腐ったミカン
「天野さん!最近また授業さぼってるけどどうなってるの?」
教室を出ようとしたところで、雪染先生につかまった。
「どうと言われましても……」
「暴走族の子と一緒にさぼってるって情報は掴んでるのよ。不良と遊ぶのはスリルがあって楽しいかもしれないけど、貴方は三ヶ月後の個展のためにも集中して気合いいれないといけないんだから!遊んでばっかじゃダメよ?授業だって、私の目が黒いうちはクラス全員に受けてもらいたいんだからね」
くどくどと言われ、ちょっとへこむ。別に大和田くんと会って遊んでるわけじゃないし、口を出されたくない。不良だなんて、そんな肩書きで大和田くんを呼んで欲しくない。
「ほら、アレよ。腐ったミカンが一つあるだけで周りもどんどん腐っていくって言うでしょう?一緒にさぼってたら、貴方までさぼり癖がついてどんどん腐っちゃうわよ」
「……腐ってなんかない」
「へ?」
「彼は、大和田くんは、腐ってなんかない。むしろ腐ったミカンは、私の方です」
さぼり癖があるのは私の方で、大和田くんにはそれに付き合ってもらっているだけだ。ろくに調べもしないで口を出されるのが嫌で、私はそのまま教室を出た。
元々私が大和田くんと出会わなければ、大和田くんだってこんなに授業をさぼらなかっただろうし、今は必要以上に授業を抜け出してきている状態だろう。私のせいで。
今日は天気が雨だったから、屋上ではなく美術室に向かった。ちょうど美術の授業を行っているクラスは無かったみたいで、人は居なかった。
キャンバスをセットして筆も構えるが、さっき言われたことが頭のなかをぐるぐる回って邪魔される。
「腐ったミカン……」
みんな、大和田くんのことを知らないから。暴走族で柄が悪くて目付きが悪くて口も悪いから、悪い人なのだと判断される。本当は優しくて、不器用だから感情を抑えるのが下手くそなだけで、決して不良なんかじゃない。良いところが無いわけがない。少なくとも私は、大和田くんが怒鳴らないように努力していることも、私を傷つけないようにしていることも、大事に思ってくれていることも知っている。少し頭は悪いけど、友達思いで、笑顔が可愛いことだって知っている。
「違う……私も、大和田くんも、腐ってなんか……」
才能だって認められているし、人格だって否定される覚えはない。何も、どこも、腐ってなんかいない。
それなのに筆が進まなくて才能が発揮できないのは、どうしてだろう。考えられる原因は、大和田くんを腐ったミカン扱いされたこと。それと、大和田くんが、隣に居ないこと。
「……うそ」
天気なんかのせいじゃない。だからって、一人でキャンバスに向かってこんなに気分が沈むのは、大和田くんが居ないからだなんて、そんなわけがない。
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