絶望的な応援
明日会おうと約束したら、意味解んないくらい元気が出てきて自室に帰ってから絵が描けた。ご飯を食べるのも忘れて、三時間ほど没頭していた。嬉しくて最後まで描きあげたかったけど、空腹に勝てずに諦めた。どうせ翌日になればまた大和田くんの隣で作業もできるのだから、その時に仕上げよう。
翌日、約束の時間に屋上へ訪れた。キャンバスをセットしながらうきうきして大和田くんを待っていたら、屋上の扉が開かれた。嬉しくて笑顔で振り向いたけど、そこに居たのは大和田くんではなかった。
「あれっ、先客がいたの?」
「…こんにちは」
「あーっ!わかった!先輩アレでしょ、超高校級の画家の!大和田の彼女だ!」
この人が何を知っているのかしらないけど、彼女と言われ顔が熱くなった。前はあんなに拒否したかったのに、今、その勘違いにも喜んでしまうなんて。
「彼女じゃないですよ」
「えっ、付き合ってないの!?大和田の奴ってば毎日毎日抜け出して先輩に会いに行くからてっきり付き合ってるんだと思ってました!」
意外なところから大和田くんが毎日私を探して待っていてくれたことを知って、更に愛しさが沸いてくる。私はもう、自分の気持ちを隠せそうにない。
「あー、あの、すみませんけど、あなた誰ですか?大和田くんのクラスメイトか何か?」
「先輩私のこと知らないの!?テレビとか雑誌見ないんだ!?超高校級のギャルの、江ノ島盾子ちゃんです!」
ああ、聞いたことある名前だ。顔と名前を一致させることができてよかった。有名っぽいし覚えておこう。
「もしかしてぇ、今から大和田と屋上デートですか??」
「だから、付き合ってないんだってば」
「せっかく授業抜け出して二人きりなんですから、押し倒してキスの1つや2つすればいーんじゃないですか?どーせ誰にも見えないとこなんだし」
「そそそそんなことできるわけが、」
「先輩からしてやんないと、一生できないままになっちゃいますよ」
江ノ島さんはギャルだし恋愛経験もありそうだし、このアドバイスは参考にするべきなのだろうか。考えていたら、にやにやしながら近付いてきて、私を見下ろした。
「善は急げ、って言うじゃないですか。どーせ両想いなのに何を躊躇うの?」
「でも……」
「あー!もう!うじうじと!先輩今この学校で何が起きてるか知ってます?予備学科のパレードちゃんと見てる?あんな暴動が起きてて、いつ私たちの身に危機が訪れるかも解んないじゃん?そんなことになる前にやれることやっとかないと後悔するかもしれないでしょ!」
あぁ、そうだ。最近の希望ヶ峰は、平和とは言えない状況だ。江ノ島さんが言うほど大変なことにはならないとは思うけど、でも、言うべきことは、言えるうちに言っておきたい。後悔はしたくない。
「好きだって言って熱いキスして抱き締めて服脱ぐだけなんだから簡単っしょ?」
「そ、そこまではしないよ!」
「じゃあどこまでするの?脱がせるとこまで?」
「脱がないし脱がせないよ!もう!」
これだからギャルは!私の純情をもてあそばないでよ。
「とにかく、今から告白しなよ?告白できないまま終わっちゃったら、絶望的でしょ?この江ノ島盾子ちゃんが応援してんだから、がんばってね!」
「あ、ありがとう…」
江ノ島さんはそれだけ告げて、颯爽と去っていった。なんでそんなにも応援してくれるんだろう。ギャルだけどいい人だったのかな。
不思議に思って考えていたら、再び扉が開かれた。今度こそ、大和田くんだった。
「おはよ!待ってたよ」
「悪いな、待たせちまって」
「えっ、いや、そういうつもりじゃなくて!待ってない!全然待ってないから!」
「どう見ても準備万端で待ってたろ」
キャンバスはセットしてあるし、画材もすぐ使える状態に準備してあった。
「……だって楽しみだったから。そりゃあ待つでしょ」
「……そうかよ」
え、大和田くん簡単に照れるけど大丈夫?大和田くんが今でも私を好いていてくれるって、期待していい?
「お前、昨日から何なんだよ、期待させるようなことばっか言いやがって……」
「えっ、ごめん…嫌だった?」
「…嫌じゃねぇ。……あぁでも、雅にその気がねぇのは解ってんのに期待しちまう自分が馬鹿すぎて嫌になる」
ごめん大和田くん、私もう、君に気があるんだよ。
隣に座った大和田くんの、ベンチに何気無く置かれた手に、自分の手を重ねた。
「あぁ!?」
「…期待、していいよ。外れて無いから」
「……は?」
大和田くんは私に触れられている状況を理解できないようで、混乱していた。
「しばらく会わなくて、気が付いたの。隣に大和田くんが居ないと寂しいなって。今までこういうこと思ったこと無かったんだけど、こうして触れてるだけで、嬉しい」
「な……な……」
「…もし、大和田くんが、私のこと少しでも好きでいてくれてるなら、私が大和田くんに触れること、許して欲しい」
好きだ、と直球で言いたいのに、言葉が出てこなくて遠回しになってしまう。はっきり言えないのに、大和田くんはひどく動揺して顔も赤らめていて、私もすごくドキドキしていた。
「……大和田くん」
「なっ、んだよ」
ここは私と大和田くんしかいない。好きだと言ってキスして抱き締めるなら、今しかない。しかしそこまでのこと、できる気がしない。
「…ここまで言っておいてだんまりか?」
「だって……」
「…言えねぇなら俺から言ってやる。そのまま黙って聞いてろ」
大和田くんは少し血走った目で私を見据える。鋭い目線に寒気がする。
「……好きだ、雅」
好きだと言葉にされ、ぶわっと顔が熱くなる。そういえば、はっきり言われたのははじめてだ。前は、付き合ってくれとしか言われてなかったから。
「私も、大和田くんのこと、好きになったみたい」
声が震えた。言葉にしたら、一気に恥ずかしさが押し寄せてきて、大和田くんに触れていられなくなり手を離した。しかし大和田くんはすぐに私の腕を掴んで、そのまま体を抱き寄せた。
「おおおお、大和田くんっ」
「嘘じゃねぇんだよな?俺は、喜んでもいいんだよな!?」
「ほっ、本気、だよ」
痛いくらい体を抱き締められて、でもその締め付けさえも嬉しくて、そのまま絞め殺されたくもなった。
「つーことはよぉ、雅はもう、俺の彼女ってことでいいんだよな?」
「…よろしくお願いします」
「あぁ、大事にするぜ!今度、族の奴等に紹介させてくれ」
「えっ、あ、い、いいけど」
暴走族の人たちなんて怖そうだけど、大丈夫だろうか。みんなが大和田くんみたいに優しくて可愛い面があるならいいんだけど。
「昨日、予備学科のパレードが不安とか色々言ってたろ?何かあったら俺が絶対雅のこと守ってやっから、安心しろ」
「…頼もしいね」
「ずっと考えてた。俺が雅のために何かしてやれたら…ってよぉ。今までは、俺が居なくても一人で平気って顔してたから言えなかったけど…昨日弱音吐かれて、すげぇ嬉しかった」
私が弱音を吐かなければならなくなった原因は、大和田くんなんだけどね。はじめは大和田くんのせいで困らされて悩まされて、苦手で、ずっと大和田くんのことを考えていた。それがいつのまにか、拒絶の悩みでなく恋の悩みになるとは思わなかった。
「……ほんとはね、昨日へこんでたの、パレードとかのせいじゃなくて、しばらく大和田くんに会えてなかったからだよ」
「…あんま可愛いことばっか言ってっと、離したくなくなるだろ」
「いいよ、このまま絞め殺されたって文句言わないよ」
「殺すわけねぇだろ、馬鹿」
抱き締める力加減が不器用なところすらも愛しくて、しばらく離れられそうになかった。
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