十番隊の三席
例の忘年会の日の記憶が割りと飛んでいた。飲みすぎたなぁと反省はしている。しかし日が経っても、忘れたくても忘れられないのは、三席の彼女の顔だった。
もう一度会って、自己紹介くらいしてもらおう。あの時は酔っていたし、シラフで会えば別に平凡な顔だったかもしれない。それならそれで、俺のこのもやもやは無くなるはずだ。名前も知らない余所の三席に現を抜かすのはやめよう。
「うわっ!」
そう思って十番隊まで足を運び、彼女の居場所を聞くためにも執務室まで行こうと思ったら、目当ての彼女と廊下でばったり会って、あの日と同じように声をあげてしまった。彼女は当然怪訝そうな顔で俺を見上げた。
「…こんにちは。私の顔を見るたびに化け物でも見たかのような声を出すのはやめていただけませんか」
「わ、悪い…つい、可愛くて」
「はぁ…」
また言ってしまったと後悔するが、返ってくるのはため息だった。冗談で言っているとでも思っているのか。
「それで、この十番隊まで何か用があったんですか?見たところ手ぶらのようですが」
「…まぁ、それはおいといて。名前、教えてくれよ。俺のこと知っててくれたみたいなのに、俺は名前知らないの申し訳ないし」
「あぁ…すみません、申し遅れました。十番隊三席、神谷葵と申します」
強引に話をそらしてみたが、彼女は素直に自己紹介をしてくれた。
「葵ちゃんって呼んでもいいか?」
「はい!?」
「はい、ってことは良いってことだよな、葵ちゃん」
「ま、待ってください、聞き返しただけであり、承諾したわけでは、」
「それじゃ、俺帰るわ」
「用があったんじゃ…」
「もう済んだ。葵ちゃんに会いに来ただけだから」
俺にしては頑張って素直に伝えれば、葵ちゃんは目を丸くさせて驚いていた。
「…ちゃんと、仕事した方がいいですよ、副隊長なんですから」
「あぁ、心配ありがと。またな」
またね!なんて可愛い返事はもちろん返ってこなかったけど、それでよかった。ただ彼女に会えただけで、心が満たされた気がしていた。
次はいつ会いに来よう、なんて、そんなことを考えてしまっていた。
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