超高校級の



暴走族の彼は大和田くんと言うらしい。超高校級オタクな狛枝くんと雑談していて偶然知ってしまった訳だが、正直なところ知りたくなかった。名前も知らなければ赤の他人と思えたが、これから彼を見るたびに、彼を大和田くんだと認識してしまうだろう。怖いから、関わりたくないのに。
狛枝くんからいらない情報を得てしまったから、気分転換に屋上に来てキャンバスを設置した。希望ヶ峰学園の屋上から見渡す景色はとても綺麗で、何より空が近くて、心が洗われるような気分になれた。良い絵が描けそうだと思ってうきうきしていたら、屋上の扉が開かれて誰かがやってきた。

「っ…」

大和田くん、と今日覚えたばかりの名前を口にしてしまいそうになった。目が合ってしまったけど、ぶつかった時以来言葉を交わしたことが無いし、話すこともない。見なかったことにしてキャンバスに向き直ったのだが、浮かんでいた綺麗なイメージは消え去ってしまっていて、良い絵なんか描ける気がしなくなっていた。絵が描けないのならここから立ち去ってしまおうかと悩んでいたら、いつの間にか大和田くんがすぐ近くまで来ていて、私の横に、少し離れて胡座をかいて座り込んだ。

「…あの、」

話しかけるべきなのか解らないけど、この広い屋上でわざわざ隣に来るというのは、何か意味があっての行動なのだろうと思い、声を発した。しかしそんな勇気をかき消すかのように、大和田くんはギロッと私を睨んできた。意味解んないし怖いし、それ以上何も言えなくなってしまった。真っ白いキャンバスには何も描けなくて、大和田くんのせいで心にもやもやと霧がかかる。黙って横にいられても、困るんだけど。

「…君は授業さぼってていいの?」

私が大和田くんを放置して帰るなんて怖いことをできる気がしなかったから、大和田くんの方から帰ってもらおうと思った。

「いい」

しかし大和田くんからの返事はその一言だけで、また沈黙が生まれてしまった。ヤンキーなんだから授業をさぼるのに抵抗があるわけがなかった。
それから何も喋らず、絵を描くこともできず、ただ居心地の悪い沈黙を過ごしていたら、耐え兼ねたのか大和田くんが口を開いた。

「超高校級の画家なんだってな」
「う…うん、よく知ってるね。…見れば解るか」
「描かねぇのかよ」
「うん…調子悪くて」

もしかして私が絵を描く様子を見に来た?いやそんなはずはない。私がここを気に入っているだなんて、クラスメイトしか知らないことだ。

「…天野先輩の絵、ネットで見た」
「えっ、そ、そうなの」
「俺にはよくわかんなかった」

もうちょっと良い感想を言ってくれるのかと期待してしまった。普段絵を見なさそうな暴走族さんにわかるわけなかったか。ていうか才能だけじゃなくて名前まで知られてたんだ。

「けど、先輩の描く空はすげぇ綺麗だと思った」
「えっ、ありがと!嬉しい!私空描くのすっごく好きで、」

褒められて突然テンションを上げてしまったせいで、目を丸くされる。なんだか気まずくて、目をそらした。

「…だから、いつも力込めて描いてんの」

暴走族の人と仲良くしたいわけじゃないし、フレンドリーに接するつもりもない。偏見でしかないけど、怖いし、怖いことされそうだし、怖い。

「今度、個展あんだろ?」
「…よくご存知で」
「見に行ってやるよ」

偉そうに何言ってるんだこの男は、と思って大和田くんを見てみたら、機嫌良さげに笑みを浮かべていた。そんな風に怖くない顔見せられると、暴走族って何だっけとか思ってしまう。

「俺にも解るようにすげぇの描けよ」
「…うん」

大和田くんはそれだけ言うと、立ち上がって校舎へと入っていった。もしかして、個展を楽しみにされているのか。暴走族でヤンキーの大和田くんに。

「何なの…」

興味を持たれたのは解るけど、怖いイメージが拭い切れなくて、素直に受け入れていいのかは解らなかった。

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