失う恐怖
目を覚ますと、朝陽が眩しかった。そして、身体がだるく、痛かった。手に違和感があり見てみると、ぎゅっと手を握られていた。
「風間、おはよ」
私の手を握っていたのは檜佐木くんで、調子が良いのか表情も柔らかかった。
「檜佐木くん、体はどう?大丈夫?どこか変じゃない?痛くない?」
「いや、すげぇ気分良いよ。昨日の怪我が嘘みてぇだ」
「……良かった」
何事も無く目を覚ましてくれて、本当に良かった。
「ただの虚退治だったんだよね?なんであんなに…」
「いや〜……ちょっと、晩御飯のこと考えてたら隙をつかれて……」
「……は?」
「……ごめん、浮かれてて」
晩御飯って私と食べる予定だったやつだよね?仕事中に何考えてるのこの人。
「…私、心配したんだけど」
「ご、ごめん」
「すごい必死で、その晩御飯も抜いて治療してたんだけど」
「風間が治療してくれたのか?」
「そうだよ、他の人が治療してるとこ見てるだけなんてもどかしかったから、やらせてもらったの」
「……ありがと。俺のために、そこまでしてくれて」
檜佐木くんは昨日抉られた腹部をさすった。
「……私が居ることで怪我しちゃうなら、檜佐木くんの傍に居たくない」
「…えっ」
「怪我するのが仕方ないのは解るけど、でも、浮かれて怪我するとか、そんな理由で必要以上の怪我してほしくない。ただの怪我なら全力で治す努力はするけど、もし致命傷なんか負って帰ってきたら、困る」
私は大事な人が傷付く姿なんか見たくない。檜佐木くんが、浮かれて怪我して帰ってくるようなアホだというなら、私は檜佐木くんを大事な人だと思いたくない。大事な人を、失うのが怖いから。
「心配かけてごめん。仕事中はちゃんと集中するから、そんな泣きそうな顔すんなよ…」
「…泣かないよ。檜佐木くんみたいなマヌケのために泣いてなんかあげないよ」
「マヌケでごめんな。でも、風間にまた会いたいから、どんな怪我したって帰ってくるさ」
「私に会うためにわざわざ怪我して四番隊来るようになったら怒るよ」
「あー、その手があったか」
「檜佐木くん……」
「いや、やらないやらない」
冗談でも、少し怒れる。私は誰にも傷付いて欲しくなくて、だから皆を守れるくらい強くなりたかった。でも、才能も力もなくてそれが叶わなかったから、せめて皆を癒せるようにと四番隊に異動した。だから私の目の黒いうちは、患者の数を減らすことに全力を注ぎたい。
「治してくれて、ほんとにありがとな。風間のこと更に好きになった。朝までついててくれるし、手まで握っててくれるし」
「え?手は檜佐木くんが勝手に握ったんじゃないの?」
「起きたらこの状態だったけど…」
「…そうなの?私知らない。どっちか寝ぼけて握ったんじゃない?」
「まぁどっちにしろ、手繋げて嬉しい」
私があんなに心配して必死に頑張ったのに、檜佐木くんはこれだもんな。喜んでくれるのはいいんだけど、ちょっとだけむかついて、檜佐木くんの手を無理矢理外してやった。
「ご飯持ってくるからここで大人しく待ってて」
「風間の手作りか!?」
「うん。ただ、治りたてのお腹に優しい、病院食だけどね」
「だよな……」
むかついたけど、なんだかんだで心配だから、今日はずっと檜佐木くんのお世話をすることになるのだろう。公私混同してるみたいで他の人たちに申し訳無いが、今日だけでいいから許して欲しい。
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