この喧騒が終わったら



今日は雨だったから屋上へは出られなくて、大和田くんと美術室に向かった。でも美術の授業をやっていて、そこも使えなかった。仕方なく空き教室に行くことにした。教室だと気分的にテンションが上がらないから好きじゃないけど、仕方がない。隣に大和田くんも居るし、まぁ良しとしよう。

「大和田くん最近勉強どう?」
「してねーよ」
「だめじゃんしなきゃ」
「雅が教えてくれんならやってやんよ」
「本気なら教えてあげるよ」
「……やっぱいいわ」

やはり勉強は好きじゃないらしい。まぁ無理もない。

「なぁ雅」
「ん?」
「こっち向けって」

言われた通り顔を向ければ、すぐさま唇を塞がれた。大和田くんってば、すぐそういうことする。最近そのせいで、作業が全然進まない。嫌じゃないけど、嬉しいけど、やめてって言って意地悪したくなる。

「…ねぇ、もしかして絵描いてるとこ見るの飽きた?」
「飽きてねぇ」
「…なら、いいけど」
「前は絵描いてる楽しそうな雅が一番好きだったけど、今はそれより、こっち向いてる雅の方が好きになった」

だから邪魔せずにはいられないってことね。よくわかった。

「好き好き言われると喜んじゃうから、絵描いてられなくなっちゃうよ」
「それでいいだろ」

くすくす笑いながら私たちは唇を寄せる。この行為にも大分慣れてきて、緊張しすぎて手が震えるようなことはなくなった。
ただ、今日はただの空き教室であり、誰かが扉を開けさえすればいつでも見られてしまう状況下だ。廊下を警戒しておかなければ。

「集中しろって」
「廊下が気になる」
「誰も来ねぇよ」

唇だけでなく頬やおでこにもキスされて、とろけそうになる。このままずっとこうしていたいなんて思うけど、時間と環境がそれを許さない。

「…もっと」

大和田くんの首に腕を回して抱き付いて、唇を重ねた。大和田くんの唇を舐めると、不意に舌が絡んできた。体も優しく包まれて、ここが教室だということを忘れそうになる。

「ふ、……」

抱き締められるついでに、太ももを撫でられぞくぞくした。それ以上はダメだと解るのに、大和田くんに触れられることが心地良い。

「お、大和田くん…」
「雅……」

熱い眼差しにクラっとする。ああもう、全部大和田くんにあげたい。もう一度キスしてみれば、大和田くんの手が体を這って、胸まできた。ブラウス越しに触れるその手は大きく熱く、慣れない動きで胸を撫でた。

「んっ…誰かきたら、困るよ」
「…困る理由は、それだけか?」

それだけだよ。大和田くんに触れられて困ることなんて、何も無いんだから。
黙っていたら、スカートにきっちりしまっていたブラウスを引きずり出され、ブラウスの下に手を入れられた。肌に直に触れられ、くすぐったい。

「や、」

体が火照って、熱くて、気持ちいい。大和田くんも頬を染め、熱い吐息を漏らしている。こんなところで、学校で、教室で、盛っているなんて。教師に見つかったら、どうなるんだろう。解らないからこそ、やめることなんてできやしない。大和田くんに身を任せていたら、何やら廊下の方から声が聞こえた。

「まって、誰かくる…」
「気のせいだろ」
「そんなことないって」

雨音に紛れて男子の声が確かに聞こえた。

「やば……お、大和田くん、ごめん」

急いで大和田くんから体を離し、大和田くんの手を離れさせた。ばばっと服の乱れを直してまっすぐ座り直せば、教室の扉が開かれた。

「罪木ーー??…って、天野、と、おおう」
「へっ!?あ、そ、左右田くん、どどどうかした?」

現れたのが左右田くんで良かったのやら悪かったのやら。動揺して立ち上がったら、勢いでイスを倒してわたわたしてしまった。

「大丈夫かよ…」
「だだ大丈夫!それより!用事は!?」
「あ、おう。罪木の奴が最近居なかったの知ってるよな?今日もあいつ居なくて、どこにも姿が無いらしくて皆で探してんだよ」
「…どこにも?」
「あぁ。例のデモのせいで逃げたのかと思って小泉たちが寮の部屋見たら普通に荷物は置きっぱなしらしくてよ」

罪木ちゃんどんくさいから、苛ついた予備学科の人たちに捕まってひどい目にあってるとか?何か、やばいことに巻き込まれているとか。

「罪木の行きそうなとこ、心当たりねぇか?」
「…解んないけど、私も探すよ。心配だし」

ちらりと大和田くんを見てみれば、心配そうに私を見ていた。

「……放課後、大和田くんの部屋遊びに行くね」
「なっ、」

左右田くんに聞こえないように小声で伝えれば、大和田くんは一気に顔を赤くさせた。あんまり期待されるのも恥ずかしいけど、でも、私だってもっと大和田くんに触れたいし、触れられたい。

「それじゃ、私友達探しに行ってくるから、またね」
「っ……気を付けろよ!外危ねぇんだからよ!」
「うん、ありがと!あ、悪いけど画材だけ片付けといてくれると助かる!」
「そんくらい任せとけ」
「ありがと!」

どうせ部屋まで行くんだから、そのとき返して貰えばいい。罪木ちゃんだってひょひょいと見つけて、放課後は気分よく大和田くんに会いに行こう。
教室を出て左右田くんと二人になると、左右田くんはちらちらと私を見てきて、何やら言いにくそうに口を開いた。

「……まじであの暴走族と付き合ってんだな」
「へっ。う、うん。そうだけど」
「はーっ。俺も彼女と二人きりの空間でイチャつきてぇなぁ!」
「い、イチャついてなんか」
「はぁ!?その!火照った顔と!乱れた服を!鏡で見てから言え!!」

キッと睨まれてそう言われ、顔が熱くなった。顔の熱まだとれてなかったのか。服なんか裾がスカートにしまってないだけなのに、それでも乱れたって気付くのか。

「あ、熱いから裾出しただけだし……」
「雨で涼しいのに何して熱くなったんだろうな」
「野暮なこと聞かないでくれるかな」
「うっせ!聞かれたくねぇなら服くらい直せ」
「……はい。あの、でも、ほんとに、ちゅーしてただけなので…」
「くそ!リア充が!」

せめて他の人にばれないように、ブラウスの裾をいつも通りスカートにしまいこんだ。
深く聞いてこない左右田くんに感謝しつつ、罪木ちゃんの捜索に神経を注ぐことにした。

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