忘れられない



記憶の無くなった葵ちゃんと、朝までずっと、色んな話をした。死神になってから何があったのかとか、そんな話だ。少しでも記憶を取り戻すヒントになればいいと思って。だから喋っていたのはほとんど吉良だけど、俺の知らない葵ちゃんの話がたくさんでてきて、寂しくなった。ほんとに俺は、葵ちゃんのことを何も知らなかったんだ。

朝からは俺も吉良も仕事に戻った。
仕事の後で会いたかったけど、一日に何度も押し掛けたらまた嫌がられそうで、明日の仕事を今日残業してある程度終わらせて、明日の休みを奪取した。


「葵ちゃん、いるか?」
「はい」

午前中から葵ちゃんの病室を訪ねたら、昨日と違って普通に体を起こして本を読んでいた。

「怪我大丈夫か?」
「ええ、治療してもらって、だいぶ良くなったので」
「そっか」

顔色も良くなっているし、安心した。
近寄って椅子に座れば、じーっと顔を見つめられた。

「…どうかしたか?」
「昨日のこと、全部忘れて欲しいです」
「…は?」

真面目な顔で何を言うかと思えば。何を言っているんだ。

「檜佐木副隊長に、昔のこと話すつもりなんかなかったです。吉良くんにも言うなって言ってあったのに、勝手に話して…」
「…おい、記憶戻ったのか?」
「そうですよ。それ聞いたから今日来たんじゃないんですか?」
「いや、心配だったから来ただけだ。けど良かった、記憶戻って。ほんとに一時的だったな…」

ほっとした。俺に対して冷たい葵ちゃんに戻ったわけだけど、これでよかった。

「…何か怒ってる?」
「怒って見えるなら吉良くんのせいですね」
「…そんなに知られたくなかったことなのかよ。それって、俺のこと、今はもう憧れちゃいないからか?」

元々こんな俺が憧れて貰えていたことが間違いだったんだろうな。それに憧れだなんて距離のある感情が、恋に変わるわけがなかったんだ。

「勝手に解釈してへこまないでください。今でも、少なくとも仕事の面では檜佐木副隊長のこと尊敬してます」
「…少なくとも」
「解らないですか?ただ……もういいです。忘れてください」
「はぁ?何だよ、言えよ」
「…昔の自分を知られて、恥ずかしいだけです」

そう言う葵ちゃんの顔はだんだん赤く染まっていって、可愛かった。

「…泣いてたもんな」
「忘れてください」
「仲良くしたいって言ったら、よかったとか言って笑ってくれるし…」
「忘れてください!」
「一人にしないでって言われた時はもう、」
「忘れてください!!」

護廷隊という環境が葵ちゃんをこんなに強気にしてしまったのか。悲しい。

「けど俺、泣き虫の葵ちゃんも強気な今の葵ちゃんも、両方好きだよ」
「…ありがとうございます。だから何ですか」
「いや、葵ちゃんのこと色々知れて、嬉しいなぁと」
「…そうですか」

あとは、今の葵ちゃんのことも知りたいけど、あんまり一気に聞いても教えてくれなさそうだし、また今度。

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