愛していないから
昨晩、檜佐木くんが救護詰所まで私を迎えに来て、そこから食事処まで手を繋がされた。もちろん人の目はあった。周りの人たちに周知させて1週間では別れられないようにする作戦なのかと疑ったが、嬉しそうに笑う檜佐木くんがそんな邪悪なことを考えているようには見えず、本当に繋ぎたいから繋いでいたという感じだった。
もちろん、帰り道だって手は繋いだし、今度は指を絡ませて恋人繋ぎをされた。隣を歩く檜佐木くんとの距離は近いし手汗はかくしで不覚にもドキドキさせられてしまった。
「ねぇ。風間さんってあなた?」
昨晩のことを振り返りながら庭の掃き掃除をしていたら、知らない女の子に声をかけられた。
「はい。どうされました?」
「檜佐木副隊長と付き合ってるってほんとなの?」
「……まぁ、うん」
「まぁって何?付き合ってるの?ないの?そんな適当な気持ちであの人と付き合ってるの?」
私が気にしていたところをグサリと突き刺される。1週間だけなんて思いで適当に付き合うと言ってしまったのは事実だ。
「本気で好きなわけでもないなら、別れてよ。檜佐木副隊長の選んだ人ならしょうがないって思ったけど、あなたがそんな気持ちなら、許せない!檜佐木副隊長をもてあそばないでよ!」
「……ごめん」
「ごめんって何?やっぱり本気じゃないんだ?その程度なのに、あの檜佐木副隊長をものにしてるんだ?そんなんで、みんなが納得すると思ってるの?」
そうだ、そういえば檜佐木くんは昔から、女の子にモテていた。私のやっていることは、その子達を敵に回す行為そのものだ。許されるわけがない。
「本気で檜佐木副隊長のこと愛せないなら、檜佐木副隊長からの愛を受けないでよ。檜佐木副隊長が可哀想。あなただって、愛してもいない人と付き合って楽しいの?」
「……」
「それを楽しめるような奴が檜佐木副隊長を独り占めするなんて、ありえない。怒ってるのは私一人じゃないから、覚えといて」
名前も知らない女の子は、それだけ言って去っていった。
悲しむ女の子が居ることや、檜佐木くん自体を悲しませることになるということを、もっときちんと考えるべきだった。1週間適当に相手をすればいいなんて、甘い考えだった。
反省していたら、懐に入れていた伝令神機が震えだした。取り出して画面を見てみれば、檜佐木と表示されていた。無視して掛けなおすのも面倒で、すぐに応対することにした。
「もしもし」
『お疲れ様、今昼休みか?』
「んー、まぁ、そんなとこ」
『そっか。あのさ、今日もまた飯行かないか?早く仕事終われそうなんだ』
今日もまた、手を繋いだりするのかな。それでまた口説かれて、私だけ愛されて良い気分になって、それで、檜佐木くんが心から楽しめるのかな。
「…ごめん、仕事たまっちゃってて。遅くなりそうだから、一緒にはご飯行けないかも」
『……それってもしかして、昨日とか俺が風間拘束して仕事邪魔したせいだったりするのか?』
「え」
『ほんとごめん!ていうか、自分がしたことで風間と会う時間減らすとか俺ダメすぎだな…。お詫びに今度高い飯おごるから!…今度が、あるなら、だけど』
檜佐木くんと私の約束の7日間は明日で終わる。だから私が終わりにしてしまえば、今度なんてものは存在しない。
「檜佐木くんのせいじゃないから、大丈夫だよ。気にしないで」
散々期待させて1週間ももてあそんでごめんね。毎日楽しませたり悲しませたり、振り回してごめんね。
「もしも……私が檜佐木くんと友達で居たいって言ったら、どう思う?」
『……恋人ごっこは終わりにする。でも、風間のこと友達だとは、思えないと思う』
付き合うか別れるか、私たちにはそのどちらかしか無さそうだ。友達で、なんて逃げ道は存在しない。
「わかった。…真剣に、考えてみる」
『…あぁ。よろしく。参考までに言っておくけど、俺は風間のことめちゃくちゃ好きだし、死ぬまで好きでいる自信はあるから』
「…ありがと。檜佐木くんのそういう真っ直ぐなところ、嫌いじゃないよ」
『好きってことか!?』
「じゃ、また明日ね」
『おい!!』
強引に電話を終わらせた。
好きかと聞かれても、素直に好きだなんて考えられないし、言えやしない。
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