好きじゃない



「檜佐木さんと、どうなんすか?」

なんて、仕事中に阿散井くんがやってきてにやにやしながら聞かれた。仕事中というのはもちろん私であって、阿散井くんは休みのようで死覇装ではなく着流しだった。

「どうと言われても、特にどうもなってないけど」
「檜佐木さんめちゃくちゃはしゃいだりとかしてないんすか?」
「……はしゃいではいないかな。ただ、なんか、嬉しそうではあるけど」
「へーっ。さっき檜佐木さんとこ行ってきたんすけど、やべぇやべぇって熱く語られましたよ」

そうか、檜佐木くん私の前では冷静ぶってるのか。良く見られたいのかな。
檜佐木くんのことはまだよく解らないけど、信用できる阿散井くんがそう言うってことはやっぱり檜佐木くんは遊びとかでなく本気で私のことを好きなのかもしれない。

「一応檜佐木さんの応援はしてますけど、嫌なことされたら言ってくださいよ?檜佐木さんのことちゃんと止めるんで」
「それはありがたい」
「まぁ、ああ見えてヘタレっすから、何もしないとは思いますけどね」

後輩になめられるなんて、檜佐木くんも可哀想に。阿近さんにも少し馬鹿にされているようだけど、檜佐木くんってもしかして、完璧超人ではないのかな。あんまり構える必要も無いのかな。

「今日も檜佐木さん迎えに行ってあげるんすか?」
「行かないよ。私だって仕事何時に終わるか解んないし」
「約束とかしてないんすか?」
「してないよ。檜佐木くん、今日仕事終わるの遅くなるらしいから。ていうか……毎日私に時間割いてたら、檜佐木くんも疲れちゃうでしょ。毎日会う約束なんかしてられないよ」
「檜佐木さんは風間さんに会えば元気になると思いますけどね」

ほんとにそうならちょっと喜んじゃうけど、でも好きだとは言えない人にプライベートで毎日会うなんて、私の方が疲れてしまう。

「阿散井くんだったら……今の檜佐木くんみたいな状況耐えられる?一週間だけお試し、って。弄ばれてるとか、そういう感じしない?」
「もしかして罪悪感とか感じてるんすか?今のところ全然檜佐木さんのこと好きになれないから振らなきゃいけないとか思って」
「……うん」

阿散井くんにしては鋭い。

「俺は当事者じゃねぇからわかんねぇっすけど、檜佐木さんなら、絶対風間さんのこと振り向かせるとか言ってましたし、もしダメだったとしたら、最高の一週間の思い出としてしまい込むって言ってましたよ」

思い出としてしまっちゃうんだ。それって忘れられないってことだよね、大丈夫かな。私への想いなんて捨てて無かったことにしてほしいのに。

「…私より良い子なんていっぱい居るのに」
「なんでそんなに…素直に受け入れられないんすか?」
「……自分に自信が無いからだよ」

檜佐木くんといても、劣等感が沸いてしまう。自分なんかが檜佐木くんの隣に居るなんて、と思ってしまう。だから、私が好きじゃない私のことを好きだなんて言う檜佐木くんのことを、信じられない。


阿散井くんと他愛もない話を続けていたら、伊江村三席に見つかってしまい、怒られた。しぶしぶ仕事に戻って雑用を終わらせて、退勤時間を迎えてしまった。
檜佐木くんに連絡した方がいいのだろうかと迷ったが、残業する予定だと言っていたし終わっているわけもない。連絡するのはやめておいて、隊の子を誘って晩御飯を食べに行った。

「…僕とご飯なんて行ってて、ほんとにいいんですか?」
「え、なんで?」
「そ、その……ひ、檜佐木副隊長と、お付き合い、してるって噂を、耳にしたので」

今のところ昨日一緒に二人でご飯を食べただけくらいで、付き合ってると言いふらしてもいない。やはり副隊長と女が二人で居ると簡単に噂されてしまうのか。

「そんなこと言ったら、私もう今後花太郎くんとご飯二度と行けないじゃん。男と二人で会うなとか制限かけられるなら恋人なんかゴミ箱にポイだよ」
「っとことは、ちゃんと檜佐木副隊長の許可もおりてるってことですよね。よかったぁ」
「……そういうわけでもないけど」
「ないんですか!?ぼ、僕、大丈夫ですか?刺されませんか?」
「刺されたら私の回道で治してあげるね」
「嫌ですよぉ!」

花太郎くんは、私の一番仲良しな子と言っても過言では無い。そんな花太郎くんとの食事を制限されるなら、本当に檜佐木くんとはさよならするしかない。私は恋人に優しくもしたいけど、大事な友達を蔑ろにするつもりもない。

明日は仕事だし花太郎くんはお酒も飲めないから、そんなに長居することもなく自室に帰った。伝令神機を見てみても、もう21時なのに檜佐木くんからの連絡は入っていなかった。別に毎日連絡を取ろうと約束したわけでもないが、一週間の内の一日というのは大きいと私は思ったが、そうでもないのだろうか。
深く考えるのをやめてシャワーでも浴びようかと思ったら、まだ手の内にある伝令神機が鳴り響いた。画面には檜佐木の文字が表示されていた。

「もしもし、お疲れ様」
『お疲れ様。応答はえーな』

疲れて少しだるそうな声だった。

「この時間まで働いてたの?」
『まぁな。やっと終わったし、風間の声が聞きたくて』
「…声聞いて元気出た?」
『あぁ、めちゃくちゃ元気出た。明日も頑張れそう。風間は明日仕事か?』
「うん、仕事」
『そっか……明日も会えなかったらさすがに……寂しいな……』

小さな声で弱音を吐かれる。会えないだけで寂しいなら、一週間で振ってしまったらどうなるんだろう。

「明日、会う?」
『いいのかっ!?』
「…夜、8時までならご飯食べずに待ってる。それに間に合わなかったら、先にご飯食べて帰る」
『わかった!絶対仕事終わらせるから!』

想像以上に嬉しそうな声を聞かされて、少しびびる。喜ばせない方が、後々のことを考えると優しかったかな。

「でも、無理はしないでね」
『心配してくれてんの?』
「……まぁ」
『そっか、ありがとう。嬉しいよ』

他の女の子は、きっと檜佐木くんがこんなに浮わついたり、優しい声を出すなんてこと知らないんだろう。きっと今、私は檜佐木くんの、私しか知らない面をいくつも見ているはずだ。

『なぁ風間』
「ん?」
『好きだよ。……おやすみ、また明日』
「ま……また、明日」

それを受け入れられないのは、意地を張っているだけなのか、それとも愛されるのが怖いのか。

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