ターゲット
あれから、私が絵を描くたびに彼は現れた。屋上に居れば屋上に来るし、中庭にいても、グランドに居ても、割りとどこに居ても彼は現れた。発信器でも仕掛けられているのか、それとも彼が私を探し回ってたどり着いているのか、それとも、ただの偶然か。現れるたび、とくに何か話す訳でもなく、付近に腰掛けてただそこに居座った。そんなことを繰り返された結果、近くに大和田くんが居ても、ビビることも減り、慣れてしまっていた。
「なぁ天野…ヤバい奴にタマ狙われてるっつーのは本当か?」
「…え、何の話?」
九頭龍くんは唐突にそんなことを聞いてきた。タマって命のことだよね?私いつの間にそんな危険な状況に置かれてたの。
「天野が適当な強そうな奴をボディーガードに雇ってるって噂を聞いちまったんだよ」
「全然知らないんだけど…」
「それって雅ちゃんの彼氏のことじゃないっすか?」
「かっ…」
「それも全然知らないんだけど!?」
なぜか私の知らないうちに私のボディーガードやら彼氏やらが存在することになっていた。そんな噂してる奴は誰なんだ。
「待てよ、何も知らねぇっつーことは、噂の男ってのはただのストーカーか?だったら俺が捻り潰してやるよ」
「えーっでもでも、唯吹はその彼氏さん見たことあるっすよ?ストーカーなんかと違って、ちゃんと雅ちゃんの隣に座ってたっす!」
「…あぁ、」
もしかして、と思ったが、二人が言っているのはどうやら大和田くんのことみたいだ。たしかに、端から見たら何か勘違いされても仕方がないのだろう。
「それ、天野おねぇのストーカーで間違い無いよ」
「じゃあオメー、ストーカーに近寄られても、怖くて逃げ出せなかったってことか?」
「そーだよぉ。だってそのストーカー、超高校級の暴走族だからね!天野おねぇか弱いから、そんな奴に付きまとわれたら怖くて腰抜かしちゃうよねー!」
「暴走族って、後輩じゃねーか。そんなもんにビビってる暇があったら俺を頼ればいいだろーが」
「彼氏だと思って見過ごしてた唯吹を許して欲しいっす!」
ストーカーではないんだけど、つきまとわれてるのは確かで、うまく言葉が見つからない。
「天野おねぇもさぁ、迷惑なら迷惑って言わないと、勘違い暴走族にいつまでもつきまとわれちゃうよ。ストーカーするようなみっともない男、天野おねぇみたいなきちんとした淑女には釣り合わないよ!」
「し、淑女ではないけどね…」
最初の頃は迷惑でしかなかったけど、慣れてしまった今となってはもう、迷惑とまでは感じなくなっていた。だから追い返す気は起きないし、害が無いから邪険にする気も起きてこない。ただそこに居るだけの大和田くんに、どう対応していいのか全く解らなかった。
「何かされたら絶対言えよ」
「う、うん」
もし、万が一にも、害を与えられるようなことが起こってしまったら、その時は極道の九頭龍くんの力を借りることになってしまうのかな。
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