初めてのウソ
あれからずっと、葵ちゃんに会いに行けずにいた。葵ちゃんからも吉良からも何の報告もないし、俺ってその程度だったのか、と落胆する。
葵ちゃんへの想いが断ち切れないまま会いに行けるような強靭な心は持ち合わせてはいなかった。
「檜佐木副隊長、電話です!」
「誰からだ?」
「神谷さんです」
ドキッとした。トキメキなんかじゃなく、動悸の方だ。居留守を使うわけにもいかず、俺は電話をとった。
「もしもし、檜佐木だ」
『お忙しいところすみません、神谷です』
「どうした?」
盗み聞きをして勝手にショックを受けただけなんだから、せめてまだ、普通にしていないと。
『最近姿を見なかったので…心配で。体調でも崩されてたんですか?』
「あぁ、ごめん、最近また忙しくてさ」
『…体、壊さないようにしてくださいね』
「ありがとな」
全然忙しくなんかない。毎日帰ってから酒を飲むくらいの余裕だってある。ただ、葵ちゃんに会う気分になれないだけだ。
「仕事の用じゃなかったのか?」
『…電話を私用に使ってしまってすみません。今晩、久しぶりに、ご飯でもどうかと思ったんですけど…忙しいですか?』
まさか葵ちゃんが仕事中にそんな誘いをしてくるなんて。そこまでして会いたい理由があるのだろうか。あるとすれば、吉良との件の報告だろうか。
「…ごめん、またドタキャンすることになっても悪いし、今日はちょっと、やめとくよ」
『…そうですか。こちらこそ、無理言ってすみません。また、落ち着いたら…たまには、誘ってほしいです』
「あぁ、そうだな。またな…」
ごめん。俺はもう、葵ちゃんの前では笑っていられない気がする。
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