触れ合いたい



「なー、もう1日、今日の夜まで居ちゃダメか?」
「ダメ。検査結果に問題無かったんだから帰って」
「もしかして俺うざかったか?だからなんか冷たいのか!?」

その通りだ。昨日一日、霊圧の回復のため安静にしてもらうためにも病室に閉じ込めてそこそこ看病をした。傷は塞がっているから看病と言うほどのことはしていないけど。でも、何かにつけて私を呼び出し、業務妨害をされたのは事実だ。

「早く帰らせるために全力で傷口塞いだんだから、帰ってくれないと私の努力の意味が無い」
「……もうちょっとだけ、風間と一緒に居たかった」

道端に捨てられた子猫を思わせるような寂しそうな顔を見せてきた。私も鬼じゃないから胸が痛む。

「なぁ、あと三日だけど……まだまだ俺のこと好きにはなってないよな」
「…まぁ」
「だよなー。どうすりゃいいんだろ。どうすりゃ好きになってくれる?」
「……わかんない」

あと三日でさよならしたら、今よりももっともっと寂しい顔をされるのだろうか。それも心苦しい。

「なぁ、嫌なら嫌って言って欲しいんだけど、お試しで、一回だけでいいから、ちょっと、その、抱き締めてもいいですか」

申し訳無いという気持ちを抱いていたのに、その一言で全てが吹き飛んだ。逆に清々しい。

「何言ってるんですか」
「や、怒るなよ!?嫌なら嫌で無理強いはしないから!こう、触れあうことで仲良くなれるかなって思っただけで」

本気で慌てる檜佐木くんがなんだか可愛くて、怒る気も失せてしまった。

「前向きに考える判断材料として、一度だけ許可します」
「えっ、な、い、いいのか?ほんとに?訴えたりしないよな?」
「いらないならいい。早く帰って仕事して」
「いります!風間が欲しいです!」

そんな恥ずかしい台詞を堂々と言わないでほしい。ここが個室で助かった。

「では、どうぞ」

我ながら何をやってるんだろうと思いつつ、檜佐木くんのベッドに腰かけて向き合った。檜佐木くんは頬を赤らめ戸惑いつつも、私を力強く抱き締めた。
仕事一筋で生きてきたため、未知の感覚だった。女の子とは違う、硬い体や力強さ、守られるような安心感に包まれ、心地よさを感じてしまった。

「夢みてぇだ…」

檜佐木くんだけでなく私まで仕事をさぼってこんなことしてるだなんて、四番隊の人には口が裂けても言えない。ていうか、みんな私と檜佐木くんが付き合っていると思っているようだし、私が仕事に戻るのが遅かったら何か察されてしまうだろう。

「…風間のこと離したくねぇ。このままずっと、こうしていたい」

耳元で呟かれ、ぞくっとする。こんなに好いて貰っているのに、あと三日でさよならする必要があるのだろうか。私はもう、檜佐木くんがただの優等生では無いことは理解している。かっこつけているだけで、少し馬鹿で、ぬけていて、私に弱い。クールかと思えば色んな表情を見せてくれて、可愛いところもある。

「風間、好きだ」

これでもかと言うくらい密着して、さすがにドキドキする。私からも少しだけ、と思って、檜佐木くんの体に腕を回した。人と抱き合うのがこんなにも満たされるなんて、と驚いた。なぜだか離れたくなくなって、そのまま動けなくなってしまった。静かな部屋に二人きりで、お互いの呼吸の音と鼓動だけが耳に入る。

「……檜佐木くん」
「ん?」

このまま抱き合っていたいと思うのは、檜佐木くんにならこういうことされても嫌じゃないと思うのは、私の気持ちがこの五日程で動いたということなのだろうか。

「私……」

あと二日もあれば、檜佐木くんに落ちそう。なんて口走ろうとした矢先に、部屋の扉がノックされる音がした。ドキッとしてお互いに体を離し、何も無かったことにするために檜佐木くんをベッドに押し倒して、急いで肩まで布団をかけた。

「はーい!」
「桜さん、そろそろ午後の仕事に取り掛からないと残業になっちゃいますよ」

扉を開けたのは花太郎くんで、特に不信感も持たれずに済んだ。

「もうそんな時間なんだね。急いで檜佐木くん追い返すから、ちょっと待ってて」
「檜佐木副隊長はまだ万全ではないと思うので、ゆっくりでいいですよ」
「ごめんね、ありがと」
「いえ。では失礼しますね」

再び扉は閉められ、安堵のため息がもれた。檜佐木くんに視線を戻すと、ずっと私を見ていたのか視線が交わった。

「さっき、何言おうとしたんだ?」

流してくれるかと思ったのに、檜佐木くんてば意外と鋭い。落ちそうなんて言ったら檜佐木くん調子に乗りそうだな。

「…檜佐木くんに触られるの、嫌ではなかった」
「じゃあもっと触りたい」
「それはやだ」
「なんで」
「……お試し期間なので」

このまま流されてしまったら、正式に付き合っていないのにどこまでも手を出されてしまいそうだ。それだけはダメだ。

「わかった。だったらせめて今晩、一緒に飯行きたい。たぶん病み上がりだから早く仕事終われそうだし」
「檜佐木くんの病み上がりのお腹に優しいご飯だったらいいよ」
「それでいい。ただ、そのとき手だけ繋ぎたい」
「……それ今言うこと?」
「さっき固まってたから、前もって言っといた方が心の準備もできるかと思って」

私が居心地がよくて動かなかったのを固まってたと捉えてくれたのか。都合がいい。そういうことにしておこう。

「楽しみにしてる」
「なんで手を繋ぐこと前提で楽しみにしてるの」
「風間は優しいから、繋いでくれるだろ?」
「…檜佐木くんってたまに強引だよね」
「たまには押さないと、逃げられちまうから」

約束の7日間は逃げるつもりはない。それに、抱き締められても嫌じゃないなんて思っているのだから、きっと手くらい繋いでしまうことになるのだろう。

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