言葉にできない



先生の目を盗んで授業を抜け出した。私は自分が不調でいることが嫌で、どうしても、大和田くんに会いたかった。自分の気持ちだって整理できていないし、どうしたいのかも解らない。それでも、大和田くんに会って何かが変われば、何か解ると思ったから。
廊下から中庭を見下ろしても大和田くんは居なくて、たまに行く空き教室にも居なかった。授業に出ていると言うのなら、私は大和田くんの更正を喜ぼう。私は元々一人でも大丈夫だったのだから、すべて諦めよう。
憂鬱な気持ちで、僅かな希望を持って、屋上へと踏み出した。

「大和田くん……」

久しぶりに見る彼は、のんきに仰向けで寝転がっていた。私がこんなにも四苦八苦しているのに、気持ち良さそうに寝やがって。
起こしてやろうかと思ったけど、眠りの邪魔もしたくなくて、とりあえず地べたに座り込んだ。
いつもちょっとだけ怖くて顔をこんなにまじまじと見ることも無かったが、こうして見ると、大和田くんの顔は意外と整っていた。目も瞑っていれば鋭い目付きで睨まれることもなく、ただ、見とれてしまった。

「…起きて」

声も聞きたくて、少し肩を揺すった。そしたら眉間に皺を寄せるし唸るし、少しびびる。めげずに肩を揺すれば、うっすらと開かれたまぶたの隙間から、鋭く睨まれた。

「大和田くん、」
「……雅?」
「久しぶり」

名前を呼ばれるだけでこんなに嬉しくなるだなんて。安心もして、思わず口許が緩んだ。

「あんまり来ねぇから、避けられてんのかと思った」
「…もしかして、いつも待っててくれた?」

返事は無かった。でも否定もしないもいうことは、いつも私のことを待っていてくれたのだろう。

「ごめんね、ありがとう。最近あんまり抜け出せなくて」
「そうかよ」

大和田くんは起き上がって、今日はなぜか私の顔をじっと見てきた。

「元気無さそうだな」
「え、わかるの?」
「絵も描けねえほどかよ」
「な、なんで解るの」
「画材持ってねぇし」

あぁそうだ、教室を抜け出すことに精一杯で、画材のことなんて忘れていた。これじゃ本当に、大和田くんに会いに来るためだけにここまできたみたいじゃないか。

「何かあったのかよ」

何かってそんなの、大和田くんに会いたかっただけだ。でもそんなことを言ってしまえば、勘違いさせてしまいそうだ。

「最近、この学校おかしいでしょ?それに、雨ばっかだし、余計に授業さぼりにくいし、思うように絵も描けなくて、へこんでたの」
「……つまんねぇな」
「へ」
「俺は、雅と全然会えねぇからへこんでた」

ムッとしてそんなことを言う大和田くんが可愛くて、嬉しくなった。

「私と会えて嬉しい?」
「あぁ!?んなこと聞かなくても解んだろ!」
「ふふ、そうだね。私も大和田くんに会えて嬉しい」

嬉しくてついそう言ってしまったら、大和田くんは目を丸くして、頬を染めた。

「軽々しくそういうこと言うんじゃねーっての…!」
「ご、ごめん、つい嬉しくて、」
「だからそういうことを……」

大和田くんの顔はどんどん赤くなるし、もうだめだ。私の無意識の言動が、どんどん大和田くんを期待させてしまう。そのことに、申し訳無さではなく愛しさが沸いてくる。いつのまにか、私の中で大和田くんの存在は大事なものになってしまっていたようだ。

「…大和田くん」
「あ?」

なつかれているだけのはずだったのに、一人でも大丈夫なはずだったのに、今こうして二人で居られることが、こんなにも嬉しいなんて。ただの友達と居るときとは、どこか違う嬉しさがある。

「な、なんだよ…ガン飛ばしてんじゃねぇぞゴラ」

照れ隠しなのか、真っ赤な顔でそう言う大和田くん。それでも声には怒気は無く、戸惑いの色が感じられる。今すぐにでも、そんな可愛い大和田くんに触れたかった。でも、私にそんな度胸は無く、肝心なことも言えなかった。

「元気出た。明日こそちゃんと画材持ってくるから、またこの時間に会お」
「……おう」
「とりあえず今日は帰るね。画材も無いのにさぼってたら、言い訳できないから。大和田くんも、教室帰ろ?」

このままさぼらせておいたら、また石丸くんに会ったときに、大和田くんのことで怒られそうだ。

「もう少しくらいいいだろ。次の授業には戻るから……雅も居ろ」

ねぇ大和田くん。君はまだ、今でも、私のことを好きでいてくれているのかな。

「しょうがないなぁ」

一緒に居たいと思うのは、好きだからなのかな。

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