」

帰ろうとしたら編集室の奥から誰か来て、檜佐木副隊長を押し退けて前に出てきた。

「あの、よかったら今度の瀞霊廷通信の記事にさせてもらえませんか!?神谷さん可愛いし美人だし、人気出ると思うんですよ!」
「別に、人気なんかいらないですし…」
「最近売り上げ落ちてきてて総隊長に叱られてるんですよ〜っ!神谷さんの可愛さがあれば、絶対に売り上げも伸びます!!助けてください!!」

なんで可愛さを売り出さなきゃいけないんだ。私は死神であってアイドルじゃないし、絶対嫌だ。

「乱菊さんの方がいいんじゃないですか。私の百倍綺麗ですよ」
「松本副隊長は綺麗系!神谷さんは可愛い系として!どうにか!お願いします!」

手をとり頭を下げてお願いされ、なんだか可哀想に思えてくる。でもここで折れたら嫌な仕事をしなければならない。仕事なら何でもするわけじゃない。

「やめろ、困ってんだろ」
「えーっ、でも、檜佐木副隊長だって神谷さんならいけると思いませんか!?」
「そういう問題じゃねぇ」

檜佐木副隊長はその人の手と私の手を離れさせた。

「嫌がってんだ。売り上げのために女の子に嫌な思いさせるわけにはいかねぇだろ」
「…はーい。ごめんなさい」

気の毒に、肩を落として編集室の中へと引き返していった。

「すみません、協力できなくて。ありがとうございます」
「いや、こっちこそ部下がすまん。けど本音言うと、俺がただ葵ちゃんを独り占めしたかっただけだ。瀞霊廷通信なんかに載せたら、敵が増えそうだし」
「仮に増えたとしても、私は誰も相手にしませんよ」
「俺で手一杯だもんな」
「…檜佐木副隊長のことも相手にしてないです」

手を焼いていると解るなら控えめになってくれればいいのに。

「じゃあ相手にされるくらいには頑張るよ。明日の夜とか暇だったら飯付き合ってほしいんだけど」
「残念ですが明日は任務でお出かけです」
「げっ、何があるんだよ」
「普通に虚討伐です」
「…怪我とかすんなよ?」
「私これでも三席ですよ?心配無用です」

久しぶりだから私も不安だけど、そんな泣き言は言えない。人に弱味なんか見せたくない。もし部下にでも知られたら、部下が不安になってしまうし。

「…頑張れよ」

檜佐木副隊長は優しくそう言って、私の頭を撫でた。普段誰もそんなことしてこないから、なぜだか緊張して、顔に熱が集まった。

「え、」
「頑張るに、決まってるじゃないですかっ」

やばい、気付かれた。
檜佐木副隊長の手を避けて、私は一目散に逃げ出した。
赤面なんてしてしまったら、檜佐木副隊長に勘違いされてしまう。私は檜佐木副隊長のことなんか好きでもなんでもないのに。
それなのに、しばらく顔の熱は引かなかった。

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