馬鹿正直
あれから、私はまた日常を取り戻し、適度に授業をさぼって絵を描くことができるようになった。そして絵を描く私の傍には大体大和田くんがいて、それすらも日常の一部になっていた。ただ、石丸くんや雪染先生の忠告のおかげで、以前ほどは授業をさぼらなくはなっていたけども。
「なぁ雅、ずっと座って絵描いてて疲れねぇの?」
「立って描く方が疲れるよ」
「そういう話じゃねーよ」
そして大和田くん、下の名前を呼び捨てにしてくるし、ついでに敬語まで無くなっていて、距離をぐいぐい詰めてきている感じがする。
「気分転換とかしたくねーのか?」
「私にとってはこれが気分転換なの。授業で疲れた分を癒してるの」
「ほーん」
大和田くんだって授業で疲れるからこうやって気分転換のためにさぼってるんでしょうが。
「…もしかして、毎日座ってるだけだから飽きた?」
「俺は飽きてねーけど。雅は飽きねぇのかと思って」
「飽きないよ。大和田くんがバイク好きなのと一緒で、私は絵を描くのが好きなの。毎日描けて嬉しいくらいだよ」
「そういうもんか」
しかし才能も趣味も性格も、こんなに違う大和田くんとこんなに普通に話して仲良くしているだなんて。あのとき大和田くんとぶつかって出会わなければ、私は今でも一人で絵を描いていたのだろう。
「…そういえば大和田くん、なんで私になついてくれたの?」
「なつくって、俺は犬かよ」
「や、そういう意味じゃないんだけど」
怒らせたかなと思ったけど、大和田くんの顔は穏やかだった。最近あんまり怒らないのは、一緒に居て緊張しなくなったからなのか、私が怒らないでと頼んだからなのか。
「初めて会ったときのこと、覚えてるか?」
「…廊下でぶつかったときだよね」
「大抵の奴らは顔見てびびって逃げ出すのに、雅は堂々としてて、他の奴らとちげぇと思った」
私も内心はめちゃくちゃびびっていたけど、まぁいいや黙っていよう。
「つーか、ただの一目惚れだ」
あぁしまった、私はまたいけない話をしてしまったみたいだ。そういう話がしたかったわけじゃないのに。
「けど、今はもう、この関係を変えるつもりはねぇ。無理して壊れるくらいなら、このままダチを続けてぇ」
「…そう」
その言い方だと、まだ私のこと好きで、ほんとは友達じゃない方がいいって感じもする。ただ、大和田くんが友達でいいと言っているのだから、わざわざ突っ込むところでもない。
「雅の隣に居られるなら何でもいい」
一途に想われて、くすぐったい。決して嫌なわけではない。私だって、せっかく仲良くなったんだから、仲違いはしたくない。隣に大和田くんが居ることが日常になっているから、できればこのまま隣に居て欲しい。
「そうまで言ってもらえると嬉しいよ。ありがと」
素直にお礼を言ってみれば返事がない。どうしたのかと大和田くんに視線を移してみれば、顔を真っ赤にして固まっていた。
「は……恥ずかしいこと言わせてんじゃねぇぞコラ」
「大和田くんが勝手に言ったんだよ…」
「俺のせいにするんじゃねぇ」
「自分の発言には自分で責任持って」
大和田くんは深く考えずに発言するから危ない。だからこそ、大和田くんの言葉は大体本音だと思うことができる。だから、嘘も付けそうにない人だから、信用できて、隣に居ても安心できる。
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