一方通行な想い
私と大和田くんは、いつも通り屋上に足を運んだ。さっき授業が開始したところだからか、屋上には誰も居なかった。
「それで……話って何だよ」
「えっ、と、とりあえず、座りましょうか」
立ち話もなんだと思い、いつものベンチに並んで座るよう促した。横に並んでしまえば正面から顔が見えないから少しは落ち着くような気がした。
「この前……話、途中だったからその続き」
「……そうかよ」
あ、だめだ。顔が見えない分、大和田くんの感情が読めなくて怖さが増してしまった。
「…話途中だったのに、逃げてごめんね」
「……おう」
「お、怒ってる?」
「怒ってねぇ」
声色が怒っているようにしか聞こえないが、怒っていないと言う大和田くんをひとまず信じよう。
「……ほんとに、ごめんね。男の子にああいうことされるの初めてで…びっくりしちゃって」
本題に入りたいけど、大和田くんを悲しませたりすることにならないか不安で、手に汗が滲む。
「それで、その……」
「…はっきり言えよ。付き合えねぇ、って。そのために呼び出したんだろ」
核心を突かれてドキッとした。思わず大和田くんの方を見てみれば、怒っているようでもあり哀しげにも見える瞳と視線が交わった。
「…ごめん」
他に何と言って良いか解らず、謝罪の言葉ばかりが零れてしまう。
「…なんで、天野先輩がそんな顔すんだよ」
「だ、だって…」
「悪かったな。勢いで変なこと言っちまって。俺は別に、先輩を苦しめてぇわけじゃねぇ。忘れてくれ、全部」
そう言って大和田くんは立ち上がり、どこかへ行こうとした。付き合えないということは伝わったけど、まだ本題が伝えられていない。このまま帰らせたら今度こそ全部終わる気がして、咄嗟に服を掴んでいた。
「あぁ?」
「ご、ごめん!まだ、待って、もうちょっとだけ時間ちょうだい」
「……」
大事な特効服に触れてしまったことで怒られるかとも思ったが、大和田くんは大人しくまた隣に座ってくれた。
「あの、さ、付き合ったりとか、そういうことはあんまり考えられないんだけど…でも、大和田くんとは、普通に仲良くしたいなって思って……。友達として、これからも仲良くしたいんだけど、どうかな」
暴走族だけど、怒ると怖いけど、でも、私は大和田くんが、笑うと可愛いことだって、私を怖がらせないように配慮してくれてることだって知っている。だから友達のままでいてなんて、ワガママだけど、これが私の素直な気持ちだ。
「…こんな俺でも、ダチとか言ってくれんのか?」
「え、だって…今までも、私たち友達だったでしょ?」
男として見ていないと言っているようなものだったから大和田くんはへこむかと思いきや、なんだか嬉しそうな顔をして見せた。
「友達っつーことはよぉ、“天野先輩”なんて丁寧な呼び方しなくてもいいってことか?」
「え?っと…そ、そうなるのかな?」
年下とは言え暴走族の男に呼び捨てされたら畏縮してしまいそうだ。しかし私から言い出したことだし拒否はできない。
「雅って呼んでも文句はねぇな?」
脅しに近いそれを否定できるわけもなく、頷くことしかできなかった。
「あと、」
「まだあるの!?」
「あぁ?文句あっかよ」
「いえ……」
友達でいたいという想いを逆手に取られるなんて思わなかった。次は何を言い出すつもりだ。
「また、絵描いてるとこ見ててもいいか?」
怒っているのか照れているのか解らないような赤ら顔で、そんな可愛いことを言ってきた。そのくらいのこと、許可を取るまでも無いじゃないか、友達なんだから。
「いいよ」
才能を認められているような気がして、嬉しく感じた。大和田くんも、私につられてか口許を緩ませて笑みを浮かべた。
これでいいんだ。私と大和田くんの距離は、このくらいがちょうどいい。
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