彼女(仮)
こんこん、と編集室の扉が叩かれた。編集作業で死にかけの俺らは誰かが返事するだろうと思って、みんな黙ったままで、お前返事しろよ、とみんなが内心思っていた。
「あの…誰か居ませんか?十番隊三席…」
そこで俺が今一番聞きたかった葵ちゃんの声が聞こえてきて、俺は扉まで駆け寄って勢いよく開けた。
そこには俺の勢いに驚いた葵ちゃんがいた。
「久しぶりだな!俺に会いに来てくれたのか!?」
隊の奴等に聞こえるように、ちょっと自慢気に言ってみた。そしたら背中に視線は刺さるし葵ちゃんはちょっと不機嫌そうになるし、失敗だった。
「…ちょっと、表に出てもらえますか」
どこのヤクザだよという感じの台詞を吐いて葵ちゃんは俺を編集室の外に連れ出した。
「…この前、お詫びのつもりでご飯に誘ったのに、奢っていただいてありがとうございました」
「あぁ、気にすんなよ。飯付き合ってくれただけでも嬉しかったし」
「…奢らせたらお詫びにならないって、乱菊さんに叱られてしまって」
葵ちゃんはまたしても反省している様子だった。俺は葵ちゃんのことを悪く思ったりしていないってのに。
「だから…今度こそ、お詫びに、その、えっと……檜佐木さん、甘いもの好きですか?」
「あ?あぁ、好きだよ」
「……これ、受け取ってください」
葵ちゃんは後ろ手に隠していたらしい紙袋を俺の前に突きだした。受け取って中を覗いてみれば、ケーキでも入ってそうな箱があった。
「ケーキか?わざわざ買ってきてくれたのか?」
「…ケーキ、です。が、お詫びの、気持ちをこめて、その、つ、作りました。中身は、あんまり綺麗じゃないんですけど…味は大丈夫なはずなので…」
葵ちゃんの手作りケーキ?なんだその爆弾プレゼントは。乱菊さん、葵ちゃんをそそのかしてくれてありがとうございます。
「多いと思うので、隊の人たちにわけてくれてもいいので…」
「いや!!ありがたく俺一人でいただく!!ありがとう!!」
「いえ…はい、どういたしまして」
「ほんとに、すげぇ嬉しいよ。俺のためにありがとな」
にやつくのを我慢できるわけもなく、だらしない顔をしてしまう。
「…では、お仕事中失礼しました」
「あぁ、またな」
「…」
やっぱり今日も、最後のいい返事が貰えない。でもそこで悲しんだりしたら明るく別れられないから、返事が無くても何も気にしていない振りをして軽く手を振り、編集室の中へと戻った。
「檜佐木副隊長…彼女っすか…」
「まだ彼女じゃねぇよ」
「よかったー!あんな可愛い人が副隊長の彼女なわけないっすよね」
「うるせぇ!俺は休憩入るから黙って仕事しろ!」
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