平穏に暮らしたい
「いっくよー!」
体育なんか嫌いだったのに、たまには天野おねぇもやろうよ!と誘われて、無理矢理授業に参加させられていた。
「それっ!!」
最近の体育はほとんど休んでいたから、テニスなんかいきなりやらされてもできる訳がないというのに、日寄子ちゃんは容赦なかった。疲れて休みたいなんて思うくらいに振り回されて、挙げ句の果てにはスマッシュを打たれてボールが遠くに飛んでいった。
「わーい、私の勝ちだね!」
「手加減くらいしてよー」
「ごめんねー?天野おねぇが弱いからつい楽しくなっちゃって!ボールとってきて!」
これからはまた体育なんか休んでやると決意をしながら、どこに落ちたのかも解らないテニスボールを探しに行った。
草むらに隠れてしまったのかと思い、一人寂しく周りを見渡していたら、緑の中にポツンと小さく黄色が見えた。テニスボールだと思って近付いて行ったら、近くの木陰に人を見つけた。
「うわっ!」
それが絶賛昼寝中の大和田くんだったから、余計に驚いた。声をあげてしまったことで大和田くんは目を開き、私を見た。
「あぁ…?な、なんでそんな格好してんだよ」
「なんでって…体育の授業中だし…大和田くんこそそこで何してんの」
ナチュラルに名前を呼んでしまって後悔する。大和田くんも少し驚いた様子だったし、しくじった。
「さぼりしかねーだろ。屋上行ったら他の奴が居たからやめた」
「そ、そうなんだ…」
じゃあいつも通りさぼって屋上にいたら大和田くんも来てたのかな。あ、他の人がいたなら私も絵なんて描いてられないか。
「ごめん、もう行くね」
「…おう。がんばれよ」
体育なんか頑張るつもりはないが、うんと返事をし、テニスボールを拾って走り去った。
「天野おねぇおっそーい!何してんの!」
「ごめんごめん、ちょっと…不良に絡まれてて…」
「不良?もしかして、この前の暴走族の奴?こっわー」
「…」
「え、本当にそうなの?」
日寄子ちゃんは半笑いで聞いてくる。他人事だと思いやがって。
「ってことは今日は天野おねぇの生足に釘付けだったかもねー!」
「は…!?」
そこまで考えていなかったけど、大和田くんは昼寝中だったし寝転んでいた。ということはまぁ視界に私の足が入らないわけがない。だから、なんでそんな格好してんだよ、なんて聞いてきたのか。
希望ヶ峰の体操着の露出の高さを改めて憎んだ。
「一目惚れした相手の綺麗な生足拝んだら、ますます好きになっちゃったんじゃなーい?」
「し、知らないよ!ていうか、一目惚れしたかどうかなんて解んないでしょ」
「だってあの時すれ違っただけなのに今出会って絡んでくるなんて…完全に目をつけられてるよね!」
目をつけられてるのは確かだ。そこは否定できない。
「天野おねぇ彼氏居ないんだし、いいんじゃない?」
「適当なこと言わないでくれるかな!」
「あはは!だってその方が面白いもーん」
もし本当に、好意を持たれてしまっているのだとしたら、私はどうしたらいいんだろう。どうする気も無いのに気軽に接してしまうようなことは、避けるようにしよう。
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